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チュウニでショウゴ  作者: いちの くう
8・ボウソウ
34/43

8-2 着火

 貴方も『主人公・正悟』サイドで推理をしてみてください。

(『リアル推理ゲーム』という表記が適切ではないと思いますが、そんなニュアンスで)



 テーブルを境に座る出題者・祥子と解答者・正悟。

 7回質問可能、解答1発勝負の水平思考の勝負の行く末は。

 勝てば天国、負ければ地獄。かつてそのようななキャッチフレーズを使ったモノは何だったか。祥子の横に置かれた大きな4つの袋が行く末を見守っていた。

 居間にはエアコンがない。首ふり扇風機とテーブルに置かれた麦茶だけが涼をとる手段である中、余裕の笑みを見せながら問題を出す祥子とチラシの裏で挑もうとする正悟の戦いが始まった。

「ちなみに問題は短いから1度しか言わないからね。よく聞いてね」

「え? う、うん」

 祥子の軽いジャブだったが、今の正悟にしてみればすべてが敵からの攻撃。油断はできない。

 いつ口を開くかまじまじと唇を見つめる正悟を祥子は余裕を持って見つめ、そして語りかけるように呟いた。



『子供のためにフランスの香水しか用意できませんでした』



 言いきって、それからしばらくした所で「うぇ?」と間の抜けた声が聞こえた。

「それ……だけ?」

 正悟の質問に祥子は答えない。その反応にYESであると捉えた正悟がひとまず問題を白紙の上の方に書いた。隠しきれていない動揺を存分に見せつけている。

 そんな様子の正悟を見て祥子が再び口を開いた。

「どう、難しいでしょ?」

「えっと、正直に言うとそうだね。あまりに想像以上のレベルで驚いたし、とてもじゃないけどこれから7つの質問で解けるなんてできそうにないよ」

「じゃあ、降参する?」

「いや! せっかくお姉ちゃんが作ってきた問題だから何としてでも解き明かしてみせるよ」

「おー、頼もしい言葉だね。じゃあ正ちゃんの活躍する軌跡をたっぷりと観察させていただこうかな。頑張ってね」

「うん」



 とは言ったものの、どこから攻めればいいのか判断するのがとても厳しかった。

 子供のためと限定しているが用意したのはフランスの香水だ。子供と香水をどうリンクすればいいのだろうか。今時のオシャレな雑誌に載るような子供であれば納得ではあるが、その程度の話が問題として成立するのか疑問である。

 この手の問題は方向性を決めるのがとても重要だ。いきなり具体的な質問をしても空気中の水分を調べているようなもので、それが霧なのか靄なのかヤカンの湯気なのかがわからなければ見えるものも見えてこない。

「じゃあ、まず1つ目の質問。これは日本の話?」

 アメリカにいた祥子の今までの生活とフランスという単語から海外の風土や習慣が絡むのであれば先の質問もかなり変わってくる。これはしっかりさせておきたい内容だった。

「はい。日本の話です」

 感心するような謎の笑みを浮かべながらゆっくりしっかりと祥子は答えた。



「日本かぁ……」

 この時点で未だ巨大ながら方向性は定まった。海外の風習などの心配は無用であり、現存する日本国内の話であるから、漠然としたSF設定な要素もない。昔話に香水は出てこないからむしろ、リアルに現代の日本でないと状況的に理解しにくいものなのだろう。

 日本にいる子供がフランスの香水を貰う。貰ってどうするのか。何に使うのか。色々聞きたいことはあるが、使えるのはあと6回。慎重かつ大胆にいかなければならない。

「じゃあ、2つ目の質問。そのフランスの香水だけど、用意するのは子供の親?」

 最初に浮かんだ仕事的な関わりがあるのかどうかという疑問。子供といっても乳幼児から小・中・高校生まで幅は広い。ましては老人からみれば還暦の息子という話もある。

 そしてとりあえず仕事的な要素が絡むのかどうかが重要に感じた。仮に親でなければ提供者が限定され、背景も見やすくなる。

「はい。ちなみに父親母親のどちらでもいいです」

「えっ、親なの?」

 そこで正悟は少し彷徨い始めた。



 親が子供に香水をあげる。誕生日プレゼントだとしてもかなり特殊な部類だ。正悟は確認せざるを得なかった。

「3つ目。その子供とか両親とか……例えば一般的な家庭より特殊な仕事をしているとか特技があるとか、そんなものを持っている?」

 そう考えるしかない。世間一般で、親が子に香水を与えるなんて話は今まで聞いたことがない。だとすると前回のサラリーマンの話ではないが、特殊な職業が絡む可能性しか考えられなかった。

 しかし答えは期待したものではなかった。

「いいえ。ごく普通の……少なくとも特殊な仕事や特技が絡むようなものではなく、一般的な家族として考えてかまいません」

「えっ!?」

 そんなばかな話があるのか。現代の日本国内でごく普通の家族で、親が子に香水を与える正当な理由なんてあるものか。



 これは現代日本における設定であること。香水は子供の親が用意したこと。この一家には特別な事情のないごく普通の家庭であること。

 これまで3つ質問をして分かった事実だ。

 しかしわからない。少なくとも正悟の学校で香水をしているような女子生徒はいないし、そもそも校則違反だ。

 子供が欲しがっていた香水を両親が誕生日プレゼントに贈った、という答えがおそらく一番有力な可能性だが、仮にこれが正解ならこの場で暴れられる自信がある。そんなちんけな事ではない、正悟がまだ知らない重要事項があるはずなのだ。しかし、その手がかりがなさすぎた。

 例えば子供の年齢。1歳だったら10歳だったらどうなんだという話。

 例えば子供の性別。男とは考えにくいが女だからどうしたで終わってしまう。

 例えばフランス。これがイタリアやアメリカで何かが変わるとは考えにくい。

 出てくる質問が全て意味をなしていなかった。混沌と化してきた中、正悟は目の前にいる祥子の放つオーラにまつわり付かれ、徐々に動きを抑制されていた。

「かなり苦労してるみたいだね」

「おかげさまでね」

「ヒント欲しい?」

「純粋に欲しい……けどいらないよ。フェアじゃないし、それってほぼギブアップじゃん」

「そだね。じっくり考えていいから」

 前回は横やりに苛立っていた正悟だったが、それでも今まだ冷静さを保っていることに素直な感心と成長への尊敬が混ざった感情を祥子は持った。

「4つ目。いくよ?」

 そんな中、後頭部をかきながら正悟の質問。表情を曇らせて仕方なく感がにじみ出ている。

「この一家は普通だって言っていたけど、この家族が置かれた状況というか、住んでいる所というか……そういった環境面も普通だったりする?」

「!!」

 まさかそんな質問がくるとは予想してなかった祥子は脳内を盗み見された気分だった。

「どこからそんな質問が出てきたの?」

「もう何が何だかわからなくなっちゃった。だってこの状況は普通とは言えないでしょ? だからどこかに普通じゃない所があると思ったんだ。だから普通でない、まだ聞いていない所を聞いただけだよ。……変な質問だった?」

「変、というより変人みたいな質問かも。だって正ちゃん……このお話の核となる質問をしたんだから」

「え?」

「質問に答えるね。……いいえ。この話は大きな災害が起こった後の時間軸に置かれています」

「……大きな、災害?」



 正悟は混乱していた。

 話の核となる質問と言われた4つ目の情報が見事なまでに噛み合わなかったからだ。

 この日本でごく普通の家庭である親が子に香水を与えていた。それも災害後の非常時に。おかげで誕生日プレゼント案は完全に消えてくれたが、今度は何一つ試案が出てこない。

 例えば台風被害にあったとある一家が床上浸水の被害の中、子供に「ほら、フランスの香水だぞ!」と与えるだろうか。玉突き事故で被害にあった一家の両親が亡くなった子供の墓前に大好きだったフランスの香水を与えるのだろうか。

 脳内泥沼である。

 そもそも子供が香水を使って何をするのだろう。香水というわけだから通常の使い方しかないのだが、この点ももしかすると特別な使い方があるのではないかと考えずにはいられない。

「これで5つ目か。子供は香水を普通の使い方……で使うんだよね?」

 なんとも馬鹿げている質問だと正悟は思った。どうやら疲れているらしい。これを除けばあと2回しか質問はできない。なのにこんな当たり前のことを聞くとは。

 祥子はこの質問に対して間を置いた。そしてすぐに答えが返ってこない正悟も何かを悟った。

「あれ? また何かあった?」

「正ちゃんが言う普通の使い方って、香りを楽しむ使い方の事だよね?」

「う、うん。他に使い方あった?」

「うふふ。どうだろね。さて、答えは『いいえ』です。それに子供が直接どうこうするわけじゃないよ」

 開いた口が閉まらない正悟。いよいよ謎は深みにはまった。



「どこ行くの?」

「トイレ」

 少しばかりの限界を感じた正悟はこの場を外した。特に尿意を感じたわけではないが、便座に座るなり腿に片肘をついて黙り込んだ。

 脳内でさっきのやり取りをループさせていた。

 香水の使い方は女性が外出時に使う以外の用途を正悟は知らない。母親もめったにつかわないから身近な人物が使うのを見たことがない。テレビのドラマで少し。それにしてもそれ以外の使い方がわからなかった。

「観賞用……?」

 辛うじて出てくるのがそれぞれ特徴のある形の入れ物だ。目の前にあるトイレの芳香剤でさえ堂々と脱臭と書いたものから素焼きで可愛らしいものがある。香水であればなおさらで、女性のファッションの一部であるから見た目も重要であり、コレクション的な要素もあると感じた。しかし使うのは子供なのだが。

「でも、子供は直接使わない……直接使わない……直接……?」

 やはり子供が香水をふりまいて彼氏とデートというような使い方ではなかった。しかし親が子のために直接使うことのない香水を災害後の非常時にわざわざ与える理由がわからない。今の所、祥子の反応から『災害後の非常時』と『子供が直接使わない』の2点が重要な質問であると思っていいようだ。確かに謎解明には重要な情報であるが、今の自分には混乱させる以外の何物でもない。

 まだ何か見落としているのだろう。しかしこうして色々考えても出てくる案や質問は答えにはほど遠いものだった。

「長かったね」

「まあね」

 本来のトイレに所要する時間以上をかけて戻ってきた正悟はもう1枚裏が白のチラシを持ってきた。余白が埋まってきた1枚目を見ながらまとめていく。


『子供のためにフランスの香水しか用意できませんでした』


 最初にそう書いて違和を感じた。

 よく読んでみるとフランスの香水を用意したのは事実だが『しか』という言葉が添えられている。仮にそれ以外に何か別のものがメインなのであれば香水はサブ的な役割を持つ。

「えーと、6つ目か。フランスの香水しか……って書いてあるけど、香水以外にも必要なものがあったの?」

「いいえ、だね。読み方だと思うけど、この『しか』というのは本当は別のものが必要だったんだけど、残念ながらこれしか残っていなかったという感じね。だから完全に代用になるのかわからないけど、そんなニュアンスかな」

「代用? それが香水? 何かの代わりに香水……匂い……虫よけ……体臭……見た目……入れ物……代用?」

「質問はあと1回だから。頑張ってね」

 そう、質問ができるのはあと1回しかない。しかし今この状況を1回の質問で打破できるのだろうか。とりあえずいままでの内容を整理した方がよさそうだ。2枚目の紙に整理しながら書き込んでいった。

「1つ目の質問でこの話が日本国内での出来事だとわかった。つまり質問の内容から歴史の話じゃないのも間違いなさそうだし、海外で適応するかしないかはわからないけど、少なくとも日本国内で成立する話で考えていい」

 整理完了。

「2つ目の質問で子供に香水を与えたのはその子供の両親であるのがわかった。学校の先生とか、近所の人とか友達とかでもなく、両親であることから家族的な話であるのがわかる」

 整理完了。

「3つ目の質問でこの家族に特別な家庭環境はないことがわかった。だから特別な仕事が絡んだり、特技に使用したりなんてものはないのがわかる。人間そのものは普通」

 整理完了。

「4つ目で大きなヒント。この話は大きな災害が起こった後の時間軸に置かれている。……わざわざ時間軸って言葉を入れたのが気になるな。直接被害にあったわけでもないのかな? 例えば大地震が日本を襲ったけど、この家族は震源地から遠い場所に住んでいたとか……時間軸は災害直後みたいな。そんな可能性もあるのかな?」

 保留を含めて整理完了。

「5つ目。子供が香水を直接使う事はないのがわかった。もしかすると子供のために用意しただけで、使うのは用意した両親か別の人……いや、両親かな。両親が子供のために用意して使うって考えた方が自然かも。これはそう考えていいと……思う。多分」

 たまらず祥子をチラ見したが、穏やかな笑みを崩さなかった。

 整理終了。

「6つ目。そもそも本来は別のものを用意したかったけど、なかったので代用でフランスの香水を用意した。これも重要な鍵だと思うんだけど、聞こうにもあと1回だし……」

 とりあえず整理は終了したが、考える余白が広がってまとめきれなかった。それでも答えに多少近づいたようにも思えるのは気のせいだろうか。



「あーーっ!」

 倒れるように後ろへ仰向けになった正悟。あと1回しか質問はできない。もう詰めなくてはいけないのだが現状は詰まされている。一発逆転なんてそう簡単にあるものではないが淡い期待が心の奥底からにじみ出てきた。

 そもそもこの問題を7回の質問だけで正解へとたどり着くことが可能なのか。その辺りを疑うようになっていた。時にラッキーパンチもあったが、それでもここまで何も先が見えないと超人的なひらめきがないと解けない問題なのではないかと勘繰ってしまう。祥子も『自信作』なんてことを言っていた。もしかするとその線がありそうだ。

「あ、ちなみにだけど、普通に考えればこの問題は解けるはずだからね」

「え!?」

 あまりのタイミングの良さに耳を疑った。

「ちょっと正ちゃんが変な顔していたから不可能問題だとか考えていたのかなって思ったんだけど、違った?」

「あ、いや、んと、違うよ」

「んふふ。正ちゃんって意外とウソが下手なんだね。それに思っていたより頭が固いんだね」

「頭が固い?」

「固定概念ってやつ? これは絶対こうだって考えていると一生この問題は解けないからね」

「え? 何か……やっぱり何か勘違いしてるの?」

「さ、ヒn……独り言はおしまーい。頑張って解いてね」

 決定的な勘違い。

 その言葉に正悟はすぐに起き上がり、再び2枚のチラシに向き合った。問題、質問、解答、推論、一字たりとも見逃さないように真剣に見つめた。しかし何も進展はない。紙に穴が空きそうなほど見つめるが何も見つからない。何かを勘違いしている。何かを。

「あーー」

 しかしどれだけ見つめてもわからない。テーブルに突っ伏した。もうだめだ。あと1回質問はできるが、猫の手にもなれやしない使えない質問権だ。この勘違いを……勘違い。勘違いということは、祥子がウソをついているということではない。正悟が偏った考えをしていることである。何かを決めつけている。それは何か。もう一度一から思い出して――

「………………………………?」

 それはたったひとつの言葉。気持ち悪さを感じた正悟は2階から辞書を慌てて持ってきてその言葉を調べた。

「………………………………これだ」

 その気持ち悪さの正体に気付いた正悟はそれを踏まえて再び考えた。

「日本……災害後……親が子供のために、そして子供は直接使わない……代用品……」

 正悟はあの時の出来事を思い出した。

 走馬灯のように幾多の映像が流れる中、その出来事は確かに正悟の記憶の引き出しにあった。とても困っている、そんな事を確かに聞いていた。

「だとすると……最後の質問! その子供はとても幼い?」

「はい。生後数ヶ月です」

 その答えを聞いた瞬間、正悟は天を仰いだ。そして顔を手で覆った。

 10秒、20秒、どれほどの時間が経ったか。首に痛みを覚えてようやく頭を戻し、祥子へ焦点を合わした。

「そっか。確かに僕はとんでもない誤解をしていたんだ。……それにしても祥子お姉ちゃん、やってくれたね」 

「じゃあ、答えを聞こうかな」

 微笑みが悪魔の笑顔に見えたのはその時だ。






 さて問題です。

 祥子との水平思考の問題で苦しめられながらも正悟はひとつの答えを出したようです。

 善意、悪意含めてヒントは出しました。推理してみてください。

 次回の解答編は7月13日を予定しています。

 それまで待てない方はメッセージに解答をどうぞ。簡易判定をさせていただきます。

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