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チュウニでショウゴ  作者: いちの くう
8・ボウソウ
33/43

8-1 火種

 祥子が宣戦布告と勝利宣言をした翌日、正悟はそわそわしながら待っていた。しかし祥子は姿を見せなかった。

 次の日、正悟は来るかもしれない祥子を待った。しかし祥子は姿を見せなかった。

 その次の日、そろそろ来るかもしれない祥子を待っていた。しかし祥子は姿を見せなかった。

 さらに翌日、ぼちぼち来てもおかしくない祥子を待った。しかし祥子は姿を見せなかった。

 5日目以降になると、待つ事を少しずつ忘れていった。そしてその日も祥子は姿を見せなかった。次の日も、その次の日も、そのまた次の日も祥子は姿を見せなかった。



 正悟は友達と遊ぶ約束をしていた。母親・朝子も友人と東京へ出かけていて再び1人だ。

 まだ宿題を程々に残しているのはごく普通の中学生であり、その中で友達と遊ぶのも普通の中学生だ。夏休みにどこにも行かない湯谷家に慣れた1人息子は閉じこもりがちではあるが決して友達がいないわけではない。

「庄ちゃんの家に行くのって久しぶりだなー」

 しかし、久しぶりらしい。

 祥子から『正ちゃん』と呼ばれている正悟だが、学校ではそのまま正悟で呼ばれている身にとって友達の新山庄太郎が『庄ちゃん』だった。その庄太郎は天文同好会に属している。天文といっても、海原中学校に天文台などの特別な設備は当然なく、アマチュア向けの望遠鏡が1台あるだけだ。活動も週2回と実にゆるい。

 その庄太郎と昼は庄太郎の家で、夕方から近くの花火大会に行く予定になっていた。

「そろそろ行こうかな」

 時計を確認して家を出ようとした。靴を履いて焼けるような暑さの外に出て、

「っあーー」

そんな声と共にひどい懐かしさが込み上がってきた。

 祥子がいた。赤のMINIを降りてどこのセレブの買い物だと言わんばかりの大きな買い物袋を4つほど手にしていた。

「正ちゃん、良い所に……って買い物とかじゃないよね?」

「うん。友達の所に遊びに――」

「そうなんだ……そうなんだ……」

 両手に下げた荷物をチラ見し、

「そっか……そうだよね……そっか……」

とても哀しそうに、

「どうしようかな……そうなんだ……」

呆然と立ち尽くす、

「しかたないか……そうだよね……はぁ……」

祥子の横を、

「正ちゃんに罪はないもんね……そうだよね……私が悪いんだもんね……」

堂々と素通りはできなかった。

「あのー、今日は何か用があってきたんだよね?」

「……正ちゃんには関係ないよ。早く遊びに行けばいいし」

 確認するも、どうやらいや完全に祥子は不貞腐れていた。

 これはマズイ。正悟の脳内では警告音が鳴り響いていた。おそらく客観的にはたいした用ではないはずだ。しかし将来性を考えるに、たった1日の夏の日の出来事では済まされない隠しきれていないオーラを感じ見て取ることができた。

 その瞬間、天秤の針が小さく傾いた。正悟の顔の筋肉が緊張し弛緩した。

「正ちゃんには……関係ないよ……」

 たたみかけるようにつぶやいた言葉にその針は振り切った。

「えっと、家に入る?」

「うん!」

 祥子の笑顔を見てホッとしたような、同時に庄太郎に対して申し訳ない気持ちでいっぱいになる正悟は家に入るなり即座に電話をし、何度も何度もその場で携帯片手に平謝りして夕方の花火大会から遊ぶ連絡を入れるのだった。



 居間にて。テーブルに麦茶が入った2つのグラス。正悟は座布団の上で正座をし、反対側の祥子は4つの袋を横に置いて足を投げ出して座っていた。

 どこかで見た光景。一般にこういった現象をデジャヴというが、その原因はすぐにわかった。

「もしかして、例の問題を作ってきたの?」

 それにしては4つの大きな袋が全くの謎なのだが、一番高い可能性はこの答えだ。

「正解。さすが正ちゃんだね」

 簡単に正解してしまった。確か2週間ほど前に武勇伝を見たいみたいなノリで付き合わされた中で、祥子が極上の問題を作ってくるとかそんな一方的な約束を交わしたはずだ。

「それで、それは何?」

「これ? えーと、ご褒美、かな?」

 おどけた姿が正解ではないのを物語っているが、強ちウソでもなさそうだった。一瞬ムッとした正悟を見てすぐに訂正をした。

「あぁ、ウソウソ……ウソじゃないけど。えーと、問題を解いたご褒美でもあり、罰ゲームでもあるかな?」

 その説明が真であるようで、自分自身でも納得しながらの説明に正悟も理解の表情をした。

「本当に作ってきたんだ」

「もちろん。自信作なんだから」

「それで、条件は?」

「解答は1回きりの1発勝負。あの時も7回の質問だったから、私の出す問題に正ちゃんが7回の質問をして真相にたどり着いてください。勝ったらご褒美、負けたら罰ゲームだからね」

 おそらく今この場でご褒美や罰ゲームの内容を聞いても答えてくれないだろうが、あの4つの袋が関わっているのは間違いなさそうだ。

「……うん。わかった」

「じゃあ、問題出すよ」

「ちょっと待って!」

 言うなり裏が白の広告とボールペンを持ってきた正悟。祥子は不敵な笑みを浮かべた。

「さすが正ちゃん。それくらいの気持ちで挑戦してくれないとね」



 そして2人の水平思考による戦いが始まった。

次回更新は1週間後です。

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