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チュウニでショウゴ  作者: いちの くう
7・カクリツ
32/43

7-4 本作品はネタバレ禁止となっております。

前回のQ&Aのまとめです。


『あるサラリーマンが寝坊をしてしまい、いつもより30分遅れて家を出ました。しかし、いつもと同じ電車に乗りました』


Q1:「いつも長時間ホームで電車を待っていたか?」 

A1→ 「いいえ。電車にちょうど間に合うような時間に着くようにしていた」

Q2:「30分というのは重要か?」 

A2→ 「はい。だが、あくまで参考になる数字。10分や1時間では説明しにくい」

Q3:「普段は徒歩でその日はバスを利用した?」 

A3→ 「いいえ。そのような駅までの通勤手段の変化はない」

Q4:「サラリーマンの仕事は関係あるか?」 

A4→ 「いいえ。普通のサラリーマンとして考えてよい」

Q5:「電車に乗るまでの道のりに秘密はあるか?」 

A5→ 「いいえ。駅までのルートも変わらない」

Q6:「電車のダイヤはいつも通りだったのか?」 

A6→ 「はい。電車の運行に変化はない」

Q7:「電車は同じだったということだが、乗った時間も同じだったか?」 

A7→ 「いいえ。家を出るのが遅れた分だけ乗った時間も遅れた」


 正悟の問題にギブアップ宣言をした祥子。元々あまり解く意志は低かったため、どちらかというと悔しさよりも考えすぎた疲労感がありありと見てとれた。

「えーと、解説していくよ。質問と答えをまとめると、ごく普通のサラリーマンが寝坊をしていつも通りに駅に向かって、電車に乗った。乗った時間は違うのに電車は同じだった。これによる運行側のトラブルとか一切ないみたいだから、男性の普段の行動が何かしらの鍵を握っていると考えるのが筋だよね」

「その辺までは何となく理解できたけどその何かしらの鍵が全然思いつかなかったのよ」

「例えばバスだと駅を出発してとある停留所を通って、色々回ってまたその停留所を通って駅に戻る……なんてことがあるけど、電車だとそうはいかないよね」

「そうだね」

「じゃあ、ある駅に電車Aが通って、しばらくして再び電車Aが同じ駅を通ることって何か考えられない?」

「え? 短時間に同じ駅を通る? ……行き来をするくらいしか――」

「そう! 電車の行き来、つまり折り返し運転だよ。最初に下り電車とかでその駅を通って、その先に終点があって、再び上り電車として今度はその駅を通ったんだ」

 そこで祥子は瞳孔と口を開き、話の全貌が見えた表情をした。

「そっか。サラリーマンだから朝の通勤ラッシュで席に座るために、上り電車じゃなくてその前の下り電車の状態から乗り込んで、折り返し運転で座ったまま再びその駅を通った。つまり、普段は下り電車で、寝坊した日は上り電車に乗ったということなんだ」

「うん。ちょっと言葉の綾だけど『同じ時間の電車』じゃなくて『同じ電車』に乗ったというのはそういった意味だよ。ただ最近だと駅によっては一度出なくてはいけなかったりして、ずっと座っていられるわけではないみたいだけど」

 問題の出来具合にちょっと納得がいかなかった正悟は謙遜して少し顔を赤らめた。しかし祥子は興奮しっぱなしだ。

「正ちゃん、すごい! よく短期間にこんな問題思いついたね。最初絶対わけわからない答えが出てくると思っていたけど、筋が通っていて今考えれば関係ない質問とかも可能性を潰すための大切な質問だったんだね」

 祥子が馬鹿ではないのを正悟は知っている。今回の問題が解けるかは不明だったが、解説をしても理不尽な文句を言ってくるような頭の持ち主ではないのも知っている。では今回の例題に対して謙遜している正悟が大絶賛する祥子とその行動を知ることができただろうか。

 テーブルを回ってきた祥子が大きく手を広げた。そしてその輪の中に自ら飛び込んだような錯覚を起こさせる厚い抱擁が待ち構えていた。

「こんな正ちゃんが見られるなんて私って幸せー」

 そんな年でもなかったのであえて表現しなかったが、『せ』に小さな『え』をつけて、『ー』が波打っていて、それが7つくらい伸び、終わりに8分音符が付かんとばかりの甘ったるい声。

 三十路過ぎてからのフェロモンとうだるような暑さで中央に集まる汗のダブルパンチを正悟は複雑な気分で食らうのだった。今回は特別な下心がないように思えるが、受ける立場にしてみればそう大きな差はない。暑さに比例する皮膚温度と汗の量、それに変わらない圧力。未だ慣れないこの行為を正悟はただ無心で乗り切ろうとするのだった。

「私決めた」

 祥子は決意を秘めた表情をした。引き離された正悟はキラキラと薄らと顔を赤くしながら見上げた。

「正ちゃんが納得する問題作ってくる!」

 自分自身でハードルを上げたが、どこか嬉しそうだ。

「それで絶対に解けない問題を作ってくる!」

 自信に満ちた、そして正悟としてはよろしくなさそうな、企みを多分に含ませた顔を見せた。情けない表情で見つめる正悟にウインクで返した。

 こうしてお目当て以上の正悟の姿を見る事ができたので、満足した祥子は次回の予定を確立させて帰っていった。




 7・カクリツ  完

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