7-3 海亀のスープ(正午過ぎ風)をどうぞ。
祥子と正悟がテーブルを挟んで向かい合って座っている。
「お姉ちゃん、うみがめのスープを知らないの?」
「うん。何だかとても美味しくなさそうだけど」
「実在の料理じゃないよ。うみがめのスープって言うのは一種の推理ゲームの名称だよ。ひとつの不思議な結末があって、それが起きる自然な流れや展開を質問だけで答えるってやつ」
そこからしばしの間。
「……何だかよくわからないけど、何となくはわかったかな?」
「えーと、例題を出せばいいんだよね。えっと……」
正悟が考え込む仕草をして、仕草をして、たっぷり仕草をして、ひとつの例を出した。
「適当だけど、例題を出すよ。『あるサラリーマンが寝坊をしてしまい、いつもより30分遅れて家を出ました。しかし、いつもと同じ電車に乗りました』こんな感じで少し不思議な出来事があるから、その舞台背景を推理して、質問をして謎を解くってゲームだよ」
「なるほど。……で、答えは?」
祥子の返事に正悟はさらに険しい顔になった。
「……ためしにもう少し挑戦してみない?」
せっかく問題作ったんだから、とそんな言葉が付けられている訴えだった。
「そっか、色々調べて真相に迫るゲームなんだね」
「うん」
「よーし! ……じゃあ、いつも30分ホームで電車を待っていたから?」
「違います。いつも30分待つ人ってどんな人?」
「そんな人だっているかもしれないでしょ?」
「確かにいるかもしれないけど、話にリアリティーを出してよ。誰もが納得するような理由でさ」
「ちなみに30分っていうのは重要なの?」
「目安だと思っていいよ。10分だったら、間に合う可能性があるでしょ。かといって1時間だと現実的じゃないし」
「あ! 普段は徒歩だけど、その日はバスを使ったんだ!」
「違います。バスを使って間に合うような距離を普通は歩かないでしょ」
「でもそんな人も――」
「いるかもしれないけど、そんな特殊な条件じゃ問題にならないでしょ!」
至極もっともな指摘をされて祥子がうなだれた。
少し強く言いすぎたと反省した正悟は優しく語りかける。
「えっと、こういった問題はいきなり答えを当てるんじゃなくて、キーワードになる所やシーンから聞いて、ポイント絞るのがセオリーなんだ。さっきの『30分は重要か?』とかがそうだね。他に『サラリーマンの仕事は関係あるか?』とか『電車に乗るまでの道のりに秘密はあるか?』とか」
「じゃあ、その2つ」
「えっと……サラリーマンは普通の人と思っていいです。関係ないね。それと駅に行くまでの道のりも変わらないし関係ないよ。普通に駅に行くだけ」
「それじゃあ、普通に駅に着いちゃうでしょ。どうやったらこの30分の差を自然に埋められるわけ?」
「えっと、降参する?」
「しないよ! だからヒント頂戴!」
ムキになっている祥子はまるで少し前の正悟のようだった。しかし降参しないけどヒントが欲しいなどという矛盾した発言には正悟も困った。
「えっと……例えば『電車のダイヤはいつも通りだったのか?』とか」
「じゃあ、それ!」
「電車は時間通りに走っていました」
「尚更おかしいでしょ! 駅に普通に着いて、電車もいつも通りに走っていたら間に合わないし。それにさっきから的外れな質問出さないでよね!」
それに答えを言うわけにもいかず、だからといってハズレの質問を参考に核心に迫ろうとする意欲もない。出題者自らが最適なヒントを出すのが至難の業だった。苦心の思いで一気に難易度を下げた。
「だったら『電車は同じだけど、乗った時間も同じでしたか?』とかは?」
「じゃあ、それ!」
「電車に乗った時間は違います。おおよそ出るのが遅れた分だけ乗った時間も遅れました」
「尚更変でしょ! 同じ電車なのに時間が違うなんて」
「まさか車体番号がたまたまいつも乗っている電車と同じだったなんてわけじゃないでしょ?」
「違います。いつもと同じ電車なんだから、それだと昨日とは一緒かもしれないけど、いつもと同じ車体番号の電車に乗れるとは限らないでしょ? そんな言葉の綾だけで成立させたらダメだよ」
「もうダメ。ギブ」
疲労困憊で知恵熱を出したかのようにテーブルに倒れこんだ祥子。どうやら初挑戦では難しかったようだが、正悟の質問の出し方も意地悪だったかもしれない。
さて、久しぶりに問題です。
いくつか可能性はつぶしましたがまだ核心に迫る質問がない中、現段階で当てはまる答えを考えてみてください。
矛盾していなければ正解ですし、その方が次回の解答編をより一層楽しんでいただけるかもしれません。
次回掲載は1週間後です。




