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チュウニでショウゴ  作者: いちの くう
6・ゲーセン
28/43

6-10 一方別の盗難事件は……

 無事に解決した後の美樹の様子を見ていると柚里香の言っている事が間違いではないと気付かされた。鞄につけられた無数のキーホルダーからベーベアのものを謝罪の意味を含めて柚里香に渡していた。

「いいんですか?」

「うん。好きなものであれ他人のものを盗んだ私が持っているようなものではないからね。ベーベア好きに相応しい人が持つのが正しいと思うんだ」

「ありがとう。……でも美樹さんにはベーベアを好きでいてほしいから持っていてほしいの。ベーベア好きに悪い人はいないと思うから」

「そっか。柚里香ちゃんにそんな事言われたら完全に私の負けだね。……じゃあ、私らそろそろ帰るね」

「うん、じゃあね」

 美樹が柚里香らとさよならをして、正悟の前に来た。

「君の推理力には脱帽だね」

「たまたまだよ。運が良かったんだって」

「運も実力のうちだし、それにあれに気づくのは運じゃできない事だよ。敵ながらかわいくてかっこよくて見惚れちゃった」

「え?」

「じゃあね、『正ちゃん』!」

 美樹の言葉に何かしらを感じ取った周囲が何かしらの嫌な予感をした、次の瞬間――美樹が正悟の唇にキスをした。

「!!!!!」

 2秒ほどして正悟から離れると美樹は笑みを浮かべて事務所から立ち去った。その後に狼狽える朱美も続いた。

「……」

 唇に残った感触と移ったキラキラ、そして記憶の中で誰ともしたことのない唇とのキスを今この場で経験してしまった正悟。

 あの抱擁の時に躊躇したキスをいとも簡単に、しかも唇へ堂々とやってのけた美樹に対する怒りと行為そのものの衝撃に言葉を失って立ち尽くす祥子。

 1日に2度自分の目の前でキスをした美樹に嫌悪と興味が入り混じった感情を持ちながらも行為の衝撃に言葉を失って立ち尽くす柚里香。

 かわいいのなら誰でもいいという言葉に偽りなく実行に移した美樹に半ば感心とやはりそれ以上の衝撃に言葉を失って立ち尽くす薫子。

 静まり返ったこの場をどうすればいいのか考える店長。

 後に残ったのはヌーの大群が通り過ぎた後のような散々たる光景だった。

「な、何なのあの女は!」

 年の功か反応が早く戻ったのが祥子だった。

「人の正ちゃんになんて事をしてくれるのよ!」

「お姉ちゃん、落ち着いてよ……」

「落ち着いていられるわけがないでしょ! ……もしかして今のがファーストキスだったりしないよね?」

「え、いや、あの……」

 その反応を見て激しく落ち込む祥子。正悟もそこまで気の利いた言葉も言えずに今更何を言っても遅く、どうしようもない空気に満たされていた。

「ちょっと、聞きたいことがあるけど大丈夫?」

 そこに入ってきたのは意外にもそれまでほとんど話すこともなかった薫子だった。2人のやり取りを見てなのかどこか楽しそうな笑みをしている。

「何?」

「最初私も見た目であなた達を親子だと思っていたんだけど、さっきから『お姉ちゃん』だとか『私の正ちゃん』だとか言っているけど2人はどういう関係なの? 姉弟には見えないのだけど……」

「あー。えーと、僕とお姉ちゃんは家が近くて小さい頃からの知り合いみたいな……感じかな。ね?」

「え? うん、そうそう。正ちゃんのお母さんと仲が良くてその子供の正ちゃんはそれこそ生まれた頃からの知り合い……みたいな感じかな」

「へー、そうなんだ。それにしては仲が良すぎるから特別な関係なのかと思ってた」

「そんな……事はないよ。よく遊んでもらってる優しいお姉ちゃんだよ。ね?」

「うん。そうそう」

「そう。なら安心した」

 安心という言葉を裏づけるようにさらに表情が和らいだ。最初に会った時から先ほどまで笑みを見せる事もなかった薫子。その警戒心を解いて露出した無防備さが正悟の心に少しだけ入り込んだ。そして生まれた正悟のスキに――


 薫子が正悟の頬にキスをした。


「友達を助けてくれてありがとう。追い込む所とか見ているこっちもドキドキしてとてもかっこよかったよ。少しだけ惚れちゃった」

 顔を赤らめながら告白ともとれる薫子の台詞に正悟よりも先に反応したのは柚里香だった。

「薫子ちゃん、それないよ! 私だって最初からかわいくてかっこいいと思ってたんだから!」


 そして柚里香も反対の頬にキスをした。そして正悟の手をしっかりと握った。


「今回は私が助けられたんだから、私が本来先にするはずなんだけど……。とにかく本当にありがとう! ありがとうしか言えないけど、とても嬉しいよ。その……かっこよかったしとてもドキドキしたし、少なくとも薫子ちゃんより好きである自信はあるから!」

「う、うん……」

「柚里香、そろそろ帰ろうか」

 いい所で声がかかった事に不満顔の柚里香。

「えー、もう? もっとお話したいのに」

「本命様を待たせすぎよ」

「え?」

 その声に合わせて薫子と柚里香が、遅れて正悟が視線を一点に注いだ。祥子だった。

「え、私? そんな本命だなんて、これだけ年が離れているのにそんなことあるわけないじゃない。大人をからかっちゃだめよ」

「そうですか。私たちがキスした反応が近所のお姉さんという感じではなかったので」

「!」

「気のせいでしたら謝ります。ごめんなさい」

「え……そんな、謝ることなんかないって。怒ってもないんだから」

「ありがとうございます。……柚里香、帰るよ」

「うん。……今日はありがとうございました。また会ったらその時わぁー! 薫子ちゃん、服引っ張らないでって! じゃあね、ありがとー」

 最後は時間稼ぎをする柚里香を薫子が襟を掴んで事務所を去るのだった。



 帰りの車内にて。

「今日は盛りだくさんだったね」

「そうね。ぬいぐるみももらって、また正ちゃんのかっこいい姿を見る事ができて良かったよ。……正ちゃんも3つもプレゼントもらってよかったね」

「3つ? ……あっ! あれは、その、不可抗力で――」

「この年代でもその年で1日3人の美少女にキスをされることなんてありえないからね。私より若くて羨ましいなー」

「あの、怒ってる?」

「全然! 私の正ちゃんが大きくなって羽ばたいていくのを見れて嬉しいよ。これからもどんどん世界にはびこってほしいわね」

「それ、良い言葉じゃないよね」

 どうやらというか祥子はご立腹モードだった。


 さて、『ベーベアの小銭入れ』の盗難事件は解決した。

 しかし『正悟のファーストキス』の盗難事件が解決する日はもう少し先になりそうだ。




 6・ゲーセン  完

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