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チュウニでショウゴ  作者: いちの くう
6・ゲーセン
24/43

6-6 攻撃はかわされるが

 決して広くはない事務所に7人が座っていた。

 入口から見て奥に座るのは女子高生2人組。オレンジに染まる髪を腰まで伸ばし、中が見えるかギリギリのラインのスカート丈で足を組んでいるのは先ほどまで祥子と争っていた松井美樹(マツイミキ)。そして同じ制服を着ている赤系の短髪でつり目が怖い印象を与えるも美樹に対して金魚の糞状態である三村朱美(ミムラアケミ)。

 テーブルを挟んで入口側に座るは4人。やたら感情が豊かだった赤ぶち眼鏡の小野柚里香(オノユリカ)。同じ西中でおそらく柚里香のブレーキ役であり文学少女という言葉が似合いそうな銀ぶち眼鏡の小宮薫子(コミヤカオルコ)。その2人を前にして後ろに正悟と祥子がパイプ椅子に座っていた。

 そして中央には店員から事情を聞いた30代のまだ若い店長が1人。計7人での話し合いとなった。

「えーと、君が財布をプリクラの中に置き忘れてしまい、それをこの子たちが取っていった、ということでいいのかな?」

 店長の要約に異議を唱えるのは美樹だ。

「私ら財布なんて知らないし、取ってもないし。それに私がここに来てあげたのはそこの小さな名探偵君の話に興味があったからなんだよね。どうせ無実なんだからくだらない話なんてしないでお姫様を救う名探偵君の話を聞かせてよ」

 既に話の整理をするために財布を無くしたのは柚里香であることは美樹たちに伝えており、迷える女の子を救う勇者気取りの正悟を目の敵にしているようだった。物理的にも立場的にも完全に下に見られた正悟を他の6人が注目した。

「まず、なくなった財布はどんなもの?」

「えーと、コレの顔だけの部分の小銭入れ」

 柚里香が指さしたのはスクール鞄についているマスコットだった。例の祥子が狙っては失敗したショッキングな色をしたクマだ。

 それを聞いた美樹が自分の鞄の中を確認して、あろうことかソレを取り出して机の上に堂々と置いた。

「!」

 全員声も出なかった。正悟でさえ出すのを多少は渋ると予想していたのだから。

「これは自供とみていいのかな?」

「私は今この名探偵君と話をしているんだから少し黙っててくれないかな!?」

 店長が口をはさむとすかさず噛みつかんばかりの態度を美樹はとった。しかし強い口調に場が静まり返ってしまい、その空気を読んだのか正悟の方へ顔を戻して謝った。

「ごめん。で、この小銭入れはどうしたのか聞きたいんだよね? 私のだよ」

「……」

 その言葉に誰も何も言えない。

「そこの彼女が何を言っているかわからないけど、このベーベアの小銭入れは私のものだよ。私もベーベア好きだしね。ほら」

 そういって、美樹は自分の鞄に付けられている無数のキーホルダーからベーベア(というキャラクターらしい)のを見せつけた。

「それにこれはプライズだから、同じものを持っている可能性が極めて高いわけでしょ。ゲーセン好きが集まっているんだから。同じものを持っているだけで犯人だなんて勘弁してほしいね。もっとそれ以外の突破口はないのかな、名探偵君?」

「その中のお金の金額、を知っているなら自分の物である可能性はあるよ」

「へー、じゃあ彼女に聞いてみようか。なくした自分の財布にはいくら入っていたのかな?」

「えっと、千円札が……2か3枚は入っていて、百円玉も何枚か入っていました」

「じゃあ、確認してみようか」

 美樹が小銭入れのファスナーを開けてお金を取り出した。

 まとめて折りたたまれた千円札が2枚、そして百円玉が2枚、つまり2200円が入っていた。

「言った通りだね」

 正悟は気持ちを抑えながら安堵した。しかし美樹は全く動揺もせず、再び反論するのだった。

「言った通り……とはよく言ったもんね。今さっき何て言ったかわかる? 千円札が2~3枚って、2000円と3000円の差は大きいと思わない? それにさっき机に置いた時小銭の音がしたけど、それで推測したという可能性はゼロなの? 一円玉のような軽い音はしなかったし、小銭が大量に入っているようにも感じられない。ある程度重量感があったからメジャーな百円玉を言ったという可能性だってあるでしょ? それに枚数ですら言ってなかったし。小銭入れに入る程のお金と、音でそうジャラジャラ入っていない事を考えればある程度絞れると思うのが普通だけど、それについてはどう思うの? それともこんな純粋でかわいい女の子はそんな事を考えないとでも言うつもり?」

「……それでもかなり的確な金額を言えた点は小野さんのものである可能性を落としてないと思うよ」

「へー、じゃあ私は念のためそうでない可能性を高めておこうかな。この中の誰でもいいけど、毎日見ているはずの、今持っている自分の財布の中の金額を的確に言える人は手を上げて」

 少しばかりの静寂の間が訪れた。正悟は手を上げることはできなかった。美樹はニヤリと笑みを浮かべた。

「ほら、毎日見ている自分の財布でさえ普通は知らないのに、この子は言い当てた。普通は正確に把握してないのにね。もちろん覚えていれば当てられるけど、自分の財布でなくても何かのきっかけでお金を出している時に視界に入った場合だってわかるし、推理でも近づけられる。つまりは証拠にならないって事よ。わかったかな、名探偵君?」

 正悟が弱いわけではないが、相手の美樹が決して口で負けていなかった。気の弱い者であればこの辺りで既に投了しているはずだ。まさかここで破れるのか。正義が負けてしまうのか、それとも偽物の正義でしかなかったのか。

 この話題で引っ張るにはもうネタがない。しかも相手は一切の妥協をしていない。別の角度からチャンスを狙うのが得策だと正悟は判断した。

「じゃあ、プリクラを確認させてくれないかな?」

「は? 何で?」

「やっぱりあの時の行動がどうしても引っかかるんだ。外に出てきた写真を取ってから一度中に戻って再び出てきた時にぶつかった、って時間軸だったと思うけど、その感覚がしっくりこなくて。だからまずさっき撮った写真を見せてほしいんだ」

 もしこれでプリクラを撮っていない事実が判明すれば、プリクラ内に入るも撮らずに出てきた、という摩訶不思議な事象を突くことが出来る。内側の財布が無理なら外側から攻める計算だった。

「嫌、と言ったら?」

「どうして、って聞くかな」

「じゃあ、やっぱり嫌だね。理由は2つ。1つ目は写真は私たち2人だけの大切な絆の印だから。2つ目はどうせ見せてもさっき撮ったという証拠にもならないでしょ。デジカメじゃないんだから日にちも載らないし。見せるだけ無駄だよ」

「……店長さん、機械を調べる事はできますか? ネガとかデータみたいなものを確認したいんですけど」

「プリクラの? ……昔はお店側が直接確認できる機体もあったけど、最近はどれもできなくなっているんだ。データは必ず残ってはいるから後でなら確認はできるんだけどね」

「そうですか……。あ、防犯カメラは? プリクラ周辺のカメラはありますか?」

「……直接映しているものはちょっとね……両替機とか出入り口やカウンターなどで店内の全てはカバーできていないんだよ」

「そうなんですか……」

 どれも正悟の期待を裏切る答えだった。警察官でもないから美樹の所持品を強制的に調べることもできないし、防犯カメラという頼みの綱も断たれた。果たしてまだ突破口はあるのだろうか。

「どうやら名探偵君はあまりゲーセンには来ないみたいだね。プリクラの写真が確認できないようにしてあるのは常識でしょ。昔は防犯で確認できたらしいけど、個人情報の扱いがうるさい世の中でそんな甘い考えが通用するとでも思ったの?」

 腕を組み余裕の表情の美樹と鋭い視線の朱美と今は14歳の少年に頼るしかない他4名の視線が集まっていた。

 正悟は黙り込むしかなかった。

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