6-4 困っているのをみて
それから祥子たちはシューティングゲームをやった。それぞれ1回ずつコンティニューをして、祥子は2面の途中まで、正悟は2面のボスまで行った。
「流石は正ちゃんだね。久々に男の子らしい所を見る事ができたよ」
「えー、それって今まではどうだったの?」
「私にとってはかわいい男の子だけど、世間一般での男の子らしさって言うのかな、たくましい姿って滅多に見る事ができないから改めて惚れ直しちゃった」
褒められた、のだが部分的に今までたくましくなかったと言われているようで少し複雑な正悟。しかし客観的に見て正悟が決して男らしいキャラクターでなく、低身長で童顔のかわいらしい男の子であるのは自分自身でも理解している。
「このゲームだって誘拐された彼女を助け出すんだよ? 銃を片手に立ち向かうなんて惚れちゃうな」
「うん。でも死んじゃったし」
「それはゲームだからね。正ちゃん真面目すぎだって。結果よりも大切なのは気持ちとその行動なんだからね」
頭にポンと手を置かれた。
これに何か特別な意味を感じたのは気のせいだろうか。そういえば先日祥子のゴンドラでの行動はまさしくそれに該当するものではないのだろうか。
伝えなくても伝わるものはある。その逆も然り。祥子は想いを伝えた。果たして正悟はどうだろう。
「よし。じゃあ、せっかくだから記念にプリクラ撮ろう!」
難しい顔をしていた正悟とその空気を払拭するように、祥子は強く元気な声をかけた。肩に手を回してギャルっぽい女の子の顔がドアップの機体の中に入ろうとした。
「きゃ!」
すると中から女子高生らしき2人組が勢いよく出てきた。そのままぶつかるという直前で祥子が身体を斜めにして避けようとし、衝突寸前の所でバランスを崩して尻もちをついた。2人組は減速することも避けることもなく無言でチラ見をするだけでその場を離れた。
「大丈夫!?」
「何あれ。最近の子はごめんの一言も言えないのかしら」
そんな年寄りくさい事を言いながら立ち上がり、祥子は中に入ろうとして再び邪魔をされた。
「ごめんなさい!」
滑り込むように1人の制服を着た少女が祥子より先に中へ入ったのだ。
「あれ?」
正悟が気付いた、遅れてくるもう1人の少女。銀ぶち眼鏡をかけた薫子と呼ばれていた少女だった。ということは――
「ないよ!」
顔を出したのは赤ぶち眼鏡の柚里香。先程までの笑顔はどこへ行ったのか焦りを隠せていない。
「あら、どうかしたの?」
「財布をなくしてしまって、ここに来た時にはあったので、置き忘れたと思ったんですけど。でも見つからなくて……」
「お姉ちゃん!」
真っ先に気が付いたのは正悟だった。すぐに祥子もその意図を理解した。まさかとは思うが、不自然に急いでいたように感じた2人組。
真っ先に動き出したのは祥子だった。すぐに正悟も後を追った。女子高生らしき、面倒なので女子高生とするが、彼女たちが去った出口の方へ駆け出すとすぐに2人の姿が確認できた。
「ちょっと!」
祥子が叫ぶと、反応して振り返る2人組。そして色々な疑惑を決定づけるかのように走って逃げ去った。後ろにいた正悟が追いかけようと再び駆け出そうとして――とても珍しいものを見た。
祥子が正悟より速く走っていた。
ヒールを履いた三十路過ぎている祥子がスニーカーを履いた中学2年の正悟よりも速く走っていた。駆け足の祥子自体が初見であったが、見た目を見事に裏切る速さに驚きつつ、2人の差は広がっていた。
周囲に響くヒールの音が2人組に襲いかかり、ゲーセンから100m手前の所でついに追いつき、手首を掴んだ。
「何すんだよ!」
腰に届きそうな程の長髪をオレンジ系に染めた少女が抵抗しながら声を上げた。
「何するんだ、じゃないでしょ。返してもらいに来たのよ」
「返すって何をだよ。私は何も預かってないけど?」
「預けたんじゃなくて、さっきのプリクラの室内に置いてあったものよ」
「置いてあった? 何もなかったよ。ねえ?」
少女が振り返り、もう1人の女子高生、短髪を赤系に染めた少女に聞いた。
「あ、うん」
祥子が簡単に仕掛けたトラップには引っかからなかった。あえて問題となるお金の正体を隠してボロを出そうという作戦だったが、ただのバカな学生ではないようだ。それとも本当に無実なのかもしれない。
そもそもあのプリクラの機体内でお金を忘れたという話も絶対的なものではない。たまたまそれよりも前に懐疑的な事象があったから結びつけたわけで『機体内に置いてあったお金を女子高生たちが盗んだ』というのはこちら側の勝手な作り話だ。
「ほら。もういいでしょ、おばさん」
「お、おば……!?」
そんなところでの一言が祥子なりに色々と考えていた案を吹き飛ばした。ここで言い争っていても埒が明かない。しかし、しかしこれだけは言っておきたい。確かに目の前の2人よりは年上であるがそのような事を言われる筋合いはない。
そこで3度目のしかし、祥子が汚い言葉を言う前に間に入ったのが正悟だった。頭上に暗雲を作らせていた祥子を助けるため、この場に加わったのだ。




