5-2 正悟の依存
結局2つとも乗った。
ジェットコースターでは手をつなぎ、お化け屋敷では腕を組んだ。
ジェットコースターでは席が固定されているため密着には至らなかったが、それでも正悟の耐える表情を堪能し、漏れる声を聞き逃さなかった。足がふらつくまま正悟を連れて入ったお化け屋敷では自然と正悟から密着してきて文字通りに胸を貸した。かつてない密着具合だったが、そっち方面へ回路をつなぐ余裕もないほどの怯えきった様子だった。これぞ役得。
「…………」
しかしやりすぎたようだ。心ここにあらずの状態の正悟はどこか青白く見えた。あわよくばもう1周したかったが、このなれの果てを見ると流石の祥子でも可哀想に思えた。
「ちょっとベンチで横になろうか?」
「ん……いいよ。ちょっと座る」
見るからに横になった方が良さそうなのだが、拒否する正悟。祥子はしばし悩んで1つの提案をした。
「いってらっしゃーい!」
バタンと係員が扉を閉め、2人だけの空間が完成した。
観覧車。人目を気にしていた正悟への最大の配慮だった。その空気を感じ取った祥子はコレを進めてまだそれほど並ぶことなく乗ったのだった。
3人ずつの6人乗り。靴を脱ぎシート上に膝を立てて横になった。背が低いからできる体勢だ。祥子は自分の腿に頭を乗せ、目を閉じる正悟を見つめながらやさしく頭を撫でた。
「ごめんね、正ちゃん」
「何が?」
「私の無理に付き合っちゃって」
「別に……いいよ」
「今日だってさ、私が無理に誘って正ちゃんが来てくれてさ。すごく嬉しかったんだよ。だから色んな乗り物乗って楽しみたかったの。でも私のわがままに振り回されてこんな事になってさ、正ちゃんの彼女失格だよね」
「そんな事……ないよ。お姉ちゃんがなんて言おうと乗るって決めたのは僕だし。弱すぎた僕が悪かったんだよ。謝るのは僕の方だって」
「……正ちゃんはいつの間にこんな事を言えるようになったんだろうね。賢くてかわいくて優しいなんて。ますます好きになっちゃった」
密室の空間で意味深な言葉だったが、生憎今はそのような空気ではない。ゴンドラはゆっくりと上昇を続け、遊園地内を見渡せるほどになっていた。
「そうだ。さっきまで私が乗りたいものばかりだったから、今度は正ちゃんが乗りたいものにしない?」
「乗りたいもの? 特に……ないかな」
「食べるものでも。もうそろそろお昼も混みそうだから早めに食べてもいいよ」
「食べるのか……別にいつでも何でもいいよ」
「そう? 何かない? 正ちゃんがしたいことだったら何でもいいよ」
「何でも……。あっ、だったら1つだけ乗りたいものがあった」
「え、何?」
「……しばらくこのままでいたい」
腿の上。それはこの膝枕の状態が心地よいからこのままでいてほしい、という事なのだろうか。それとも動きたくない=安静にしてほしい=話しかけないでほしい、という事なのだろうか。
祥子は50:50で判断した。つまり話しかけずにこのままの状態を保つ事にした。そしてそれは正悟の口から小さいが祥子を求めた初めての瞬間だった。
正悟は子供のように、しかし少し大人びて見えた。
そんな会話から10分が経過して1周した。出てきた正悟の顔は幾分赤みが戻ってきており、良い休憩になったようだった。
「体調はどう?」
「うん、だいぶ良くなったみたい。ありがとう」
「お礼はいいって。じゃあ、次は午後に向けて早めの栄養補給にしようか」
「うん」
2人はファストフード店に入った。正悟はBLTバーガーセットを、祥子はハートフルバーガーセットを注文した。
「うわっ、何それ」
「ん? 何ってハートフルバーガーよ」
祥子が注文したハートフルバーガー。それはバンズとパティがハート型なのだ。勿論限定品なのだが、奇跡的にまだ残っていた。開発側からすると、恋人同士で食べてほしいという期待。しかし食べる時に分けると中央で破れてしまう。そんな意見合戦があったが、最終的には話題になるからという点で発売に至った。
開いた口がふさがらない正悟をよそに祥子は一口かぶりついた。白い部分のレタスの歯ごたえと包まれていた肉汁があふれる、シンプルな具材ながらえぐるようなどストレートのパンチに驚きを隠せなかった。ここは自分もストレートに行くべきだ。
「すっごい! 美味しいよ! 正ちゃんも食べてみて!」
さりげなく自分が食べた跡の部分をさし出し、受け取った正悟はずらして食べた。
「あ、すごい。肉がコレと比べて厚いから単純な味だと思ったけど、肉汁がすごいね。今までのと比べ物にならないくらい美味しい」
「でしょ? ハートフルバーガーだからね!」
「?」
「ハートフル、バーガーだからね!」
「?」
「ああ、もう! 愛情が詰まっているから美味しいのよ」
祥子は不貞腐れてバーガーに目を落としながら言った。やはり先ほどの観覧車のくだりはただの考えすぎだったようだ。正悟が自ら求めてくるわけがない。ただ横になっていたかっただけだ。こうなったら奥の手を使うしかないようだ。
正悟の食べた部分に噛りつきながらそう思うのだった。




