この世界からさよなら!?
「何故にここ……?」
辿りついた場所を見て俺は驚きの声を漏らす。
「何? 聖知ってるの?」
エリアルが無邪気に疑問を投げかけてくる。
「いや、知ってるも何もここ俺の家……」
「「は!?」」
エリアルと柊が同時に驚きというよりは呆れの声を出す。
いや、そんなに言われても俺もまったく知らないんだが……
「まあ、それなら話は早いね。早速取りに行こうか」
「待て待て待て待て! ストップ!」
「え? 何で?」
いやね、何でじゃないだろ……。考えてもみろよ、今まで咲以外の女子を家に上げた事がない俺が
急に異世界人とはいえ二人の女子を家に上げるんだ。確実に母さんから質問という名の爆撃が来るに違いない。
俺はそんなのまっぴらごめんだからな! 行くなら母さんがいない時にしてくれ……って!?
「あ、どうもこんにちはー。聖君のお母さんですか?」
「え、ええ? そうだけど……あなた達は?」
「申し遅れました。私達は聖君のお友達で柊 火憐と水野 絵里と申します」
「ええ! 何ですって……あの子が女の子を家に呼ぶなんて……」
ちょっと待て! 何勝手にやってくれちゃってんの!?
「あ! 聖! あんたちょっとこっち来なさい!」
うわ……見つかったよ。もう最悪だ……。これから面倒くさくなる未来しか見えない。
くそ、エリアルも柊も何て事してくれてんだよ。後で何かしら仕返しでもしてやろうか。
そんな、どうせ実行出来もしない事を考えながら、俺達は我が家に入っていった。
「聖、あんたどっちの子が狙いなの?」
テーブルに母さんと一対一の対面で座らされていきなりこの一言。
ちなみにエリアル達には俺の部屋に先に上がってもらっている。で、俺は少し話があると母さんに引きとめられた次第だ。
「何を勘違いしているのか知らないけどあの二人は只の友達だ。友達」
わざと、友達という所を強調して言ってやる。だがしかし、火が点いた母さんは。
「あの絵里ちゃん? だったかしら。あの子小さくて可愛らしいわよね! お人形さんみたいだわ!
それに髪の色も蒼かったしね、目の色もだったかしら? 外人さんなのかしらね?
それに柊さん? も中々じゃない。あの子はどっちかって言うと美人ね。
そうね、大和撫子って感じかしら。背も高いし、綺麗な黒髪よねー。母さんの昔にそっくり! あっははは!」
う、うぜえ……昔から母さんは一度話の火が点いたら中々止まらないからな。
よくもまあ遂さっき初めて会った奴の事についてベラベラ喋れるもんだ。これがおばさんパワーか。
これ以上ここにいても何の進展もなさそうだったので、一人マシンガントークを続ける母さんを放置する。
まあ、放っておけばそのうち治まるだろう……
「悪い、遅れた」
「「遅い!!」」
お前らって普段仲悪い癖に俺に対して何か言う時だけは息ピッタリだよな。
「まあ、そう言うなって。それより柊、残りの武器はこの家の何処にあるんだ?」
「あんたほんっっとうに馬鹿ね!! なんであそこに置いてあるのがそうだって気付かないのよ!?」
そういって柊が指さしたのは父さんからの土産物コレクションの中にある……
「あ……」
「なあ武器って普段どんな形してるんだっけか?」
「何よ今さら。球体よ」
「なるほどな……全然気付かなかった」
そう柊が指差したのは、つい先日父さんから送られてきた、あのいかにも怪しい緑色の球体だった。
そういえば以前エリアルが球体だって言ってたな。完全に忘れてた。
それより父さんナイスタイミング過ぎるだろ。まるで狙ってやったのかって言いたくなるレベルだ。
「まあ何でここにあるのかってのはどうでもいいよ。それより早速武器作ろう?」
やけにワクワクしながら提案してくるエリアル。絶対ホントはこいつが楽しみなだけだな。
まあいいか、俺も結構気になってたし。んじゃ作るとしますか。
えーと、確か緑だから風だったよな。
よし、イメージだ。今回の武器はさっきは近距離の武器だったから今回は遠距離だな。
ってことで遠距離と言えば弓だ。形状は俺の身体より少し小さい弓。重さは軽く。
見た目はまあ適当にそれっぽく、肝心の矢は大気中の空気を矢にする。
名前は……そうだな風のように疾く、雷のように鋭くって意味で……
「出でよ! ライトニングゲイル!」
俺の手の中でまた武器が構築されていく。何回やってもこの時の感じいいなあ。
出来あがった俺の手に握られていたのは。
「何だこれ?」
只の装飾が付いていて、半月の形をした緑色の棒っきれだった。
これが弓? どうやって使うんだろうか?
「何か今回の微妙……」
「そうね、多分聖のイメージが足りなかったんじゃないかしら」
うぐっ! 確かに今回は結構適当にイメージした感がある。
実際本物の弓を見たことがなくて、あんまり鮮明に出来なかったからなー、失敗作か。
「まあ仕方ないよ、今さら」
「確かにそうだな。で、これからどうするんだ?」
「何を?」
「いや、何をって……。もう武器二つとも見つかっただろ。だからこれからどうするのかなって」
「ああ、そのことね。うん、そうだね……」
~♪
不意にエリアルのスカートのポケットから着信音が鳴る。
「あ……」
「ん? 携帯か?」
「うーん、まあそんな感じかな。ちょっとゴメンね」
見た所携帯、というよりはインカムみたいな印象を受ける。向こうの世界ではコンパクトさが重視されているのか。
そしてエリアルはインカムらしき物をポケットから取り出し耳に装着すると、部屋から出て行った。
「…………」
何を話してるか気になるな。てかよくよく考えたらあのインカム、惑星間でも通話できるのか、すげえな。
通話料とかどうなってるんだろう。結構バカにならない気がするけど。
「えーーー!? 本気ですか!?」
お、どうした? 急にドアの向こうからエリアルの驚いた声が響く。ちょっとうるさい。
「ひ、聖……ちょっといい?」
ドアの隙間から顔を半分だけ覗かせて、申し訳なさそうにしているエリアル。
「ん? ああ、いいぞ」
そう返事して柊に――少しくつろいでいてくれ そういって部屋から出てくる。
で、部屋を出るとエリアルが恥ずかしそうに足をモジモジさせている。
「どうした、トイレなら階段下りてすぐの所にあるぞ」
「ち、ち、ちがうよ!! 何でそうなるの!?」
いやだってお前そんな行動とってたら誰だって勘違いするって。
「じゃあ、何だよ?」
「え、えっとね……非常に申し上げにくいんだけど……」
普段の言葉と丁寧語が入り混じってなんだかよく分からん言葉になっている。
まあ、意味は理解できるから別にいいけど。そんなこと大して気にもならないし。
「私達と一緒にこっちの世界に……来てくれない?」
……ん? もし、もしもだ。俺の耳がおかしくなっていないなら。
俺はさっき、エリアルに出会った時以上のトンデモ発言をされた気がする。
なんか、こっちの世界だのなんだのって。
「聖? 聞いてる?」
「お、おう、聞いてるぞ!」
突然、顔を至近距離で見つめられて動揺してしまう。
顔だけ……は可愛いからな、エリアル。
「聖……聞こえてる」
「聞き流せ」
「ってそんなことはどうでもいいの!! 早く返事聞かせてよ!」
「いや、普通に考えて無理だろ。いきなりすぎるし、家族だっているし、学校もある。
何より一番困るのは、俺が行方不明扱いになることだ」
そう。そんな別の世界に行こうものならこっちの世界のことは全て置いていかないといけないわけであって。
時間の流れとかもさっぱりわかんないしな。
「しかもエリアルがここに来た理由って地球が危ないからとかじゃなかったっけか?」
確か、地球が乗っ取られるとかそんな電波な事を初対面で言ってた気がする。
それで、その侵略者と戦う為に俺が選ばれたとか何とか。正直さっきまでこのこと忘れてた。
「そうだけど、大丈夫! 向こうの世界と地球では時間の流れが全然違うから」
「どれぐらい?」
「うーんと、向こうの一年がこっちの一日? だったかな」
「え! 何そのご都合設定!?」
「そんなこと言っても本当だから仕方ないじゃん」
「う……それはまあ、確かに」
ん? って事は別に向こうに行っても一年以内に帰ってこれば何の問題もないということか?
「簡単にいうとそういうこと」
もうなんか……心読まれるの慣れてきたな。いつでもどんと来い! って感じだ。
などとどうでもいい悟りを開いていると、エリアルがまたも催促をしてくる。
「で、行くの? 行かないの?」
「ええと、できれば理由をお聞かせ願いたいんだが……」
「めんどくさいからパスで」
この女……!
「何か言った?」
「いいえ、何も。よろこんで行かせて頂きます」
「よろしい」
何だ、この意味不明なやりとりは。
まあ勝手に行く事にしたけど問題無いよな。一日ぐらい留守にするなら。
翔の家に泊まりに行くとでも言えば大丈夫だろう。
「いつ行くんだ?」
「今」
「……はいはい。お前ら先、外出てろ。母さんに言ってくる」
「りょうかーい」
子どもみたいにそう言うとエリアルは柊を連れて先に家から出て行った。
帰る時に母さんが、――これからも聖のこと見捨てないであげてね と言っていたのはスルーしておこう。
「ねえ、母さん」
「何よ」
「今から翔ん家泊まってきてもいいか?」
「いいわよ。でも迷惑かけないようにね」
「わかってる」
「それじゃ、行ってきます」
「うん、行ってらっしゃい」
これが俺と母さんの一応別れの言葉。
やはり、悲しみみたいなのは微塵もないな。別に会えなくなるわけじゃないし。
「準備いい?」
外に出るとエリアルと話を聞いたであろう柊がいた。
「いいけど、どうやって行くんだ?」
「こうやって」
そう言ったエリアルが指と指を擦り合わせて音を鳴らすと……
「……え? うわああああ!!!」
いきなり足元に巨大な穴が開いて俺達は当然落ちて行った。
せめて、何かしらのアクションが欲しかった。いきなりすぎるだろ。いくらなんでも。
そう思う俺の意識は段々遠のいていった……
「……じり、聖! ついたよ!」
誰だ? 重い瞼を何とかして開き目をこする。
「あ、ああ。エリアルか。柊は……いるな。 って………ん?」
二人がいたのを確認した後に俺が目にしたのは……
玉座らしき場所に座っている王様……らしき人だった。