柊が仲間になった。そして武器入手
「聖ー、おはようさんっ」
「誰だよ、お前」
「またまたー、冗談きついぞ!」
「うるさい、死ね」
朝から翔とのどうでもいいやりとりを済ませる。
ちなみに今は学校。昨日ほとんど眠れなかったこともあり、結構苛立っている。
エリアルは来てるんだろうか? 後ついでに柊も。さすがに柊は来なさそうな気がするが。
って言ってたら来たよオイ。
「よう、柊。もとい負け犬」
「あらあら、聖さんたら何をおっしゃってるんですか? ちょっとこっちに来ていただけますか?」
「えっ? ちょっ! おいおい、冗談だって!」
「いいなあ! 聖。朝から柊さんとラブラブかよ!」
ズルズル…………
少しも羨ましそうにない翔の冷やかしを背に受け、柊に引きずられる。
うん、今のはちょっと言ってみたかっただけなんだよ。決して本気でそう思ってたとかそういうわけじゃ……
そう心で言い訳していたところにエリアルが丁度いいタイミングで通りかかる。
「あれ? 聖、どうしたの? フレムなんか連れて」
「あら、エリアルじゃない。ちょっとこの犬借りていくわよ。躾がなってないわね」
「ん、そう? まあいいや、じゃあフレムがやっといて」
「ちょい待てーい! なんでそうなる? 俺別に何もしてないだろ!?」
危うく口を挟む隙すらないまま話が進みそうだったのでなんとかして挟む。
大体躾ってなんだよ、しかも犬って。俺はれっきとした人間だ!
しかもエリアルまで何故二つ返事をする! お前はパートナーだろ!
「何言ってるの聖? 私達の関係は主従関係って書いてパートナーって読むんだよ?」
いつもの如く、俺の心を華麗に読み上げ、さりげなく酷い事を言ってくるエリアル。
「一応聞こう……どっちがしゅじ……「私」」
ですよねー。いや聞かなくても分かってたけどさ。
「ちなみに聖は犬ね」
遂に人間ですら無くなった……。俺の人格がだんだん否定されていく……
せめて、人間でいさせてくれ……もう従者でもいいから。
「もう夫婦漫才はその辺でいいでしょ? これ借りていくわよ」
「「夫婦じゃない!!」」
「うふふっ、そういう無駄に息が揃ってる所とか夫婦みたいね」
「う、う、うるさい! 負け犬の癖に!」
エリアルが顔を真っ赤にして否定する。そんなに俺の事が嫌だったとは……
いくら俺でもちょっとは傷つくぞ……
「誰が負け犬ですって!? 全く! 乏し言葉まで犬と一緒だなんてホントあんた達お似合いね!」
柊も負けじと顔を赤くして怒る。さすが火の能力を持っているだけあって赤さが違うな。
本物って感じだ、心なしか少し熱くなってきた気もする。
ってかどうでもいいけど俺はもう犬確定なのね……
「もういいわ! 気分が悪いから私は先に行くわ!」
「ちょっと待ちなよ、フレム。昨日の約束忘れたわけ?」
「うっ……」
ん? 何だ何だ? 昨日っていうと俺が帰った後の話か。
柊の顔を見てみると顔が青ざめている。一体何やったんだ……エリアル。
「これからは私達の部下として働いてもらうって言ったよね。
部下なら上司を置いていく事なんてしないよね?」
部下だと! 何だよ俺より柊の方が位が下じゃないかよ。ああー驚いた。
「あ、ちなみに聖はフレムと同じレベルだから」
あ……さいですか。まあどうせそんなことだろうとは思ってたけど。
それよりエリアルの奴、なんか段々Sとしての才能を目覚めさせているような気が……
いや、これ以上は俺の寿命を縮めるだけだ。やめておこう。
俺もエリアルに出会ってからどんどんペースが崩されてるな……まあ今さらか。
「何してるの? 置いてくよー?」
「あ、ああ。今行く」
「ほらフレムも」
「はあ……仕方ないわね」
ここに、俺、エリアル、フレムによる奇妙な三角関係が生まれた。
ちなみに言っておくと恋愛要素としての関係は全くない。
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「では、今日の武器探しを始めます」
「で、今日はどこだよ?」
「フレムよろしく」
「なんで私が! ……まあいいわ。そうね、私の能力で探しましょ」
エリアル隊長率いる、武器探し隊(名前は今つけた)の第二回目の活動が始まった。
ちなみに学校はもう終わった。今日は二人のお陰で時間の進みがとても早く感じた。悪い意味で。
で、とりあえず人目に付きにくい所で作戦会議というわけだ。
まあ、その隊長さんはまったくやる気がないんだが、むしろ何だかんだ言って柊の方が隊長っぽい。
「ん? お前獄炎以外にどんな能力あるんだ?」
「……これだから犬は……いいわ私が一度だけ説明してあげるから、よーく聞きなさい」
「はいはい……」
「私はね基本的に相手に奇襲をかけるタイプなの。
それで、対象のわずかに漏れだす力を頼りに探し当てて、気付かれずに先制攻撃。
で今回はそれをあんたの武器に対象を変えただけよ。いい? わかった?」
「なるほど、要するにお前も犬なん……ぐはっ!」
話終わる前に鼻先に柊からの惚れ惚れするような裏拳が飛んできた。
物凄く痛い。柊を見るとこっちを凄まじい剣幕で睨んでいる。おお、怖い怖い。
こいつらは冗談が通じない奴らなのか。これぐらい笑って流せばいいんだが。
翔ならここで乗ってくるのに、つくづく女はわからん。
「死ね……犬。 じゃあ気を取り直していくわよ」
「はあっ!」
そう気合いを入れた柊の周りに紋章のような物が浮かび上がる。
これが柊の嗅覚を何倍にもする能力か。
浮かび上がった紋章は柊の身体を下から上までスキャンして消えていった。
「なんだ今の?」
「あれは紋章からデータを受け取ったのよ」
あ、さっきの紋章で合ってたんだ。
「んじゃあ、もう武器の場所分かったのか?」
「ええ、一応そうなるんだけど……」
「何?なにか不安要素でもあったの?」
言葉を濁す柊に今まで黙っていた隊長、もといエリアルが口を開く。
「ねえ、エリアル。あんたこの街には武器は一つしかないって言ってたわよね」
「ん? そうだよ、それがどうかした?」
「それが……何故か反応が二つあるんだけど……」
「「え?」」
思わずエリアルと声を揃えて驚いてしまう。
昨日は何の収穫も無かったのに。なんだこの柊の有能さは!
でも確かに何で二つもあるんだ?
「エリアル、どう思うよ?」
「ううーん……とりあえず反応があった場所に行ってみよう。それじゃまずは水の方を取りに行こうか」
「了解」
――――
「あ、あった! あったよ、聖!」
「え、マジで!?」
結果から言うと普通に武器はあった。露店に。
物凄い普通に売られてたから全然気付かなかった。
露店の人も何か分からないから、いるならタダで譲るだなんて言ってたし。
昨日のは完全に徒労だったというわけだ。これは正に柊様々だな。
で、一応本物か確かめる為に一旦最初の場所に戻って来た。
「それじゃ聖。なんでもいいから武器を頭の中にイメージしてみて」
イメージねえ、そうだな、やっぱり武器と言えば刀かな。
でも普通の日本刀だと重すぎるから、軽めの。だけど切れ味は鋭い水の刀。
形式は日本刀。刀身は普通で。見た目は……まあここは無難に日本刀か。
頭にイメージを思い浮かべ、その武器の元となる球体を両手で包む。
「で、イメージが出来たら、出でよ! 何々って目を瞑ってその武器の名前を言うの。
それで多分、完成の筈」
はいはい、目を瞑って、名前ねえ……ここは横文字でいくか日本名でいくべきか。
でも日本刀だし、今回は日本名にしよう。んで問題の名前は……よし決めた。
「出でよ! 水斬刀!」
水をも切り裂く程の切れ味を持つ刀って事で水斬刀な。
目を瞑っていても分かる。手の中で武器が形成されていくのが。
少しずつその丸い姿を変え、刀の形へと。
やがて……
「うわー……かっこいい……」
エリアルの甘い声で意識が戻り目を開く。
俺の手の中にはしっかりと――水斬刀 その刀が握られていた。
「成功……か?」
「ばっちりだね! ね、フレム」
「そうね、正直これ程のものだとは思わなかったわ。素直に凄いと思う」
「そ、そうか……」
そんなに真剣に言われると恥ずかしくなるな。
まあこれで俺の武器も一つ目獲得というわけだ。
「で、もう一つは?」
「何、もう探しに行くの?」
正直、今はかなり興奮している。こんな、漫画でしか有り得なかった事がこうして現実として起こっている事実。
さすがに心がくすぐられるというものだ。
「ああ、行こう」
「わかったわ、それじゃ行きましょう」
柊の言葉を皮切りに俺たちは歩みを進める。