エリアルの覚醒!?
「へっ……?」
<水流>
エリアルが大きく振り上げた杖から逆巻く水流が俺に襲いかかる。
「うおおおおお!!! やめろ! エリアル! 死ぬ、死ぬから!」
そう叫びながら必死に襲い来る水流を避ける。
てか、なんだこの水! 追尾性能高すぎる!
なんで女の子に追いかけられるより先に水と追いかけっこしなきゃいけないんだよ!
「てかなんで俺が攻撃されなきゃいけないんだよ! お前の相手は火憐だろ!」
「あっ、そっか。聖があまりにもむかつく態度取るからつい……」
何その私怨マックスな理由は……
もう俺の事はいいからさっさと目的の相手と戦ってくれ……俺の安全のために。
「あんた達ねえ! 今の相手は私なの! 分かってるの!?」
遂に我慢の限界か、火憐がぷっつり切れてしまった。
いや、俺は最初からちゃんと分かってたぞ……?それをエリアルの奴が……
「何、聖? 私がどうしたって?」
「はっ!? いやいや何もないない!!」
「次は無いからね」
そういってニッコリと微笑むエリアル。
顔は可愛いけど心は怖い……。おっと! これ以上変な事考えたら消される。本気で。
「い、い……」
「ん?」
みれば何故か火憐が体をわなわなと震わせている。
どうした? トイレか? とは口が裂けても言えない。
もし、言ったら聖君の丸焼き(レア)が出来あがるだろうな。
「い・い・加・減・に・し・な・さ・い・よ!!」
文にして表したら一文字一文字に区切りがありそうなセリフを叫ぶ火憐。
つうか、そこまで怒るような事はないだろ。たかが無視されたぐらいで。
「もう切れたわ……あんた達を望み通り丸焼きにしてあげる」
「いや、誰も頼んでねえけど」
「うるさい! 黙ってくらいなさい!」
<炎獄>
もう駄目だこいつ……早くなんとかしないと。
人の話をまるで聞いちゃいねえよ。
しかもこのままだとさっき俺が考えたみたいに聖君の丸焼き(レア)が本当に出来あがってしまう。
どうする!?
「エリアル!」
大声で叫んで炎獄を止めようとしているエリアルを呼ぶ。
「何! 聖、どうしたの?」
「俺にも何か仕事をくれ!」
心からの雄叫び。明らかにここにきてからの俺は邪魔者でしかない。
いい加減エリアルの力になりたい。今はほんの少しの力しかないけど何か出来る筈だ。
そう思って叫んだ。
「じゃあ、私の準備が完了するまで囮よろしく!」
「任せろ! ……って囮?」
<水流>
「ぶはぁっ!!」
いきなり後ろから水に吹き飛ばされる。
行先はもちろん炎獄だ。………ああ、なるほどそういうことね。
で、俺にこいつをどうしろと? たしかエリアルの話によると
この炎獄ってのは炎系統のなかでも相当上位に位置する能力だったはずだが?
すると、俺の心を読み取ったエリアルがまたしても悪魔の頬笑みでこっちに話しかけてくる。
「ごめん、自分で何とかして……ね!」
くそっ、「……ね!」の部分がちょっと可愛いとか思ってしまった。死にたい。
てか無理です。だが、もう炎は目の前まで迫ってきている。
くそ、こうなったらヤケクソだ! 空中で両手に水球を作り出す。
更にそれを重ね合わせて大水球を作る。そして、開いているもう片方の手で水球を作り、大水球に合わせる。
それを何度も繰り返し、特大の水球が出来あがった。
名付けて、アクアバズーカだ。
「………ダサっ」
ぽつりとエリアルが呟きを漏らす。何だよ今の! 某呟きサイトでぽろっと呟きました!
みたいな感じで言うのやめてくれ。悲しくなる。
「さて、そろそろこれをブッ放すか……」
右手を火柱の方に向け思い切り振りかぶる。
「ひじり! いっきまーす!」
某ロボットアニメの名言を叫びながら腕を思い切り振りぬく。
火柱に水球がぶつかるとジュワと凄まじい量の水蒸気が現れる。
ただ、いくら俺の全力とはいえ、火柱はほとんど消えてない。
「ふふっ、そんな水玉ごときに私の炎獄が敗れるわけないでしょ」
火憐が自慢げに鼻を鳴らしながら言う。まあ確かにそうだろうな。
ただし……それが俺だけの力だった場合だけどな。
「エリアル! 今だ!」
地面に身体を叩きつけながらも思い切りエリアルに向けて叫ぶ。
これで終わらせてこい!
「了解!」
<水流>―LEVEL UP―
「え? え?」
「どうした!?エリアル! 何かあったか?」
「う、ううん……何でもないよ」
「よし、行っくよー。これが私の全力全開!」
<激流>
エリアルの杖に今までとは比べ物にならない程の量の水が集まる。
エリアルすごいな。ちょっと見直した。
「あ、あれは……激流!? 何で水流のあんたが使えてるのよ!」
ん? エリアルの力がレベルアップでもしたのか?
火憐は相当怯えてる。どうやらかなり凄い力みたいだ。
「分かんない。私も勝手に能力変わったから驚いたよ。……それじゃあもう終わらせるね」
杖を一振り。先端に溜まった水が一気に解き放たれまるで蛇のようにうねりながら火柱に突っ込む。
さしずめ「水蛇」といったところか。俺の水球なんかとはまったく桁が違う。
そのまま火柱をいとも簡単に消し去り、今度は火憐に標的を変える。
「私が……あんたみたいな小娘に……負ける……の?」
「そういうこと。残念だったねフレム」
水蛇が火憐に突進すると人形のように軽く吹き飛ばされていく。
傍目に見たら死にそうな威力だけど、さすがに死んでないよな……?
「大丈夫、そこまではしてないよ。あいつには、これから死ぬほど働いてもらうから」
……ん? 何か今違和感を感じるワードが出てきたが無視だ。無視。
ま、何にせよ。この勝負、俺たちの勝ちだ。
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――後始末は私に任せて聖はもう帰っていいよ
エリアルからそう告げられたので家に帰って来た。
で、さっきまでの戦いの事を思い出してたんだけど……俺いらなくね?
結局、最後に決めたのはエリアルの水蛇だし、明らかに俺の水球無くても問題無かったと思うんだ。うん。
まあ、いいか。もう終わった事だし。
にしてもエリアル。今回は凄かったな。てっきり口だけかと思ってた。
あんなに力を使いこなせるなんてな、俺も早くあんなになりたいよ。
でも、そのためには武器が必要……はあ、何処にあるんだよ……
「聖ー、パパから何か届いてるわよ」
母さんが、いきなりドアを開けて現れる。
「うわっ! びっくりした……またか、そこら辺に置いといて」
「りょーかい」
荷物を置くと母さんは何事も無かったかのように去っていく。
我が母親ながら、あの隠密スキルは見習いたいものだ。
それより、何だよ父さん。もしかしてまた変なモン送って来たのか……
家の父さんは海外への出張が多い人でこうしてよく現地で仕入れた変な物を俺に送りつけてくる。
おかげで、俺の部屋は世界の文化展でも開けそうなほど、いろんなものがある。
「ったく、今度はなんだ?」
段ボールの中々に頑丈な封を解いて中身を取り出す。
「これは……スイカ?」
いや明らかに違うのは分かるんだが、何となく言いたかった。
箱から出て来たのは緑色の丸い球体。ただそれだけ。
ん? よく見ると手紙らしきものが入っている。どれどれ……
――聖、元気してるか? パパだ。
今回の贈り物はな現地の占い師のおばあさんがな。
「持ってるだけで金運、恋愛運その他諸々上昇する水晶石」ってのを売ってくれたんだ!
少々高かったけど聖の為にパパ頑張ったぞ! 褒めてくれ! これで聖も女の子にモテモテだな!
じゃあこれからも頑張れ! パパより――
うおおーい! 父さん! それただの悪徳商法! 日本でも普通によくあるよ!
何普通に騙されちゃってんの……たかがこんな丸い球一つに……
でも、俺の為っていうからなあ、捨てるに捨てられない。
もういいや。とりあえず今日は寝よう。疲れた。
俺はベッドに飛び乗ると、そのまま目を瞑る。
いつしか、しらない間に俺は眠りについていた……