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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

俺と彼との攻防戦

作者: みなと

校庭からの声が僅かに聞こえる裏庭で、二人の人物が向かい合っていた。


一人は震える両手を胸の前で握りしめ白い頬を紅色に染めており、もう一人は瞳を見開き呆然と立ち尽くしていた。



「先輩が好きです。付き合ってください!」



頬を染めた人物が震える声で先程の言葉をもう一度告白した。その言葉は真摯に場に響き、その深い想いを相手へと伝えるには十分であった。


告白された人物はヒクリと口端をひきつらせると、口を開き叫んだ。



「死ねえぇ!!!」



その心からの叫びは茜色の空へと消えていった。



それが、頬を染め告白した彼、向井棗ムカイナツメと告白された彼、波路飛鳥ハジアスカのファーストコンタクトだった。






「先輩!!」



その叫びと共に教室のドアが勢いよく開けられ、一人の男子生徒が入ってきた。

ゆるりとカールした耳に掛かるくらいのミルクティー色の髪に翠色の瞳、スッと通った鼻筋に紅い唇。透き通るような白い肌には染み一つ無く、笑うと頬にエクボが出るのが可愛いと人気な彼、向井棗が窓際の一番後ろの席に座っていた人物に向かい走った。



「チッ!また来やがった」



その向井棗を見て舌打ちしたのは、赤茶の短髪に黒瞳に眼鏡をした彼、波路飛鳥だった。

椅子に座ったままの飛鳥の前に来ると、棗は持っていた包みを差し出し満面の笑みで言った。



「飛鳥先輩、一緒にお昼ご飯食べ――」


「ねぇよ」


「食べ――」


「ない!!」


「た――」


「食べねぇ!!!」



取り付く暇もなく一刀両断する飛鳥は、棗に目もくれずパンの袋を開けるとそれを頬張り出した。

モグモグと無言で食べ進める飛鳥と変わらずその場に立ち尽くす棗に、その場の雰囲気に耐えきれなかったのは飛鳥と一緒に昼を食べていた友人達だった。



「…あ〜、向井くん。取り敢えず座ったら?」


「そうそう。早く食べないと、時間無くなっちまうし」


「ぇ?…あ、はい。じゃぁ、お邪魔しま――」


「邪魔だ帰れ」



気を使った友人達の願いも虚しく、飛鳥から冷たい言葉が投げ付けられ棗の身体が固まった。


ついでに友人達も固まった。



「ちょっ、飛鳥!」


「流石に言い過ぎだろ」


「あ゛ぁ゛?うっせぇ。俺はコイツとなんて食べたくねぇんだよ」



友人達がたしなめるが飛鳥は聞く耳持たずに、棗に向かい犬を追い払うがごときにシッシッと手を振った。それを見て棗が悲しそうに眉を下げ、悲哀を顔面に表した。



「……飛鳥先輩」


「勝手に名前呼んでんじゃねぇ」



棗をギロリと睨み付ける飛鳥の瞳は怒りに満ち、拒絶のオーラを全身から発していた。

その殺人眼光にさらされた棗は長身の身体を縮こめると、持っていた袋を机に置き腕を前へとつき出した。



「飛鳥先輩のツンデレ屋さん!そんな先輩も好きですーー!!!」


「えぇい、鬱陶しい!抱きついてくんじゃねぇ!はーなーれーろー!」



ギュムッと飛鳥に抱きついた棗は、その感触を確かめるかの様に一層力を込める。それに抵抗する飛鳥は棗の腕と言わず背中と言わず髪の毛さえも叩き引っ張り引き剥がそうとするが、何をされようとも棗は飛鳥から離れようとしない。



「キモいんだよ!離せホモ!」


「ホモじゃないもん」


「もんっていうなキショイ!ホモじゃないんなら女にいけぇ!」


「ホモじゃなくて俺はバイです!――無理!女の子も大好きだけど先輩の方がもっと大好きなんです!愛してます、結婚しましょう!婚姻届けもありますから安心してください!」


「安心出来るかぁ!離しやがれぇボケェ!ヒィッ、頬擦りするなぁ!!」



棗に抱きつかれ鳥肌を立てる飛鳥に、鼻息荒く興奮する棗。



「相変わらずだね〜。飛鳥も諦めればいいのに」


「毎度よくやるぜ。さて、今回はどっちが勝つと思う?」


「ん〜?向井くん」


「じゃぁ、俺は飛鳥で。負けたらジュースな?」



飛鳥と棗から素早く避難し食事を再開しだした友人二人は、恒例になりつつあるやり取りを賭けに使い見学をするのだった。

数日前から一つ下の棗が飛鳥に猛アタックと言う名のストーカー行為をしだし、毎度お昼には今のようなやり取りが行われるようになった。そして、毎度毎度つれなくあしらわれているのに諦めるどころか更に愛情を深めていく棗に飛鳥がキレれば棗は感極まり抱きつき最後には乱闘に発展するのが、概ねのストーリーだったりする。

そして、今回も例外はなく。



「俺は男に興味ねぇ!!」


「だったら俺に興味を持ってください!喜んで受け止めますから!バッチ来いです!」


「同じじゃアホんだらぁ!!」



ずぎゃん!


もはや何の音かわからない怪音を響かせ、棗の額に飛鳥の頭突きが炸裂した。

見事に決まった頭突きに棗の身体が後ろに傾ぎ、床に倒れこんだ棗の顔は何故か笑顔だった。

倒れた棗に近付き両足を持つと、飛鳥はその身体を引き摺り教室から放り出した。廊下にいた生徒達がそれを見てギョッとした顔をしたが、相手が飛鳥と棗だと知ると呆れる者や囃し立てる者、笑って頑張れよと応援する者とに分かれ、何事もないかの様に通り過ぎていった。


その反応でこのやり取りが日常のことだと知れる。


その周囲の反応と当事者の二人を見ていた友人二人は、顔を見合わせると苦笑した。



「……残念だよね」


「相手なんて選り取り見取だろうに、なんで飛鳥なんだ?」



友人二人はポツリと言葉を溢した。

二人が不思議がるのは、尤もだろう。棗は同姓から見ても見惚れる程の美形なのだ。180を超える長身に程好く鍛えられた身体。顔は秀麗で一見冷たい感じがするが笑うと頬にエクボができ、垂れ目気味の瞳と合わさり非常に人懐っこい好青年に変わるのだ。一方飛鳥だが。飛鳥はどこと言って特徴の無い、はっきり言えば平凡顔だと言える。身長も170センチと平均並みだし筋肉もついてはいるがどうしてもヒョロイ印象しか持たれない身体なのだ。中肉中背の平凡、それが飛鳥だ。


女も男も放っておかない美形な棗が執着する相手が、平々凡々な飛鳥なのがいまだに謎な友人達なのであった。


不思議がる友人など眼中外な飛鳥は、復活した棗が教室に入ってこようとするのを阻止している。ガタガタガタと二人の力に挟まれ、扉が悲鳴をあげ今にも外れそうである。



「愛の力ふらーしゅ!!」


「うげ!?」



ズガーン!!ガチャーン!


ついに扉が耐えきれず外れると、すかさず棗が飛鳥に飛び付いた。

それを離れたところで見ていた飛鳥の友人の一人は溜め息を吐き、もう一人はニヤリと笑った。



「あ〜ぁ、負けたぁ」


「今日は俺の勝ちだな、ん」


「ちぇ、ほらよ」



笑った方に溜め息を吐いた彼が100円を投げ渡した。そんな友人二人のやり取りが、今日の攻防の答えだった。



そんなやり取りなど聞こえていない飛鳥と棗はというと。



「死ねぇ!」


「げはぁっ!?」



抱きついた棗の顎へ強烈な右ストレートが命中し、飛鳥が今回の攻防の勝利を納めたのだった。



勝者→飛鳥


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