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眠り姫

作者: WAIai
掲載日:2026/08/24

夜、終電が駅に着いた。

ほとんどの客は降りており、車掌は見回っていく。

秋は静かな夜であり、月でも愛でたいと思いつつ、座席を確認していくと、1人の少女が眠っていた。

制服を着ているので、女子高生だと分かる。

ーぐっすり眠っている。

気持ち良さそうに、良い夢でも見ているのか、微動だにしない。ゆっくりさせてやりたいが、もう終電なので、どうにかするしかなかった。

「あの、お客様、あの」

まずは声をかけてみたのだが、反応がない。

だから強めに言ってみる。

「あの!! お客様、着きましたよ!!」

「うーん…」

少し反応があったが、すぐに元に戻ってしまう。

困ったなと思いつつ、車掌はどうしようかとか腕を組む。

ーセクハラで訴えられても困るしな。

下手に触って、騒がれたら困る。

今、セクハラやパワハラが問題になっているので、どうしようかと迷う。

ーやっぱり声だけかけるか。

そう決めると、口に手を当て、大声を張る。

「あの!! お客様!! 起きてください…!!」

「うにゃ…? おえ…?」

お、反応があったと喜び、車掌は続けて叫ぶ。

「もう皆、降りられたんです!! あなたも早く家に帰らないと!!」

腕時計で時刻を確認すれば、家族が心配する時間帯だった。

学校で何をしていたのかは知らないが、1人で、しかも女の子が眠りこんでいるのだけは避けたほうがいいと、車掌は心配になってしまう。

「お客様!! お客様!!」

「え…。何? うるさい…」

徐々に反応があるので、手応えを感じ、車掌は続ける。

「家族が心配しますよ!! 早く起きないと、警察に連絡します」

警察に連絡するというのは嘘なのだが、少女には効果があったようだった。

「警察…!! …って、ここはどこ?」

「はあ…? 電車の中ですよ、電車の中」

やっと起きたと思ったら、今の自分の状況が分からないらしい。

仕方がないので、丁寧に教えてやる。

「もう最後の駅に着きましたよ。早く降りてくれないと、俺達も困るので、失礼ですが、起こしてしまいました」

「最後の駅…。…嘘!! やばいじゃん!!」

少女がいきなり立ち上がったので、車掌はびっくりして、身をわずかにひく。

少女は左右を見ると、自分の状況を確認しようとしているようだった。

「最後の駅に着いたのか…。そうか、着いたのか」

繰り返し言うので、酔っぱらっているのかと、鼻を澄ましてみるが、アルコールの香りはしなかった。

まだ半分、寝ぼけているのかもしれないと思ったが、少女を促す。

「さあ降りて。家に帰って、ゆっくり寝たほうがいい」

「…そうします。失礼しました」

少女はバッグを持つと、車掌に頭を下げてきた。

バッグには、たくさんのぬいぐるみがついており、今、流行っているのかと判断する。

「じゃあ車掌さん、バイバイ」

「はい、バイバイ」

手を振ると、少女は笑って返してくれる。

明るいらしく、リズミカルに進んで行くのだが、ふと足を止める。

「どうしたの? 早く降りないと」

「いや…その、降りる駅、ここじゃないんです」

「はあ!? 一体、どこなの?」

「えっと…2つ、3つ? 前くらいの」

駅名を言われ、車掌はああと納得する。

その駅ならとっくに過ぎている。

全く、油断だらけの少女に、車掌は1言、言いたくなる。

「自分の責任は自分でとらないと。とりあえず、スマホで家族に連絡して駅に来てもらって」

「は、はい。えっと…スマホ、スマホ」

バッグをあさると、懐かしいテキストなどがちらりと見える。

ー学生時代、懐かしいな。

何も怖くなかったあの頃。

喧嘩してもすぐに仲直りしたり、皆で色々とはしゃいだり、楽しい記憶ばかりが蘇ってくる。

ー全く、女の子1人で危ないだろうが。

少女が電話している姿を見、車掌はじっと待つ。

「あ、もしもし。お母さん? 実は…」

事情を言う少女は少し緊張しているようだった。

車掌は表には出さず、内心で早く迎えに来いと願う。

「分かった。うん、うん。じゃあ」

少女がスマホを切ったので、車掌は聞いてみる。

「どうだった?」

「迎えに来てくれるそうです。良かった…」

怒られるとでも思ったのか、少女がリラックスするのが分かる。

「車掌さん、車掌さん」

「何だい?」

「起こしてくれたお礼に、これあげる」

差し出されたのはグミで、車掌は両手を前に出して断る。

「いいから、すぐに家に帰りなさい。分かった?」

「うーん、もう少しかかるんだよな…迎えに来るまで。どうしよう」

「どうしようって…どうしよう」

車掌も顎に手を当て考える。

待合室に案内しようかと思うのだが、制服姿は目立つので、変な虫がついたら困る。

かと言って、車掌もやることがあるので、少女ばかりに構っていられなかった。

「人のいるところへ行ったほうがよくないか?」

「人のいるところ…。どこだろう」

「それは…。うーん、困ったな。俺も忙しいんだけど」

本音をこぼすと、少女が申し訳なさそうに言う。

「ここにいたら駄目ですか?」

「ここに? 別にお客様がいないからいいけど…」

少し迷ってから、車掌は答える。

「しょうがない、特別にここにいさせてあげるから、親が来たら、帰るんだぞ?」

「は、はい…!! ありがとうございます」

「じゃあ、俺は行くから」

そう言って別れようとしたのだが、少女が慌てて袖を掴んで、動けなくなる。

「何? どうしたの…?」

「いや、淋しいなと思って。LINEとかして、時間を過ごせばいいんですけど」

「そうしろ。俺も忙しいんだよ」

そう言いつつ、周りを見回す。

駅のホームに降ろすよりは、電車の中のほうが安全な気がした。

「あ、電話だ!!」

少女がふと呟き、電話に出る。

車掌はじっと見つめると、少女は軽快に会話していく。

「うん、うん。分かった。今、行く」

スマホを切ると、少女は車掌に言ってくる。

「ありがとうございました、車掌さん。もう少しで着くようなので、駐車場に行きます」

「そうか。気をつけて」

「はい…!! お世話になりました」

育ちが良いのか、ちゃんと頭を下げてきたので、車掌は感心する。

ー今時の娘にしては珍しい。

少女は気が楽になったのか、跳ねるように降りていく。

車掌はそれを見届けると、移動し始める。

ー俺も仕事を終わらせて、早く帰ろう。

家が恋しくなり、車掌は忙しそうに動き出すのだった。




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