第79話「落とされた場所」
第79話です。
前話で敗れた三人が辿り着いたのは、
これまでとはまったく異なる場所でした。
空があり、風があり、草が揺れる。
一見すると、どこにでもあるような“普通の世界”。
ですが――
その“普通”の中にある違和感。
そして、
逃げ場のない地形。
ここは単なる異空間ではなく、
明確な意図を持って作られた場所です。
誰が、何のために。
その答えはまだ見えませんが、
確実に“上”と繋がっています。
そしてもう一つ。
ここにいるのは、人間だけではないかもしれません。
ぜひ、その違和感を感じながら読んでいただければと思います。
意識がゆっくりと浮かび上がる。
風の音。
草が擦れる音。
そして、どこか甘い匂い。
「……っ」
悠真が目を開ける。
視界に広がったのは、草原だった。
青い空。
穏やかに流れる雲。
揺れる草。
あまりにも普通の光景。
「……なんだ、ここ」
思わず呟く。
さっきまでの戦いが、嘘のように遠い。
「……起きたか」
横から声。
レオンだった。
すでに体を起こしている。
「無事か」
「ああ……なんとか」
悠真は体を起こす。
鈍い痛みはある。
だが、動ける。
「ダービラは?」
「まだだ」
少し離れた場所に倒れている。
悠真が駆け寄る。
「おい、大丈夫か」
肩を揺らす。
数秒。
ダービラがゆっくりと目を開ける。
「……ここは」
上体を起こし、周囲を見る。
空。
地面。
風。
その全てを確かめるように。
「……妙だな」
低く呟く。
「何がだよ」
悠真が聞く。
ダービラは少しだけ目を細める。
「自然だ」
「だが……自然すぎる」
「は?」
「まだ分からん」
それだけ言って黙る。
だが、違和感だけは残る。
レオンが前を見る。
「……人の気配がある」
視線の先。
煙が上がっている。
集落。
「行くぞ」
三人は歩き出す。
草原を進む。
風は心地いい。
だが、その心地よさが逆に気味が悪い。
やがて見えてくる。
木造の家。
煙。
人の姿。
普通の生活。
だが――
「……なんだここ」
悠真が小さく呟く。
人々は笑っている。
話している。
だが、その目。
どこか、空っぽだ。
諦めたような。
受け入れたような。
「新入りか」
声がする。
振り向く。
一人の老人。
ゆっくりとこちらを見る。
「……ああ」
レオンが答える。
「ここはどこだ」
老人は少しだけ笑う。
「わしらも場所まではわからん」
一拍。
「おそらくここは“落とされた者の場所”だ」
静かな声。
だが、重い。
「落とされた……?」
「試練に負けた者が来る」
悠真の顔が強張る。
「……戻れるのか」
レオンが問う。
老人は首を振る。
「無理だな」
「見れば分かる」
顎で示す。
三人は歩き出す。
集落を抜ける。
少し進む。
そして――
視界が開ける。
「……っ」
悠真が足を止める。
言葉を失う。
そこには――
終わりがあった。
大地が、途中で途切れている。
まるで切り取られたように。
「……なんだよ、これ」
端まで近づく。
覗き込む。
底が見えない。
ただ、風が吹き上げている。
強い。
異常なほど。
そして――
何かがいる。
下の闇の中。
巨大な影。
羽のある魔物。
うごめいている。
数えきれないほど。
「……あれ、無理だろ」
悠真が引く。
レオンが空を見る。
「……妙だな」
太陽。
近い。
距離感が狂っている。
圧を感じる。
まるで――
上に何かがある。
別の世界が。
ダービラが目を細める。
フードを少し深くかぶる。
「……光が強いな」
悠真が気づく。
「平気か?」
「とりあえずは問題はない」
一拍。
「だが、あまり長くは持たん」
短く言う。
それ以上は語らない。
老人が言う。
「ここから出ようとした者は多い」
「だが、誰一人戻らん」
「上も、下もな」
逃げ場はない。
完全に。
「……ローディアスは?」
レオンが聞く。
老人が指をさす。
「先程来た者なら、あそこに」
端。
風の中。
一人、立っている。
三人は近づく。
ローディアスが振り向く。
「……お前らも来たのか?」
短く言う。
それだけ。
だが、生きている。
「無事で何よりだ」
レオンが言う。
「ああ」
ローディアスが頷く。
視線を奈落へ戻す。
「……どうしても出られん」
「何度もスキルカードを試した」
「全部、無理だった」
重い言葉。
「俺たちもやられた」
レオンが言う。
「相手は天使だった」
ローディアスの目がわずかに動く。
「……やはりな」
「神々の国から来てるらしい」
悠真が言う。
「食料がどうとか言ってたぞ」
ローディアスが考える。
「……そういえば」
「ヴァルクが食料に金を使っていた」
レオンが言う。
「……なるほど繋がるな」
「ロペ」
「天使」
「神々の国」
一本の線になる。
「ヴァルクとロペは確実に繋がっている」
「その先に神々の国」
悠真が息を吐く。
「なんかめんどうな話だな……」
「だがチャンスでもある」
ローディアスが言う。
「この流れを辿れば、神々の国に届くかもしれない」
その時。
レオンがカードを取り出す。
「転移を試す」
発動する。
一瞬、空間が歪む。
だが――
弾かれる。
「……?」
もう一度。
同じ。
遮られる。
「……ダメだ使えない」
ダービラが静かに言う。
「……何かの力が働いている」
空を見る。
「術ではないな」
「もっと上位の力だろう」
悠真が周囲を見る。
集落。
人々。
その一人。
一瞬。
背中に、何かが見えた気がした。
羽。
幻のように。
「……今の」
だが、すぐ消える。
誰も気づいていない。
ローディアスが言う。
「ここは終わりじゃない」
一拍。
「“選別から外れた場所”だ」
風が吹く。
強く。
荒々しく。
悠真は空を見る。
あの近い空。
その向こう。
「……必ず出るぞ」
小さく言う。
レオンが頷く。
ダービラも。
ローディアスも。
ここで終わるわけにはいかない。
この世界の外へ。
必ず。
第79話を読んでいただきありがとうございます。
今回は大きく三つのポイントがあります。
まず、この世界。
これまでの“閉じた異空間”ではなく、
空も風もある“現実に近い場所”として描いています。
ですが、
大地が途中で途切れ、
上にも下にも行けない。
つまりここは――
“世界の端を切り取った牢獄”のような場所です。
次に、神の力。
転移カードが発動しない。
わずかに空間は反応するものの、
明確に弾かれる。
これは単なる魔法ではなく、
もっと上位の存在による制御が働いていることを示しています。
そして三つ目。
この場所にいる人々。
普通に生活しているように見えて、
どこか感情が薄い。
そして一瞬だけ見えた“羽”。
今回明言はしていませんが、
ここにいる者の中には、
かつて別の存在だった者が混ざっています。
“選別から外れた者たち”
それがこの場所の正体です。
そして最後に。
ローディアスとの合流。
ここでようやく、
ヴァルク・ロペ・神々の国が一本の線で繋がりました。
敵は個人ではなく、構造そのもの。
ここからは“脱出”ではなく、
“この世界の攻略”に入っていきます。
次回から、反撃の準備が始まります。
引き続きよろしくお願いします。




