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英雄の休息と、血の招待状

ザベルが地下牢へと引き立てられ、騒がしかった夜がようやく明けた。

俺はと言えば、伯爵館の最高級客室で、5歳児には不釣り合いなほど巨大な天蓋付きベッドに沈んでいた。

「……ふわぁ。……結局、あの後もレベルアップの通知がうるさくて寝れなかったな」

俺は半身を起こし、空間に浮かぶステータスを確認する。

《レベルアップ:Lv12 → Lv15》

《称号:【神童】から【魔術師の天敵】へ進化しました》

《死亡ボーナス:耐性スキル【火属性耐性Lv3】を獲得》

ザベルの『轟炎の咆哮』で三回ほど消し炭になったおかげで、火に強い体質になってしまったらしい。死ぬのも楽じゃないが、この「死の配当」があるからリトライはやめられない。

コンコン、と控えめなノックの音が響いた。

「ナナシ。起きているか?」

入ってきたのは、いつもより心なしか表情の柔らかいエルーシアだった。その後ろには、豪華な朝食のワゴンを引いた侍女が続いている。

「昨日のお前の功績について、伯爵閣下がお話ししたいそうだ。……だがその前に、まずは腹ごしらえだな」

並べられたのは、村にいた頃には想像もできなかった最高級の肉料理と新鮮な果物。

俺は5歳児らしく、ガツガツとそれらを平らげた。エルーシアはその様子を眩しそうに見つめている。

「……ナナシ。お前、ザベルの魔法を止めた時、何と言った?」

「え? ……あぁ、『左側に淀みがあった』ってやつ?」

「そうだ。あれから魔導士たちがザベルの術式を検証したが……驚いたよ。お前の指摘通り、あの術式には構造上の欠陥があった。それをたった一度見ただけで見抜くなど、宮廷魔導師ですら不可能だ」

エルーシアが真剣な眼差しで俺の手を握る。

「お前は、この国の……いや、人類の宝になるかもしれない。私がお前を全力で守り、育てる。……いいな?」

(……重い。期待がめちゃくちゃ重いよ、エルーシアさん)

彼女の主観では俺は「一発で本質を見抜く天才」だが、実際は三回焼かれて死ぬほど熱い思いをした成果だ。

だが、その誤解こそが俺の生存戦略。俺は無邪気に「うん、よろしくね」と笑っておいた。

朝食後、俺は伯爵の執務室へと招かれた。

伯爵は俺の顔を見るなり、椅子から立ち上がって深く頷いた。

「ナナシ殿。ザベルの件、重ねて礼を言う。お前がいなければ、我が館は灰になっていた。……礼として、お前に『準騎士』の称号と、この館での永住権、そして十分な養育費を約束しよう」

5歳児にして準騎士。なかなかのスピード出世だ。

だが、伯爵の表情はどこか晴れない。彼は机の上に、一通の「黒い手紙」を置いた。

「……だが、問題が一つある。ザベルを地下牢で問い詰めたところ、奴は狂ったように笑いながらこう言った。『私はただの協力者に過ぎない。あの子を選んだのは、私ではない』と」

俺の背筋に、再び冷たい感覚が走る。

『危険察知』が微かに震えた。

「これは、ザベルの私物から見つかった『招待状』だ。差出人の名は……【深淵の福音】」

《ユニークスキル【レコード】が更新されました》

《警告:未知の組織【深淵の福音】を検知。この組織に関連する死亡は、セーブポイントが強制的に更新されるリスクがあります》

「…………えっ?」

俺は思わず声を漏らした。

セーブポイントの強制更新。つまり、**「詰んだ状態で上書きされる」**可能性があるということか?

「……ナナシ? どうした、急に顔色が悪くなって」

エルーシアが心配そうに覗き込んでくる。

どうやら、ザベルを倒してハッピーエンド、とはいかないらしい。

俺の目の前には、新たな「死の予感」が真っ黒な霧のように広がっていた。

「……いや、なんでもないよ。……ねぇ、エルーシア。もっと訓練、厳しくして。死ぬほどさ」

俺は笑いながら、内心では冷や汗を流していた。

どうやら二周目、三周目くらいで満足している場合じゃない。

千回死んでも届かないかもしれない「本当の地獄」が、すぐそこまで来ている。

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