経験値は死体の上に積み上がる
「よし、2周目リトライ行くか」
呟くと同時に、草むらが揺れるよりも、ほんの刹那だけ早く――。
胸の奥に焼け付くような違和感が走り、心臓を内側から爪で引っかかれたかのような鋭い警告が全身を貫いた。
新スキルの恩恵か、あるいは一度死んだ記憶が脳を強制起動させたのか。
それは確実に“死”が迫っていることを告げる本能のアラーム。
《危険察知Lv1 発動》
脳裏に文字が走った瞬間、考えるよりも先に身体が動いていた。
俺は地面を蹴り、叩きつけられる勢いで横へと転がる。
直後、ついさっきまで俺が立っていた場所を、巨大な爪が地面ごと抉り取った。
爆ぜる土砂。粉砕される石。
遅れてやってくる風圧が、小さな身体を無慈悲に地面へ押し付ける。
「――っぶねぇぇ!!」
一周目では、何が起きたのかすら分からなかった。
だが今は違う。狼が跳ぶ直前の重心の沈み込み、後脚に溜められる爆発的な筋力。
全部、分かっている。いや、この魂が“覚えている”。
「なるほどな……これが『死に覚え』ってやつかよ」
喉が震えるほどの恐怖に反して、口角が吊り上がるのを止められなかった。
俺は走り出した。ただ逃げるのではない。
一周目で吹き飛ばされ、死ぬ直前のわずかな滞空時間。あの時、回転する視界の中で捉えていた、森のすぐ先にある「切り立った崖」を目指して。
「来いよ、デカブツ」
背後から迫る轟音。振り向かなくても分かる。一直線に俺を狩りに来ている。
あと三歩。二歩。一歩。
崖の縁が視界を埋め尽くす直前、俺は限界まで身体を低く落として横へ滑り込んだ。
巨大な狼は止まれなかった。
あまりにも重い巨体が慣性に引きずられ、空を掴む。
一瞬だけ、目が合った。
そこにあったのは獲物を見る余裕ではなく、獲物にハメられたことへの確かな“驚愕”。
「チェックメイトだ」
次の瞬間、狼の巨体は断崖の向こう側へと吸い込まれていった。
――ドォォォォンッ!!
大地を揺らす衝撃音。そして、崖下から響いたのは、一頭目の最期を告げる短い断末魔の咆哮だった。
だが、静まり返ったのは一瞬だった。
その咆哮に呼応するように、背後の深い森から、地鳴りのような唸り声が重なり始める。
「……嘘だろ」
《警告:同種個体反応 複数》
森の奥から灯る、無数の金色の瞳。
十、二十……。一頭目は、ただの「先兵」に過ぎなかった。
仲間を仕留められたことで、森そのものが怒りに震えるように殺意が膨れ上がる。
「……詰んだな、これ」
最初の一体が喉元を狙い、二体目が退路を塞ぎ、三体目が影から飛び出す。
視界が激しく回転し、地面に叩きつけられる。
引き裂かれる痛みと、遠のく意識。
だが、群がる狼たちの隙間から、月明かりに照らされた「ある景色」が網膜に焼き付いた。
倒れかかった巨木。それを支える、不安定な岩の積み重なり。
一周目ではただの風景だったそれが、死の間際の極限状態(しかも2回目)にある今、**「群れを全滅させるための仕掛け」**にしか見えなかった。
(……あぁ、そうか。あそこに追い込めば――)
喉を噛みちぎられる直前、俺は確かに笑った。
《死亡を確認しました》
暗闇の中で、思考だけが爆発的に加速する。
《思考加速Lv1》の覚醒。
今の俺の脳内では、先ほどの戦闘データが完全に再現されていた。
狼たちの突進するタイミング。包囲網が狭まる速度。
それら全てが、先ほど見つけた「仕掛け」へと繋がるための道筋に変わっていく。
「……勝てる」
死を経て、ようやく攻略の糸口を掴み取った。
俺は迷わず、浮かび上がる選択肢を叩く。
《巻き戻り地点を選択》
・森に出現した瞬間(推奨)
光が意識を塗りつぶす。
三周目。
次は、俺がこの森を捕食する番だ。
1話と2話で主人公の感じが違うって思われる方がいるかもしれませんが、何回か死んでることでちょっとずつ人格がおかしくなっていってるってことです。普通死んだら尋常じゃいられないんじゃないかなって思ってのことです!わかりにくかったら教えてください!




