二周目の攻略、あるいは蹂躙 2
「……ひっ、あ、ありえん……!」
クロムの喉から、余裕の消え失せた無様な悲鳴が漏れた。
かつてこれほどまでに「格の差」を見せつけられたことがあっただろうか。自分たちが「修正すべきバグ」と見なしていた子供に、逆にシステムごと上書きされている。
「おい、どうした? さっきまでの威勢は。俺を『固定』するんじゃなかったのか?」
ナナシがさらに一歩、歩を進める。
そのたびに、執務室の床がミシミシと悲鳴を上げ、青白い魔力が火花となって散る。
エルーシアは、目の前の背中を信じられない思いで見つめていた。
(……ナナシ? 本当に、あのナナシなの……!?)
その背中は小さく、まだ幼い子供のそれだ。
だが、そこから放たれるプレッシャーは、王国最強の騎士団長ですら足元に及ばない。
「化け物め……! 特異点がこれほど短期間に『完成』するなど、報告にはなかったぞ! ……ええい、こうなれば、館ごと消滅させてくれる!」
クロムが懐から、禍々しい紫色の結晶を取り出した。
【魔力暴走石】――周囲の魔力を強制的に乱し、半径数百メートルを灰に変える最終兵器。
彼はこれを使って、証拠隠滅と共に逃走を図るつもりだ。
「死ねえええ!!」
結晶が眩い光を放ち、爆発的なエネルギーが解放されようとした――その瞬間。
「……あー、それ、ザベルも持ってたやつか」
ナナシの姿が掻き消えた。
【暗殺者の歩法】。それも、かつての数倍の速度。
パキン。
乾いた音が響く。
クロムが持っていた結晶が、爆発するよりも早く、ナナシの指先によって「粉砕」されていた。
「なっ……暴走のエネルギーを、指先の魔圧だけで押し潰した……!?」
「残念だったな。お前、さっきから動作がデカすぎなんだよ。数千回死んでるとさ、筋肉のピクつきだけで、次何するかわかっちゃうんだわ」
ナナシはそのまま、クロムの胸ぐらを片手で掴み上げた。
5歳児の体躯でありながら、成人男性であるクロムの体が、宙に浮く。
「……さて。お前の組織について、じっくり話を聞かせてもらおうか。……あぁ、死んで逃げようとか思うなよ?」
ナナシの瞳が、どす黒い輝きを帯びる。
「お前が死んでも、俺が『リセット』して、またこの場所に連れ戻してやるからな。……お前が全てを吐くまで、何千回でも、何万回でもだ」
「……っ、あ、あああぁぁ……!!」
クロムは確信した。
目の前にいるのは、救世主でも、特異点でもない。
死を克服し、死を玩具にする――**『死の王』**なのだと。
「まずは……その仮面からだ」
ナナシの拳が、無慈悲に白仮面へと叩き込まれた。




