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二周目の攻略、あるいは蹂躙

伯爵の執務室には、異様な静寂が満ちていた。

椅子に縛り付けられた伯爵と、床に膝をつかされたエルーシア。その中心にある机の上には、開封された「黒い手紙」が置かれている。

白仮面の使徒――クロムは、窓枠に腰を下ろし、退屈そうに指を弄んでいた。

「……遅いな。朝食の時間になれば、あの『特異点』の少年がここへ来ると踏んでいたのだが。伯爵、君の教育が悪いのではないか?」


クロムは、机に置かれた「黒い手紙」を指でコツコツと叩く。

彼ら組織【深淵の福音】の目的は、世界の歴史を自分たちの筋書き通りに「固定」すること。その完璧な計画において、死ぬたびに未来を勝手に書き換える「特異点」の存在は、計画を泥塗りにする排除すべき最大のバグ(イレギュラー)だった。

「リトライなどという歴史への冒涜、許容できるはずもない。ここで、その汚らわしい物語を終わらせてやろう。……二度とやり直せぬよう、この瞬間の絶望ごと君を『固定』してね」

だが、その時。

背後の扉が、ノックもなしに――いや、物理的な質量を失ったかのように、音もなく消滅した。

「――おい。誰の物語を終わらせるって?」

冷ややかで、心臓を直接握られたような錯覚に陥るほど重い、幼い声。

埃の舞う入り口に立っていたのは、全身から青白い魔力を湯気のように立ち上らせたナナシだった。

「ナナシ!? お前、その姿は……!」

エルーシアが息を呑む。

数時間前まで、自分と一緒に訓練していた「可愛い教え子」の影などどこにもない。

数十年を魔法の探求に捧げた大賢者が、五歳の幼子に受肉したかのような圧倒的なオーラ。

「……ほう。驚いたな。数時間前に寝顔を確認した時とは、まるで別人のようだが」

クロムは仮面の奥で目を細めた。

「なるほど。やはり君は『やり直した』のか。だが、おかしいな。特異点がリトライしたところで、魂が戻れる時間に限界があるのは調査済みだ。この短時間で得られる成長など計算がつく。……その異常な魔力は、一体どこの深淵から湧いた?」

「……あぁ、お前らの理論じゃそうなるよな。普通は『一晩』で、自ら進んで数百回も死ぬような真似はしないからな」

ナナシが冷たく笑う。

クロムには見えていない。ナナシが地下の魔力溜まりで、自らの細胞が崩壊するのをリセットボタンとして利用し、数年分の修行を凝縮した「死のタイムアタック」の狂気が。

「さて、始めようぜ。お前らが俺を邪魔だって言うなら、俺もお前らが邪魔なんだわ。……俺ののんびり無双ライフ、これ以上邪魔させねぇよ」

ナナシが一歩、踏み出す。

その瞬間、クロムが絶対の自信を持って展開していた『空間固定』の結界が、ナナシが歩くたびにパキパキと音を立てて砕け散った。

「なっ……私の術式を、歩くだけで破壊しただと!? おのれ……驕るなよ特異点! 『深淵の焔よ(アビス・フレア)』!」

クロムが焦りから放った、触れるものすべてを虚無に還す漆黒の魔炎。

一周目のループでは、この一撃で執務室ごと伯爵たちを炭に変えたであろう絶技。

だが、ナナシは避けない。

ただ右手を軽く上げ、飛来する黒炎を、まるで飛んできた羽虫を掴むかのように素手でキャッチした。

「……熱っ。……ま、ザベルのよりはマシか」

《スキル【魔力吸収】発動》

ナナシが拳を握り込むと、圧縮された黒炎はそのままナナシの掌の毛穴から吸い込まれ、ただの魔力の糧として霧散した。

「……馬鹿な……特級魔術を、ただのレベル差で飲み込んだというのか……!? 貴様、本当に五歳の子供か……!?」

「さて。二周目の攻略は、ここからが本番だ。……まずはそのスカした仮面、叩き割っていいか?」

ナナシが指を鳴らすと、執務室中の酸素が魔力の過負荷で火花を散らした。

冷たく笑う5歳児の前に、白仮面は初めて「自分が管理される側」に回った本物の恐怖に、膝を震わせた。


最近いろんな小説書きすぎて設定がごっちゃになってるかもです!できれば誤字脱字や話のつながりがおかしい!みたいなところあれば教えてくださると嬉しいです!

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