表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/12

未来のための自害

「……いや、なんでもないよ。……ねぇ、エルーシア。もっと訓練、厳しくして。死ぬほどさ」

俺は笑いながら、内心では冷や汗を流していた。

どうやら二周目、三周目くらいで満足している場合じゃない。

セーブポイントが勝手に更新され、取り返しのつかない地点で「固定」される――そんな『本当の地獄』が、すぐそこまで来ている予感がしたからだ。

そして今、俺は伯爵の執務室で、その予感が「現実」に変わる瞬間に立ち会っていた。

「これは……なんだ……?」

伯爵が震える手でザベルの私物だった「黒い手紙」の封を切り、机の上に広げた。

俺はその紙面を覗き込む。そこに綴られていたのは、文字というより、どす黒い意志の奔流そのものだった。

(……っ! やっぱりだ。できるだけ【深淵の福音】に関わるのは避けたい。俺はただ、二度目の人生をのんびり無双して過ごしたいだけなんだ。なのに――)

平穏を願う、ささやかな生存本能。

だが、それをあざ笑うかのように、俺の視界が真っ赤に染まった。

「セーブポイントの強制更新……だと!?」

俺はいまだに理解ができないまま、震える声で呟いた。

俺の目の前にだけ、見たこともないどす黒い警告プロンプトが激しく明滅している。


《警告:未知の組織【深淵の福音】による空間干渉を確認》

《強制セーブシークエンスが開始されました。完了まで残り60秒》


「ナナシ? 急にどうした、顔色が悪いぞ……」

エルーシアが心配そうに俺の肩に手を置く。

だが、その彼女の姿が、まるで見当違いな方向に「ズレて」見えた。

いや、違う。ズレているのは世界の方だ。

「……逃げろ、エルーシア! 伯爵閣下も!」

俺が叫んだ瞬間、執務室の窓ガラスが音もなく粉砕された。

飛び込んできたのは、人ではない。

真っ白な仮面をつけ、黒い法衣を纏った「影」のような存在――【深淵の福音】の使徒。

「見つけたぞ、特異点。……君の物語は、ここで『固定』させてもらう」

白仮面の男が、空中に奇妙な紋章を描く。

その瞬間、俺の視界に表示されている「強制セーブ」のカウントダウンが加速した。

(クソッ……! ここでセーブされたら、この使徒が目の前にいる『死ぬ直前の状況』が初期値(スタート地点)になっちまう!)

そうなれば、何度リトライしても、復活した瞬間に殺される「無限死の牢獄」に閉じ込められる。

「させるかぁぁ!!」

俺はエルーシアが腰に差していた短剣を奪い取るように抜き放ち、自分の喉元へ突き立てた。

「なっ……!? ナナシ、何を――」

驚愕する彼女の前で、俺は迷わず自分の喉を切り裂いた。

ズブッ


《個体の死亡を確認――リトライを実行します》

「……っ、はぁ! はぁ、はぁ……っ!!」

視界が開ける。

見慣れた豪華な天蓋付きベッド。視界が開ける。

朝食前の「安全な時点」だ。

喉に残る熱い幻痛を無視し、俺はベッドから飛び起きた。

まもなく、エルーシアが朝食を持ってノックしてくるはずだ。だが、そんな悠長なことはしていられない。

数分後、俺は執務室で「黒い手紙」を見せられ、あの白仮面と遭遇する。

今のレベル(Lv15)のままあそこへ行けば、また強制更新の危機に晒されるだけだ。

「……悪いな、朝食抜きだ。その代わり、最高にエグい栄養を食わせてやる」

俺は【暗殺者の歩法】で窓から抜け出し、館の最深部にある『魔力溜まり』へと走った。

そこは、ザベルが地下牢から魔力を吸い上げていた、いわば「館の胃袋」。

普通なら、5歳児の体が耐えられる場所じゃないが、俺には「死」という名の試行錯誤リトライがある。


「あいつが俺を『固定』しに来る前に、俺があいつを『固定(殺害)』できる強さを手に入れる」


扉を開けた瞬間、致死量の魔力が爆風となって俺を襲う。底から吹き上がる、毒々しいほど濃密な魔力の奔流。


「さあ、レベリング(死の特訓)の時間だ」


俺はその奔流の中へ、自ら身を投げ出した。


《高濃度魔力による細胞崩壊。死亡を確認しました》

《リトライ:1回目》

一瞬で全身の血管が破裂して死亡。

《リトライ:12回目》

魔力に焼かれる苦痛に耐え、あえて肺の奥まで魔力を吸い込み、内側から爆発して死亡。

《リトライ:45回目》

《死亡ボーナス:耐性スキル【魔力汚染耐性Lv1】を獲得》

少しだけ、長く留まれるようになった。

《リトライ:100回目》

あえて魔力の「渦」の正反対に立ち、全身の魔力回路を強引に逆流させて死亡。

《リトライ:180回目》

《死亡ボーナス:スキル【魔力吸収Lv1】に覚醒》

死ぬ間際に吸い込める魔力量が、飛躍的に跳ね上がる。

魂が磨り減り、5歳児の体がミシミシと悲鳴を上げる。

だが、死ぬたびに「魔力の扱い方」が、数十年修行した老魔術師のように脳に刻まれていく。

(……もっとだ。もっと効率よく、最短ルートで『あの仮面』を殺せる出力まで上げろ!)

《リトライ:300回目》

暗闇の中、俺の全身が青白い閃光に包まれる。

もはや苦痛すら感じない。死はただの「更新作業」に過ぎなかった。

数時間後。

地下室に、幼い子供の低く、静かな声が響く。

「……よし。仕上がりは上々だ」

《レベルアップ:Lv15 → Lv30》

《スキル【魔導の深淵】を獲得しました》

俺はパチパチと弾ける魔力を指先に纏わせ、地上へと駆け出した。

そこでは今まさに、エルーシアたちが「死の手紙」を広げ、絶望の使徒を迎え入れようとしているはずだ。

「待たせたな、白仮面。……二周目の攻略開始だ」


ちょっとおかしいところがあるかもしれません!もしあったら教えて下さい!修正します!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ