序章 あの日あの時あの夜で
月光が降り注ぐ屋上で少女が二人倒れていた。
血の湖の水源となった彼女らは同時に静かにまぶたをおろした。
東京のある一角にある軍事施設に厳重にロックがされてある扉がある。
その中に立ち入れるのはごく一部の人間のみであった。
その扉の奥にはまるで病院の入院棟の一室のように床、壁、天井、その室内のほとんどを白色で統一されていた。
しかし、窓には鉄格子がついており異様な雰囲気を醸し出している。
窓の直ぐ側には介護ベッドがある。
そのベッドに一人入院着を身にまとった小さな少女が寝ていた。
少女の腰にまで届く白銀の長い髪の毛がベッドの上で広がっている。
双眸は鮮やかな黄緑色をしていた。
「これで何度目だっけ?」
少女は一人、ポツリとこぼした。
当然答えが返ってくることはない
もうここに連れてこられて何日、いや何年たっているのか少女には知る方法がなかった。
「自由に動けない体によくわからない薬を使われて一体軍は何をしたいのかよくわからないな〜」
右の二の腕に繋がれた点滴を見ながら少女は愚痴をこぼす。
左側を見るとそこには一つ床頭台がある。
一見どこにでもある床頭台だが、テレビや観葉植物などがない代わりに一丁の黒いハンドガンがおいてある。
ホルスターに収まったM45A1、彼女がかつて使っていた銃である。
その横には紺色のトレンチコートが丁寧に折りたたまれ、上に緑色のマーカーが乗っている。
しかし少女にとって手に持つことのできない銃も袖を通すことのできないロングコートも今や思い出の品となりつつある。
少女は大きくため息をついてから天井を見上げる。
そのままあくびをするとゆっくり双眸を閉じた。
少女はまた繰り返すあの日までの出来事を
少女はまた繰り返すあの日の喜びを
少女はまた繰り返すあの日の怒りを
夢の中で鮮明に描き出す。
ベッドの横にはきれいに並べられた両手両足分の義手義足がおいてあった。




