たとえ世界が嘘だとしても
今日もまた、朝が来た。
「おはよう」
誰もいない部屋に挨拶をする。当然、返事は帰ってこない。
大学一年の夏、僕は恋をしていた。ただ、同時に気づいていた。
この世界が「嘘」だということに。この世界は仮想世界。存在していないんだ。なぜこのことに気づいたのか、それは中学2年のことだった。
「隼人!一緒に帰ろう!」
同じクラスの美しい彼女の名は「二ノ宮咲」輝くような瞳に、黒くてさらさらした長い髪。それに加え、成績上位。そして大手芸能事務所に所属している。
僕のような陰キャとは程違い存在だ。そんな彼女に、僕はすぐ恋をした。
中二の冬、終業式に思い切って告白をした。彼女は、少し間を開けて、「いいよ」と言った。
でも、その幸せは続かなかった。世界が、この世界がバグを起こしたんだ。そのせいで、彼女は消滅してしまった。
今、玄関には彼女と撮ったツーショットが額縁に、静かに待っている。
「バイトか…」
独り言をこぼし、バイトへ向かう。彼女を助けるための大学の学費を支払うために、僕は毎日、居酒屋とラーメン
園、そして近所のカフェで昼夜問わずバイトをしている。
「いらっしゃいませ。お二人ですね?」もう慣れてきた。
そして彼女が消えたあの時のトラウマがたまによみがえってくるけど、そういう時には、彼女の写真を見ながら、風を浴びながらなんとかしている。
僕は願っている。毎日、彼女が、咲が帰ってくることを。
寝ると、彼女の夢を見るんだ。
「隼人、近所にカフェができたらしいよ。週末に行こうよ!」
「うん、行こうか」
彼女が世界に消される前のあの景色が、鮮明に見えてくる。目が覚める、まだうつ病は克服できていないか…
起きたら涙がこぼれている、そんな毎日だ。
そしてある日。
「咲...帰ってきてよ...」
僕が気晴らしに海に行っていた時だった、砂浜に服を下ろし、夕日を見ていた。
「...たとえ世界が嘘だとしても、私は希望を捨てないよ」
そんな声が聞こえる、昔、彼女が言っていた。
僕は泣きながら、ずっと目の前を眺める。その時だった。
「ただいま、隼人」
確実に見えた。世界の嘘が、彼女の影が。後ろから声が聞こえる。
「本当に、ただいま」
じゃなかった、彼女は、嘘じゃなかった。世界によって消されたのに、彼女は戻ってきた。
「お…お…おかえり!」
僕は抱きしめた、彼女も、僕を抱きしめた。
「本当に、おかえり」
彼女を抱きしめながら僕は泣いた。世界が嘘だとしても、希望を捨てなかったから。戻ってきたんだ。