愛に溺れる者たち 魔法学園プール溺愛事故5連鎖 吟遊詩人→聖女→勇者→魔王妃→魔王
魔法学園高校では一年生の夏から水泳の授業がある。
「嫌だな。泳げないのに」
アシュリンは廊下を歩きながら呟いた。
通りかかった音楽室を覗くと、ハープを引いている男子生徒がいた。
密かに憧れている二年生のフィン先輩。
目を閉じてハープをはじく姿は実に優雅だ。
不意にフィン先輩が目を開けて手招きした。
私はドキドキしながら近づいた。
「やあ。泳げなくて困っているって?」
「え、聞こえたんですか?」
「耳はいいんだ。僕で良ければ泳ぎ方を教えてあげようか? 君になら――」
フィン先輩が少し照れ気味に言った。
もしかして先輩も私のことを?
きゃー。
◇
夕暮れ。
私とフィン先輩は学園のプールに忍び込んだ。
二人とも水着姿。
見られるのも見るのも恥ずかしい。
先輩も少し顔が赤い。
「それっ」
先輩が照れ隠しのように、一気にプールに飛び込んだ。
「あ、あれ? 水が冷たい。体が動かない。ま、まずい!」
先輩が溺れちゃった!
助けなきゃ。
だけど私は泳げない。
それに誰もいないし。
こうなったら唯一得意な魔法で。
私は魔力で地面に召喚の魔法陣を描いた。
危機の波動を感じた人が助けに来てくれるはず。
さっそく聖女が現れた。
「あの、フィン先輩のお知合いですか?」
「ええ。彼は私たち勇者のパーティーの吟遊詩人なの」
そうだったの? 凄い。
溺れてはいるけど。
「それより早く助けなきゃ。彼を失うなんて耐えられない」
もしかして聖女もフィン先輩のことを?
「今行くわ!」
聖女がプールに飛び込んだ。
「しまった! 私、泳げないの!」
おい。
「愛する聖女! 大丈夫か!?」
魔法陣から鎧姿の勇者が現れた。
「とうっ! うぐっ! 鎧が重くて溺れる!」
おいおい。
「魔王妃、見参」
ええ!? 魔王の妃の!?
「倒した私を見逃してくれた勇者よ。密かに慕っておった。魔王を封印する宝玉も持参した。死ぬでないぞ!」
魔王妃は水の上を歩くように移動したけれど。
「せ、聖女の加護で魔力が封じられて、ブクブク」
水没。
「我は魔王なり。最愛の妃よ。いずこに」
ま、魔王来ちゃった。
魔王妃のように水の上を歩いて行くけれど。
「封印の宝玉のせいで魔力が封じられて、ブクブク」
仲のお宜しい夫婦ですこと。
結局、私がフィン先輩を助け出した。
なぜ泳げない私に助けられたかというと、プールは足のつく深さだったから。
そしてフィン先輩が魔力ハープを奏でてみんなの混乱を治してくれたので全員無事。
ついでに私、フィン先輩に教えてもらって泳げるようになりました♪




