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ブラインドをあけた真実から

作者: 糸瓜

「真奈美ーごめん今日は用事あって放課後残れないんだーほんとごめんね」


一日の授業を全て終えたとき、教室掃除の俺は掃除ロッカーから箒を取り出しながら教室の出入り口で話しこんでいる二人組に視線をやった。一人はいかにも今風な女子高生って感じの青村と一人は漫画とかでよくありそうな言うなれば委員長タイプの地味な女子高生の秋岡だった。。


「紗枝、またぁ?」

「ごめんってー」


ちっとも悪びれた様子がない。他人である俺から見てもそれは悪いと思っている人間がするような顔ではないのが一目瞭然だ。おまけに青村の後ろでは似たような女子高生が三人待機している様子がみえた。この状況かすると、青村はこの三人と遊びにでも行くのだろう。

それに気づいているのかいないのか、秋岡は無表情で「わかった」と呟くと黒板消しを手に持ったまま窓辺へ向かう。さいごにもう一言「ごめんねー」とそう思ってもいなくせにと思わせるような楽しげな声で平謝りしながら去っていく。俺は自然とその背中を見ていた。あのやろうまた教室掃除サボりやがったな。

そして視線を教室に戻すと窓辺で黒板消しを両手に持ってパタパタさせていた秋岡の横にまた誰かいた。室口だった。


「真奈美ーごめん、実は今日バイト入ってるんだー、悪いけど放課後残れないわ」

「美香も?」

「うん、だからごめんねー」

「わかった」


秋岡はまた視線を黒板消しに戻しながら無表情で頷いた。「じゃ、ごめんね、急ぐから」そんな言葉を発しながら室口はあっというまに教室から姿を消していなくなってしまった。帰れるなら俺だって早くかえりてーよ。だが生憎なことに今日は何の予定も入っていなかったりするのだ。

掃除はやりたい人がやる、なんてそんな甘いルールはないしそんなのだったら誰も好き好んで学校の掃除なんてしない。これは校則であり、一日の授業を全てとSTを終えてから一定の期間でローテーション交代して決められる『担当の掃除場所』に向かう。決してサボっていいものではないはずだ。

まぁでも見張りの先生が各掃除場所にいるわけでもないのでさっさと下校してしまう生徒もいる。それが今みたいな典型的女子高生だったりする。で、最終的に掃除を全て引き受けて終わらせるのは真面目な生徒たちだけ、ってこと。つっても俺はあんまり真面目な人間には分類されないか、授業中だってよく寝るしケータイだって弄るし、しゃべったりするし。

とにかく、真面目に掃除してくれる奴が他にいるんだし任せてもいいだろうって勝手に解釈しやがって帰るやつがいる。教室掃除って机運ぶの面倒だし面積広いし汚いんだぞ、人数多いほうが明らかに早く終わるってーのに自分たちだけ楽しやがって!と、俺はいけしゃあしゃあと帰っていくやつら(主に女子)を睨みつけながらよく悪態をつく。絶対あーゆー掃除もまともにやらないやつらの部屋は汚い。

それに友人たちがさっさと帰っていくのを文句の一つもいわずに承諾してる秋岡も秋岡でおかしいと思う。なんかガツンと言ってやれよ!明らかにお前のほうが優勢だぞ。

俺は黒板消しを元の位置に戻している秋岡の背中を見ながら口を開いた。


「秋岡さぁ」

「何」

「あーゆーのって止めないわけ?だって青村とか明らかに遊ぶために帰るだろ」

「あぁ、まぁそうだろうけどね」

「放課後残るってさ、研究発表のまとめとかするんだろ?あと数日で発表日なのにあんなあっさり帰していいのかよ」

「いいわけないでしょ」


眉間にしわをよせ目を細めながら秋岡が声のトーンを低くして答えた。その瞳には明らかに怒りが混ざっているのがわかる。


「いいわけないなら怒ればいいじゃん」

「怒ったけど、聞かないんだもん。結局言ったって、聞く耳もってくれないみたい。あーはいはい、とか空返事ばっかり」


呆れたように溜息をつく。その溜息には疲れが見える。


「じゃあなに、明々後日の研究発表のまとめってお前がほとんどやってるの?」

「そんな感じ。たまに残ってくれたりとかしたけど、ほとんど私がやってるんじゃないかな。ていうかもう逆に余計なことされるとこっちがわからなくなるし」


触られないほうがいいんじゃないかな。と遠くを見つめながら言う秋岡にふーんと納得して相槌をうちながら俺は箒を動かした。

まぁそういうこともあるのか。つーか…


「俺前から思ってたんだけど、秋岡ってなんで青村たちと絡んでるわけ?明らかに性格違うよな」


この疑問を持っているのは俺だけではない、クラスの大半は不思議に思っていることだった。秋岡は真面目でおとなしい、物静かなタイプ。青村はどちらかというとその真逆で授業中も平気でしゃべっては周りに迷惑をかけていた。そんな真逆同士が一緒にいるなんてクラスではとても異端な光景だった。

俺の質問を聞いて秋岡は少し考えるように片手をあごの下にもっていった。


「さぁ、なんでだろ。たまたま席が近かったからかな。でも趣味は一応合うよ」

「ええーうそ、趣味合うとか想像できない」


俺が意外そうに言うと秋岡は目を細めて俺を見る。なんだか普段物静かで無表情な奴にこんな顔をされると心なしか脅えてしまうのは俺が単に臆病だからだろうか。これ以上余計なことは言ってはいけないと俺の中の何かが言った。

そんな俺の心境を無視して秋岡は口を開く。ひどく不愉快そうだ。


「あのさぁ、みんなそう言うけど私はあんたらが思うほどそこまで真面目ちゃんじゃないし、優等生キャラじゃないんだよ」


まさしく俺が思っていたことを言い当てられてドキリとした。実際秋岡の成績はどれほどのものなのかなんて知らないけど勝手に頭の中で「秀才」のイメージを植え付けていた。多分それは俺に限られたことではない。


「学校では進路とか将来のことあるから大人しくしてるけど、私は化粧だってするし、お洒落だってするし、可愛い服があれば買うよ」


学校で青村たちみたいに馬鹿騒ぎしないのは下手に自分の評判を下げないためであるとストレートに教えられた。なぜわざわざ校則にうるさい先生たちに反抗するような態度をとるのか、素直に従う方が楽なのは確実なのにその反抗にそこまでの価値観があるのか、はたして自分に利益はあるのか。

確かに先生たちに悪い印象を持たせたところで自分側に利益があるとは思えない、むしろその逆だ。俺は秋岡が先生の前では普通の地味な女子高生を演じているのを聞いて驚いた。しかしそれよりも秋岡が化粧をするのが以外だった。俺の中ではどこまでも地味な女で一直線なイメージだったからだ。

そこで思ったことを素直に口にしてしまった。


「猫かぶってたわけ?」

「猫をかぶるのとはまた違うような…。単に無駄なことはしたくないから大人しくしてるだけだよ。でもやらなきゃいけないことはしっかりやらないと気が済まないかな」

「結局根は真面目なのかよ」

「さぁ?他人がそう判断するならそうなのかもしれない。私はこれが当たり前だと思ってるから」


あんまり笑わない秋岡がふわりと笑ったものだから不覚にも俺は心臓が一瞬とび跳ねた。やはり男としてはオシャレで可愛い女の子に目がいってしまうもので、地味のジャンルで分類されていたから異性として目もくれなかった秋岡だけれど、改めて自分に笑いかけられたらドキリとする。

もし秋岡が普段からすごくオシャレで髪も巻いて甘い香水の香りを漂わせながらころころ笑っていたら、きっと俺は目で追っていたのではないか。そんな錯覚に陥った。


「でもいくら私が真面目に見えるからって、『ある程度やってくれるでしょ』みたいな押し付け方してくる紗枝や美香はよろしくないね」


まだ話しが続いていることに俺は我を取り戻しながら曖昧に頷いた。秋岡の眼が怪しく光っているのが見える。


「ま、いいけど」


そんな言葉を吐きながら鼻で笑う秋岡を見てこいつサドだな、とどこかで感慨する俺がいた。









「それでは次のグループは前に出てください」


進行役の人にマイク越しに呼ばれた次の班はピクリと身を震わせた後にぎくしゃくとした動きで椅子から立ちあがり前に出だした。

今日は今まで調べてきたものを発表する研究発表会だ。この一週間は俺も毎日放課後に残っては同じグループの仲間たちと発表内容やらまとめやら感想やらを考えてはパソコンに打ち込みデータ処理をしていた。とても疲れる一週間だった気がする。毎日帰るのは外が暗くなってからだったし。

まぁ俺の班はすでに発表を終えてひと段落ついたところだったから緊張もほぐれ、次から次へと発表される他のグループの研究内容をぼーっと眺めているだけだった。


「え、えー…これから私たちの発表を始めます」


発表者が固い動きで礼をする。明らかに緊張しているのが見て取れた。


「……で、…なるから、……という結果になりました。ここから……」


時々途切れながらも一生懸命説明する発表者の声を聞いて俺は若干眠気に襲われた。スクリーンに映し出された映像や文章をただただ読み上げるその発表者たちは自分たちでも何を言っているのかわからないといったような顔をしている。

それもそうか、俺は落ちてくる瞼を必死で開こうとしながら納得した。それから結局眠気に負けて五分くらい眠ってしまったと思う。目を開いたときにはちょうどそのグループの発表が終えたときだった。


「以上で発表を終わります」


一礼する。

そこで発表中は後退していた進行役が再び前に出てきた。


「ありがとうございました。では、何か質問のあるかたはいらっしゃいませんか?」


数人が手をあげる。その中には教師も数人含まれていた。やがて手の上がった方向へ進行役の人がマイクを持ってかけより、マイクを手渡す。


「不思議に思ったんですが、……の……では……になるんですか?それは……ですか?」


俺には難しすぎて何を言っているのかわからなかった。発表者たちも質問の意味すらつかめずおろおろしながら仲間同士話し合っているようだが結局は無駄だったようでしばらくの静寂の後に「わかりません……」そう小さく呟くのが聞こえた。

そうすると質問者は小さくため息をつきつつ「わかりました」諦めたようで、そういいながら腰を下ろす。


それからも何人かが発表者に質問を繰り返していく。そのたびに発表者は「わかりません」の一点張りであり、まともに質問に答えらるものなど一つもなかった。これは周りからすればきっと酷い評価になるのが目に見えている。

そしてやっと質問が全て終わり、発表者が俺の座っている場所の横を通り過ぎたとき悪態をついているんだろう呟きが耳をかすめた。


「なんで今日に限って真奈美ったら風邪ひくの?!おかげで何言われてるか全くわかんなかったじゃん!ほとんど真奈美がやったんだからウチらがわかるわけないし!」


キーキー騒ぐその人物の後ろ姿をじっと見た。

だってそれは明らかに青村たちが悪いと俺は思う。誰しもがそう思うだろうに本人たちはまったく自覚していないというのは実に滑稽だった。

秋岡は今日は風邪で学校を休んだらしい。よく欠席するやつが発表日に休んだら怪しまれてもおかしくはないけれど秋岡は今まで休んだことがなく無遅刻無欠席続きだったので特別怪しまれてはいない。俺も珍しいと思い、本当に風邪ひいたんだなって気の毒に思う半面羨ましくもあった。


結果、秋岡のいないグループのメンバーである青村や室口は挙動不審になりながら発表をしたわけだ。何もわからないまま始まって答えられないまま終わったわけ。

でもせっかく秋岡が頑張って一人で仕上げたも同然の発表内容をぼろぼろにしてしまったのはひどく惜しく感じられた。あんなに頑張ってたのに採点低いだなんて気の毒だよな……。

だけど正直、青村とか室口とかが焦ってる様子をみてちょっと満足してしまった俺もいる。あー俺って嫌なやつ。









「あ」

「……」


そうあからさまに嫌そうな顔されるとたとえ他人であっても傷つくでしょう。俺は目の前で片手にスーパー袋をぶらさげて立っている人物に視線をやったとたんそれが見知った顔であることに気付いて思わず声をあげていた。


「秋岡じゃん。風邪じゃねぇの?」

「治ったの」

「早いな」

「嘘にきまってるでしょ」

「だろうな」


普通は風邪が治っても外出なんてしない。しかもそんなオシャレしてる姿を見て「風邪で学校休んだんですか、そうですか」なんて言えるか。

つまりあれだな、お前はズル休みをしたわけだな。瞬時にそう察した俺は重たい肩掛けカバンを肩にかけなおして秋岡を見た。


「完璧主義じゃなかったのか?」

「何の話?」

「今日の研究発表、お前のグループぼろぼろだったぞ」

「ああ」


俺の言った意味を理解したのか軽くうなずいて、口に手を当てて笑う。俺はてっきり焦るとかなんとかすると思っていたのに予想外な反応をみて内心少し驚いた。自分の班なのに、しかも自分が一生懸命まとめたデータなのに酷い結果になってもなんで笑っていられるんだろうって。

秋岡頑張ってたのに。


「やっぱりひどかったんだ?まぁある程度想像はしてたけどね」

「どういう意味だ?」

「とりあえず、自分のすべきことさえ他人に押し付けていたら結果はこうなりますよって教えたかっただけ」


秋岡の言い分はこうだった。もし今日秋岡が発表に参加していたとしたら、きっとスムーズに進んだだろう。けれどそうなってしまったら何もしてない青村たちは「問題なく終わった」という認識しか持たず、自分が誰かに苦労をかけたことなど微塵も感じはしない。この連鎖。

一理ある。俺だって、もし仕事とか押し付けられて最終的に「俺がやった」仕事を「みんなでやった」みたいなふうな扱いされたら嫌だ。仕事を押し付けたやつも「任せればいい」という甘い考えしか思い浮かばなくなってくるんじゃないか。でも、


「だからって風邪でもないのに学校休むのは……」

「わかってる。ていうかその理由は建前で単に紗枝たちを困らせたかっただけだし、私の自己中心的な我儘だよ」


そうだよな、単なる我儘だよな。とは口には出せないけど本人もそう思っているならそういうことにしておこう。

何だかんだ言ってこいつは自分のこととか立場とかちゃんとわかってるんじゃないかってそんな気がする。あくまで俺の意見だけど。でも自覚してないより全然良いと思う。

そんでもって秋岡にはもうこんなことしてほしくないかもなーって思う俺がいた。やっぱり俺の中で秋岡は真面目だし優等生だから。まぁそれだけじゃないかもしれないけど。


「明日はちゃんと学校来いよ」

「はいはい、言われなくとも行きますよ」


苦笑しながらそう答えられて「そっか」って安心した。そして自然な流れで俺と秋岡は「じゃあ」「じゃあな」声を掛け合って離れる。

今日は天気が良いから夕日も綺麗で空も家も道も全てがオレンジ色に染まってみえて、秋岡の後ろ姿はどっかで見た映画のワンシーンみたいだった。


「秋岡!」


思わずその後ろ姿に声をかける。その声に気づいて秋岡が振り向く。


「何?」


そして距離があるからよく聞こえるように口に手をあてて叫ぶ。


「似合ってるよ!その服!」


俺、ファッションに鈍いけどね!


そうすると秋岡は当たり前といったような笑みを浮かべた。


「…そうでしょ?」



まったく、食えないやつ。





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