山形くんと千葉くん
この作品はBLです。苦手な方はお戻りください。
【世界設定】現代日本。同性婚が法律で認められている。男性妊娠はない。特殊バースもありません。
『本日は晴天に恵まれ、卒業生の皆様を送り出すに相応しい門出の日となりました。これより倭大学園高等学校、第67回卒業式を開催致します』
低すぎない耳心地の良い声で宣誓され、卒業式が始まった。
舞台の下で式の司会を務めるのは、生徒副会長の千葉 伊織である。
なんの加工もされていない黒髪を高校生らしいお手本のような髪型に整え、野暮ったい黒縁眼鏡をかけ、直立不動で司会進行をしていく姿は、外見を裏切らぬ生真面目さが滲み出ていた。
事実、生徒指導の先生を始めとする教師陣にはすこぶる評判の良い千葉である。来期の生徒会では会長にと勧める教師が多かったが、本人が上に立つよりも補佐の方が向いていると副会長に立候補し見事に当選した。
生徒の自主性を重んじる校風では、生徒会を始めとする役員の仕事が多いので立候補者は以外と少なかったりする。自然と前期の役員が繰り上がることが多くなっている。
今の生徒会も新しいメンバーは副会長ひとりと会計ひとりだけで後は繰り上がりである。
「ボタン、弾け飛びそうだよな」
千葉の隣には座る岡山 悟史がこそっと耳打ちする。
壇上ででっぷりとした体を押さえ込んでいる燕尾服のボタンを目にして、千葉は吹き出しそうになった口を慌てて押さえた。
抗議するように睨むが岡山は涼しい顔で校長の長々とした祝辞を真摯に聞くふりをした。
生徒会長となった岡山は愛嬌があり、人を使うことが上手い。岡山が会長ならば、副会長の仕事もやり甲斐がありそうだと千葉は思っている。
学園長は教育熱心で良い人なのだが、スピーチに教訓を入れたがる傾向があり往々にして話が長くなるのが常だった。
四字熟語を駆使して熱く語る学園長の姿を見て、千葉は持っていたマイクをオフにして机の上にそっと置いた。
長かった学園長の祝辞がようやく終わり、PTA会長などの祝辞、電報の披露、そして卒業証書授与へと続く。
担任に名前を呼ばれた生徒が壇上に上がり、校長から証書を受け取る。卒業式のメインイベントに保護者も教師も感慨深くそれを見守った。
緊張した面持ちの中に何人かの見知った先輩を見つけ、寂しいような嬉しいような複雑な気持ちになる。
「山形 智哉」
先輩たちの中でも一番深く関わっていたと言っても過言ではない山形の名前を聞いて、千葉は思わず視線を動かした。
席を立ち堂々と歩く姿を見つけた時は、かなり複雑な心境になった。卒業を喜ぶ気持ちも寂しく思う気持ちもあるが、同時に安堵もしている。
前の生徒会長だった山形に千葉はかなり振り回されていたからだ。
岡山と違い、有言実行で即断即決な山形は周囲を振り回しながらも、持ち前のカリスマ性でいろんな事柄を収めてしまう。
たが、振り回される千葉にしてみれば困った存在でもあった。
山形は壇上で受け取ると振り向きざまにガッツポーズを取り、一部から歓声が上がった。
こういうところが、千葉には理解できないところである。
山形は階段を降りながら千葉へとウィンクを投げかけてくる。なにをしているんだ。
前を向け。と、顔を僅かに顰めた千葉に肩をすくめて大人しく席へと戻っていく。その様子を数人の友人が冷やかしていた。
注意すべきか判断に迷い、隣に座る学年主任の徳島先生に視線を向けると微苦笑で首を横に振ったので許容できる範囲らしい。大きな騒ぎでもないから大丈夫なのだろう。
だが、本当に山形さんには困ったものだ。
「相変わらずだなぁ」
「まったくだ。最後ぐらいきちんとすればいいものを」
「こっちも相変わらずだ」
岡山の揶揄う声色に首を傾げるとニヤっと笑うだけだった。
卒業証書授与が終わり、在校生代表で岡山が祝辞を述べる為に壇上に上がる。
岡山は笑顔で先輩達の門出を祝福している。山形と違い、岡山はこういう時はちゃんと真面目にやってくれるから安心できる。
山形は急にアドリブを入れたり、掛け声をかけたりとやりたい放題だった。
苦労した過去を思い出しながら時計を見る。
うん。少し押しているが、許容範囲内だ。
校長の祝辞が予定よりも長かったが岡山が少し巻いてくれたおかげでそこまでの誤差はなくなった。
戻ってきた岡山を視線だけで労うと、マイクを手に取る。
「続いて、卒業生謝辞。卒業生代表、山形 智哉」
山形の名前を呼べば、返事と共にスッと立ち上がり壇上へと向かう。
堂々とした立ち姿は凛々しい。卒業証書授与の軽薄さはどこにいったのか、キリリと精悍な表情をしている。
まったく、普段からそうであれば少しは好感が持てるものを。
多少強引な所もあったが、山形は良くも悪くも行動力に溢れる会長だった。たまに破天荒な言動に生徒会の面々、特に千葉は振り回されて大変な思いをしたものだ。
それもこれもいい思い出。
……なんて言葉で締められるものか。
新入生歓迎プログラムを一週間前に変更したり、総体の手続きを忘れて走らされたり、生徒会なのに合宿をするとか意味不明なことを言って俺と岡山が手配に奔走する羽目にもなった。さらに、夏祭りだ花火大会だと夏休み中も何度も呼び出され、修学旅行中にメッセージを何度も何度も入れてくるし、土産の催促をするし、非常にめんどくさかった。
お前受験生じゃないのか!と、叱りたかったが、山形は腹が立つ事に優秀だった。
遊んでばかりに見えるのに、学年順位は常に3位以内で全国でも上位にいるらしい。
昨日も卒業式前日だと言うのに、前夜祭だと新旧生徒会メンバーを招集しカラオケに連れて行かされた。
人前で歌う事なんて賛美歌ぐらいしか経験がないと言えば賛美歌を歌わされ、これなら知っているだろうと一緒に童謡を歌わされた。
意味が分からない。
そんな日々も今日で終わる。
「ーーーー本校で学んだ事を活かし、其々の場所で活躍していく事を誓います。最後になりましたが、私達を教え、導いてくださった教員を始めとする学院の皆様、見守ってくれた保護者の皆様に多大なる感謝を致します。誠に、ありがとうございました」
綺麗なお辞儀をする山形には昨日の馬鹿騒ぎしていた片鱗は見えない。
本当に、やる時はちゃんと出来るから生徒からの支持が高いのだが、いかんせんそれに振り回されるとなると話は別だ。
さあ、後は校歌斉唱だけだと思っていたが、何故だか会場から戸惑うような小さな騒めきが生まれている。
みんなの視線を追って壇上を見れば、まだ頭を下げたままの山形がいた。
何をしてるんだ…。
時間押してるのだから、早く降りて欲しい。
促すべきだろうかとマイクを手に取ると、山形は勢いよく顔を上げて、酷く真剣な顔で再びマイクを握った。
「最後に私的な告白をさせて頂く事をお詫びします」
そんな予定はない。この後は校歌斉唱だ。
山形の突然の宣言に、大多数は千葉と同じく困惑していたが、一部の山形の友人達は口笛を吹いたり「がんばれー」などと冷やかすような掛け声をかけている。
千葉は直ちに「静粛に」と言わなければならない立場なのだが、なぜか壇上の山形に睨みつけられて動けないでいた。
いつになく真剣な眼差しに心臓がどくりと鳴り、無意識に唾を飲み込んだ。
何か、しただろうか。
昨日、無理矢理肩を組まされた時に殴ったのがいけなかったのか。今朝、曲がっていたネクタイを結び直したのが悪かったのだろうか。
なにか、なにを、どうして?
皆の緊張に静まり返った会場の中、山形はマイクのスイッチを切り、演説台を離れて舞台の端まで歩き千葉に向かって叫んだ。
「千葉 伊織っ!好きだ!愛しているっ。結婚を前提に俺と付き合ってくださいっ!」
途端に卒業生や在校生代表から湧き上がる歓声。
「言いやがったー!」
「すげーぞ山形ぁ!」
「千葉ぁ!返事してやれー」
好き勝手に騒ぐ体育館のなかで、千葉は山形だけを見ていた。
さっきよりも深く直角に曲げたお辞儀のまま山形は千葉の返事を待っている。
山形の告白は言葉は聞こえたが、頭にすんなり入ってこない。
混乱する頭を振りし、千葉は一度深呼吸をする。
二人の一挙手一投足を皆が見守る中、千葉は持っていたマイクを口に近づけた。
「山形 智哉さん、式の進行の妨げになります。速やかに降りてください」
冷静な言葉に会場のあちこちから騒めきだす。山形は目を丸くして茫然と千葉を見返していた。
「ええ!ねぇ、今、俺、告白したよね?え?返事は?ねぇ?」
「進行の妨げになります。速やかに降りてください。皆様も静粛に」
有無を言わせぬ冷静な言葉に、山形は肩を落として壇上を降りた。
周りの友人たちが肩を叩いて慰めている姿を見て若干の申し訳なさがあるが、これ以上進行を遅らせるわけにはいかない。それも個人的な内容でだなんて言語道断だ。
騒ぐ会場に再三注意を促し、進行係に勧められるまま校歌斉唱が行われた。
一人冷静に立つ千葉の首が赤く染まっている事に気がついた岡山は、悪戯を思いついた子供のようににんまりと笑みを浮かべていた。
無事に式が終わり、卒業生たちはグラウンドで同級生や先生と最後の交流をしている。
会場の片付けを手伝っていた千葉は岡山に美品の箱を手渡された。
「こっち放送室に持っていくから、千葉はこれ生徒会室に戻しといて。そしたら、もう終わりだから帰っていいってさ」
「分かった。お疲れさま」
「お疲れー」
素直に会場を去る千葉の後ろ姿を確認して、岡山は携帯電話を取り出した。
その表情は鼻歌でも出てきそうなほどご機嫌だった。
体育館を後にした千葉は、校舎の2階にある生徒会室へと向かっていた。
人の少ない校舎はどこかよそよそしく感じる。
グラウンドの騒がしさが余計に校舎の静かさを際立たせているようで、千葉はいつもより足早になった。
生徒会室のドアを開けて中に入れば人影が見えた。誰もいないと思っていたので、驚いて声が出そうになった。代わりに手に持つ箱の中の備品がガチャと音を立てる。
「あ、山形さん。……どうしたんですか?」
会長の机に座って、狭い部屋を見ていた山形が千葉に視線を移すとへらりと笑った。
いつもの笑い方に緊張していた肩の力が抜ける。
「ん。ちょっと、感傷に浸ってた」
「そう、ですか」
引き継ぎもあり、実質引退したのは1学期の終わりである。その後も、受験生のくせに幾度も顔を出してはくつろいでいたやまがたにとっては思い出深い部屋なのだろう。
自分も来年になればそんな気持ちになるのかもしれない。
山形の邪魔にならないように、持ち帰った備品をそれぞれの棚や引き出しに戻していく。
なんだか、気まずい。
さっきの騒動を忘れたわけではない。あの場で返事などできるわけがないから仕方ないとはいえ、無視した形になっている自覚はあった。
背中に視線を感じる気がする。
気がするだけで、外れていたら恥ずかしいことこの上ない。自意識過剰すぎるかと片付けの手を速めれば、元から少ないそれはあっという間に終わりそうだ。
「なぁ、千葉」
「っ!は、はいっ」
不意に名前を呼ばれて、手にしていたガムテープを取り落としてしまった。
よりにもよって山形のほうへと転がっていくガムテープを目で追うと、ガムテープを拾い上げた山形は数歩で千葉の目の前にやってきた。
呆然と見上げる千葉の前に立つと手を伸ばして千葉の背後にある棚にガムテープを置く。
思いかけず、棚と山形に挟まれてしまった千葉はなぜか上手く呼吸ができなかった。
「さっきの返事は?」
30cmも離れていない距離に、咄嗟に両手で山形の胸を押し返そうとするが頑丈な体はびくともしない。
山形は小学生から空手を習っている有段者で、対する千葉は体育の授業以外で体を動かす事などほとんどないインドア派だ。
前々から何かと距離感が近い山形だったが、こんな風に詰め寄られたかとはなかった。
千葉としては大いに困惑しているのだが、残念な事に表情に出難い。
「好きだよ、千葉。俺と付き合って」
「冗談………」
「本気だよ。いくら俺でもこんなこと冗談なんかで言わない」
うそ。と言いかけた言葉を飲み込む。
真剣な眼を向けてくる相手に否定する言葉は言えなかった。
こんな眼差しをする人間だっただろうか。
真摯なのに、請い願うような揺れが見え隠れする本気の視線に気圧されて、心臓が早鐘を打つ。
千葉が知る山形は自信家で行動が突飛で、千葉を振り回してばかりだった。
春には新入生レクレーションの打ち上げだと花見を企画し、総会で食堂のメニュー改善案を出すといっしょに調理する羽目にもなった。
花火大会では浴衣で来いと言われ、浴衣が無いと言えば貸してやると持って来る。しかも着付けまでやってくれた。
体育祭では応援団をする自分を応援しろと言われ、文化祭ではなぜか共にファッションショーに借り出され、終わればパトロールだと連れ回された。
冬休みには息抜きに付き合えと水族館に連れて行かれて、晩ご飯まで一緒に食べた。正月には突然、家までやってきて初詣だと電車を乗り継いで有名な神社まで連れて行かれた。
いつもいつも振り回されていた。
けれど、自分だけじゃ行かない場所や、しない行動を共にするのは悔しいけれど楽しかったのも事実だ。
そんな山形が自分を好きだと言う。
その事実がじわじわと染み込んで、千葉を混乱に落としていく。
「本当だ。首筋が真っ赤」
山形の右手が千葉のシャツのボタンを2つ外す。首から下は羞恥に赤く染まっていた。
「は、え、な、なにするんですか!?」
慌ててシャツを握りしめて睨みつけるが、山形はなぜか嬉しそうに頰を赤く染めてへらりと笑う。
「千葉は表情に出ないだけで、体は正直なんだな」
「変な例え方をするのはやめてくださいっ!」
片手で力任せに押せば、抵抗なく後ろへ二歩下がる。
その隙に外されたボタンを素早く止める。山形がなにかしでかすかと警戒していたが、山形は幸せそうに千葉を見ているだけだった。
「なんですか」
「可愛い千葉を愛でてる」
「目、洗ってきたらどうですか」
「なんで?」
「どこをどう見たら僕が可愛く見えるんですか」
頭がおかしい。いや視力か、もしくは美的センスか。
自分の容姿が整ってないことぐらい分かっている。ダサい、野暮ったい、面白味がないと言われてきた。岡山からも「ちょっと残念な感じだよね」と言われたことがある。
千葉からすれば何が変なのか、どこが残念なのか皆目分からない。
「どこをどう見ても可愛いしかないけど?」
「視力検査か脳外科をお勧めします」
「好きな子が可愛く見えるのは正常でしょ」
ダメだ。山形と話していると頭がおかしくなる。
千葉はじりじりと出口のあるほうへと体を移動させたが、山形は軽い足取りで出入口の前に立ち塞がった。もうひとつのドアはもう何年も前から荷物で塞がれていて機能していない。
「帰るのでどいてください。それに、山形さんを待っている人がたくさんいるんじゃないですか」
学年問わず人気者の山形だ。卒業を惜しむ後輩たちが多数いることも知っている。
そんな彼が自分のせいでここにいることが申し訳なく感じてしまう。……頼んだわけではないのだが。
待っている人がたくさんいるのだから。そう分かっているけれど、山形がいなくなると思うと心臓がズキズキと痛くなる。心なしか喉の奥が詰まっているような気もする。
俯いたまま、山形の足跡とドアが閉まる音を聞いた千葉は唇を噛み締めた。
なんで苦しいんだろう。
どうして寂しいだなんて思うんだろう。
視界が水面のようにゆらりゆらりと動く。まるでいまの自分のようだ。心が落ち着かない。
あ、しまった。「卒業おめでとうございます」って言いそびれた。………そうだ、もう、言えないんだ。卒業、したんだから。
ぎゅっと目を閉じると、あたたかい手が両頬に触れた。驚いて目を開けると、驚いた顔の山形がいた。
帰ってなかった……。
目の前で「ほら、やっぱり可愛い」と晴れやかに笑う山形を凝視していると、親指で目尻に残った水滴を拭き取られた。
可愛いとか男に使う形容詞じゃないし、第一僕は可愛くはない。
そう言ってやりたいのに、顔が近すぎて言葉が声として出てこない。
せめて顔を離してほしいと軽く山形の腕を叩いてみたが綺麗に無視された。
「俺が帰ると思って悲しかった?」
少し考えて首を振る。
悲しい、というよりも………寂しい。………さびしい?
「……そっか。もしかして、告白したの迷惑だった?」
「あ、いえ、そんなことは……」
しょんぼりとした山形が寂しそうに言うので、慌てて首を振った。否定したのに、山形はさらに沈んだ顔をするので、千葉はどうしたらいいのか分からなくて、咄嗟に山形の制服の裾を掴んだ。
「め、迷惑じゃないです。あの、驚いたのは驚いたんですが、その、嫌いとかでもなくて、その、誰かと付き合うとか考えたことがなくて、あの、えっと……」
恋愛なんて自分とは縁遠いものだと思っていた。
人をそういう意味で好きだと思ったこともないし、ましてや告白したこともされたこともない。あ、いや、さっきされたけれど。
山形のことは困ったひとだとは思うが、嫌いではない。ならば好きかと言えばそれも分からない。
必死に言葉を探している千葉を見ながら、山形はニヤついていた。
いつも淡々としている千葉が珍しく狼狽えている。
視線は彷徨っているし、必死に言葉を探そうとしている様子も可愛くて仕方ない。好きな子が自分のことを考えてくれているのが嬉しくて、思わず右の頬にキスをしてしまった。
しまった。と思った瞬間、千葉はキスされた場所を勢いよく右手で隠し、流れるように左側へスライドした。
「な、なに、なんで、いま、え、なに」
嫌悪が浮かんでいたら流石に諦めていたが、ちらりとみえる手首や耳が赤く染まっているので照れているらしい。
「気持ち悪かった?」
「え?え、ぇ、え?」
「キス、気持ち悪かった?」
混乱している千葉に悲しげな顔で問いかける。反射的に小さく横に首を振った千葉を見て、山形はにっこりと微笑んだ。
「よし。じゃあ、付き合おう!大丈夫、千葉は俺のことが好きみたいだから」
「は?え?」
「男にキスされて嫌悪感がなければ大丈夫。千葉はちゃんと俺のこと好きだよ」
「好き……?」
おうむ返しに呟く千葉に大きく頷いた山形は、千葉の両手を取って指を絡める。いわゆる恋人繋ぎというやつだが、もちろん千葉はそういう知識はない。されるがままである。
「そう。両思い。いきなり恋人らしくしなくてもいいよ。少しずつ慣れていこう?とりあえず、明日デートね」
「え?デートって誰と?」
「もちろん恋人の千葉と。あー、恋人だから名前呼びでいいよな。気軽に智哉って呼んで。よろしく伊織」
「……って、え?名前って、ちょっと…」
幸せに浮かれる山形についていけない千葉は、それでも繋がれた手を振り解くことなく二人で生徒会室を後にした。
翌日、なんだかんだと待ち合わせの10分前にやってきた千葉は、更にその前から待っていた山形に「卒業おめでとうございます」とようやく伝えたのだが、「俺の嫁が可愛すぎる」といきなりハグをされて思わず殴ってしまった。
初デートで失敗も多かった二人だが、千葉の大学卒業を待って結婚し今では仲良く暮らしている。
《終わり》
お読みくださりありがとうございます。