雪山に、閉じ込められたから
「柊太、私達もう駄目なのかな」
「心配ないよ、杏。すぐに誰かが気づいてくれるさ」
「ぐすん。ホテルを出た時は、あんなに晴れてたのに」
滅多に積雪しない土地で育った私は、白銀の世界に憧れていた。
だから冬休みに、ゼミ仲間と他県のスキー場までやって来たのに。
小説みたいに遭難して、腐れ縁の幼馴染と山小屋に閉じ込められてるなんて、そんな展開あり?
「でもこんなに吹雪いてたら、探しに来て貰うのも難しいし……」
「まだ半日だろ。大丈夫だよ」
「柊太、落ち着いててすごいね……。何してんの、それ?」
「これ? 家族やお世話になった人達に、メッセージ遺してる」
「全力で諦め過ぎィィ!!」
何か必死でメモ書いてると思ったら、縁起でもない。
「けど、思い残しは良くないし。そうだ、杏。俺、お前に伝えておきたいことがあるんだ」
「えっ」
ドキッ。
いつになく真剣な彼の瞳に、心臓が跳ねる。
(も、もしかして告白、とか。柊太、私が好きなことに気づいてた?)
ドキドキドキ。
こんな状況だというのに、期待に胸が高鳴ってく。
(柊太も私のこと、想ってくれてたら嬉しい)
「あのさ」
「うん」
「あの……、ずっと昔子どもの頃に」
「うん」
「俺、地元で"雪の結晶見た"って言ったじゃん」
「うん?」
「それで、お前は虫眼鏡使っても見えないって泣いてさ」
「う、ん」
「そんなお前を馬鹿にしたけど、あれ、嘘だったんだ」
「は?」
「俺も見えたのはベショベショに溶けた雪粒で。結晶見えなかったけど、かっこつけたくて嘘ついて。ここ来てお前が"初めて結晶見た"って喜んでるのを横目に、"俺も"って言えなくて後悔した。悪かった! 嘘なんてついて」
「そんな告白求めとらんわ──っ!」
ガタガタガタッ!
盛大に叫んだ私の声に重なって、外の風が小屋を揺らした。
「今この時に、その告白要る? こういう時は普通、愛の告白とかでしょお!」
「えっ、愛?」
「私は柊太が好きよ! もうずっと好き! はい、アンタは!」
「っえ、ええ?」
「動揺してないでイエスかノー! 答えて!」
「イエスかノーなら……、イエス」
「!」
「だってそのために大学まで追いかけたし」
「柊太──!」
真っ赤な柊太にぎゅっと抱き着いた。これでもう思い残すことはない。
「あ」
「何?」
「雪、止んでる」
「え?」
無事、雪山から降りた私達は、その後土地の言い伝えを聞いた。
娯楽に飢えた雪女が、脈あり男女を吹雪に閉じ込め、のぞき見するって話。
……あの時の小屋の音、まさかね?