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93話 解明の祖


 保健室の主、立石クルネは僕をみて、妖しく笑みを浮かべた。その笑みに僕は嫌な予感を感じていた。

 もしかしなくても、彼女は僕が“サナダ”だと気づている。


「オボロくぅん…その人どこで見つけてきたんだい?」

「生徒会室だ。ユユのクリアファイルを盗もうとしていたところを、私が見つけた」

「へぇ…なんでわざわざユユくんの私物を盗もうとしてたんだか…」

「おい、なんでだ。何とか言ってみろ」

「あっしは五十棲ユユと知り合い、でやんす」

「なんだそのしゃべり方は?!さっきはそんなのしてなかっただろ!」

「してたでやんす」


 オボロと呼ばれた少女に頭をはたかれる。

 声を変え、喋り方も変えてみても、クルネは変わらず笑みを浮かべながら僕の方を見ていた。


「と、まあさっきもこうしてユユの知り合いだと言って聞かないんだ。クルネ先生、前のやつを出してくれ」

「前のやつ…?はて、色々作ってるからなんの事か分からないな」

「自白剤だ。前に使ったやつ」

「ああ、“嘘をつけなくなる錠剤”だね」


 不穏なことを言いながら、クルネは引き出しからカプセルケースを取り出し、お目当ての物を探し始める。

 “嘘をつけなくなる薬”はマズイ。飲まされたら、100パー僕が“サナダ”だとバレてしまう。クルネのことだ。頼み込めば、僕のことを拡散はしないだろう。しかし、普通にクルネ二バレること自体が嫌だ。何としても阻止したい。


「…本当はユユとは知り合いではないでやんす。彼女の個人情報が欲しくて生徒会室に忍び込んだでやんす」

「なんか急に自白し始めた…クルネ先生、もう何かやったんですか」

「まだ何もやってないよ」

「ふふ、なるほど自白剤を飲まされると知り、諦めたのだな…?よし、とりあえず“風紀委員会”まで連行するか!」


 僕の狙い通りだ。

 “風紀委員会”とやらは何なのか知らないが、後でユユに説得してもらえば何とでもなる話だ。ここは一度撤退を…。


「待ちたまえオボロくん。この一件、まだ解決ではないよ」

「…!」

「なに?!どういう事だクルネ先生!」

「自白剤を飲まされると分かるや否や、自分の正体を白状した。ということは、ユユくんの私物のこと以外に何か隠していることがあるということじゃないかな?」

「なるほど…!さすがはクルネ先生だ!」

「待つでやんす!あっしは五十棲ユユのただの熱狂的なファンでやんす!これが初犯でやんすよ!」

「なるほど…何かを隠していなきゃできない反応…」

「そのまま、よおく捕まえていてくれたまえ…ええと、あったあったこれだ」


 クルネはケースから1つ錠剤を取り出した。

 錠剤をつまみ上げ、僕の方へとツカツカ近づいてくる。


「こそ泥くん。素直に答えてくれるなら、飲まさずにも済みそうなんだけど」

「ずっと素直に答えてるでやんす」

「ふぅん…」

「クルネ先生。飲ませるなら早く飲ませよう」

「まあ落ち着きたまえよオボロくん。作るのに時間がかかる物だから、なるべくは使いたくないんだ。このこそ泥くんが素直に答えるなら、使わなくてもいいと思うんだ」

「なるほど。おい、素直に答えろ」

「答えてるでやんす」

「…こそ泥くん、名前は」

「シンイチでやんす」

「苗字も答えたまえよ」

「シンが苗字でイチが名前でやんす」

「変わった名前だな…」

「はぁ、そうか。今日はずっとそれで切り抜けるつもりなんだね…」

「本当のことしか言ってないでやんす」

「…オボロくん。実は私にも隠し事がある」

「はい?なんです?」

「私は実は男だ」

「「……は?」」


 と、僕が口を開けた瞬間、クルネは持っていたカプセルを僕の口内目掛けて放った。その突然口に入ってきたカプセルを、僕は思わず飲み込んでしまった。


「…と、まあ当然嘘なわけだけど」

「ああ、なんだ嘘か。びっくりした…」

「さて、改めて聞くが、こそ泥くん、君の名前は?」

「シンイチだ」

「薬が効いてないのか?」

「…いや、多分効いてるよ。ではシンイチくん、君は五十棲ユユと知り合いかな?」

「…はい」

「なにィ?!」


 頭に浮かべた答えが瞬時に口を出ていく。嘘がつけないというより、嘘をつきにくい状態になっているようだ。


「今日この学校に来たのは、ユユくんからの頼み事かな?」

「は、はい」

「その許可証も、多分、ユユくんのうっかりで期限切れなんだね?」

「…はい」

「…な、なんと…!本当に、ユユの知り合いだというのか…!」

「うん。薬は効いてるし、彼の言うことは本当みたいだ…オボロくん、もう彼を拘束する必要はないみたいだよ」

「むむ…失礼した。シン・イチ殿」

「いや、全然…でやんす」


 僕は後ずさりながら、部屋から退出しようとした。

 が、すぐさまクルネによって掴み止められた。そして、クルネは僕の肩を掴んだまま、笑顔で椅子へと座らせた。


「オボロくん、後のことは任せておきたまえ。君は君で、やることがあるだろう?」

「…?ああ、了解した」


 オボロは首を傾げ、部屋から出ていく。

 僕もそれについて行きたかったが、肩を掴まれたまま、椅子から立ち上がることすら出来ない状態にあった。

 僕は見下ろしてくるクルネに、抗議の目を向ける。


「そんなに身構えないでくれよ。私は君が望むなら、このまま君を帰したっていいんだよ。シンイチくん」


 近くで見て気づいた。妖しく見えたクルネの笑み。その瞳には、わずかばかり涙が浮かんでいたことに。


「でも、少しでも君が申し訳ないと思っているなら、もう少しだけ話させてもらえないかい?」


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