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74話 進んだ果て


「さて、じゃあ本題に入ろうか」


 ユルムは何食わぬ顔で話し始めた。

 まるで本当に今までのことが無くなったような態度だが、依然として私の体内にAC因子は残っている。それが解決するまでは、彼女を信用する気はない。


「アンタの体にもある、AC因子についてだ」

「…ほう?」

「なんだい?鳩が豆鉄砲食らったような顔して」

「それに関してはてっきり触れないものかと思っていた」

「これでも責任は感じてるんだよ。知り合っちまった仲だ。死んでもらっちゃ夢見が悪いだろ?」


 はは、とユルムは困ったように笑い、ポケットから小さなカプセルを取り出した。


「今、体内のAC因子を抑制する薬を作ってるんだ。AC因子ってのは宿主の精神に呼応して増えたり、減ったりする。それが能力の安定だの不安定だのに関係するんだが…」

「……。」

「なんだいソワソワして」

「メモ帳はないか」

「…言うと思って用意しておいたのです」

「助かる」


 用意されていたペンとメモ帳を手に取り、真剣な表情でユルムを見た。


「…続けていいぞ」

「…よ、要するに、亜人の精神に関係なく、服用することで能力を安定させる薬を作ってるワケだ。時間はかかるだろうけど、後々応用すりゃ、アンタの体内のAC因子もある程度は抑制できるものもできるだろうね」

「…!そんなことができるのか?!」

「ああ、でも私一人の力じゃそれを作るのはちょっと難しい。そこでだ」


 ユルムは満を持して、私の横にいたミルモを指さす。


「ミルモ。そこの亜人の力が必要になるのさ」

「ミルモの…?」

「この子の能力は“AC因子の操作”だろ?ちょうどそれが私のやりたいことにマッチしててねぇ」


 ミルモは嬉しさを抑えるように笑みを浮かべた。

 そもそもミルモは亜人ではないし、“AC因子の操作”というのは恐らくミルモがそもそも持っている特技のようなものだろう。

 彼女らに話せば混乱させてしまうかもしれないので、敢えて伝えない。


「私としては、ミルモをもう少し借りたいと思ってる。その許可をアンタから貰っておきたいのさ」

「それは…私にもう少し留まれという話か?」

「もちろん悪いようにはしないよ。完成したらいくつかその薬も渡すし、その間アンタにはそれなりの待遇を…」


 言いながら、ユルムは私の手錠に触れ、中に入っていた小さな瓶を取り出した。恐らく、手錠を着けた者を殺すための毒だろう。


「…ね。まず、これで死ぬことないだろ?」

「どうだか。ここの亜人なら、私が人間というだけで殴り殺してくるぞ」

「じゃあアンタは今日からうちの客人だ。傷つけられないように周知しておくよ。それでいいだろ?なあヘルザ」

「なっ…!待て、それは“亜人解放戦線”の方針に反するぞ!“人間は許さず”のはずだ!」

「じゃあ私が作った人工的な亜人ってことにしとこうか。手錠も外しておいてと」


 ユルムは軽いノリで私の手錠を外した。

 久々に手の辺りに何も無くなり、解放された気分だが、なんだか釈然としない。それはやはり、私がまだ彼女を信用していないからだろうか。


「とりあえず、薬が完成したらミルモは返すつもりだよ。その後は本部に帰るなり、自由にしてもらって構わない」

「おぉい!ミルモ嬢はウチに残るようにするんじゃなかったのか?!」

「…この馬鹿は無視してくれ」

「どのくらいでその薬とやらは完成するんだ?私がその話に乗るかどうかは、そこが重要なんだが」

「そうだね…まあ1週間くらいを目処にしてるかな」

「ふむ…あいわかった。その話を呑もう。ミルモもそれで納得しているんだな?」

「ええ。私は問題ありません」

「よっし!交渉成立だね!」

「おおい!私の話も聞けぇ!」


 なんだかユルムのいいように扱われている気がするが、1週間ここに留まるくらい、私にとってわけない。丁度、ここの環境についてもう少し知りたいと思っていたところだ。


「さて…じゃあこれから来る子に説得を頼むよ」

「…?」


 バ ゴ ン ッ !!


 何かが破壊される音。

 それと共に何者かが部屋の中へと走って来た。


「はぁ…!はぁ…!動かないでくださいヘルザさん!!今すぐサナダさんを…って、あれ?ミルモさんに、ユルムさんまで…?」


 飛び交う紫電。

 現れたのは、息を切らしながら入ってくるリニスであった。場の状況を把握すると同時に、その顔が困惑した表情に変わる。


「えっと…これは、どういう状況…?」

「リニス、私は無事だし…ええと、この場にいる皆は敵ではない。一旦、落ち着いてくれ」

「は…?」

「その、こうなったのはだな…」


 その後、今の状況に至るまでの経緯を話した。色々と驚いた様子ではあったが、最終的には、今の状況が私の勝手な行動によるものだとリニスにバレた。こっぴどく叱られたことは言うまでもないだろう。


 おのれユルム、ということにしておこう。

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