71話 フライアウェイマイフレンド
シャカ シャカ シャカ
シャカシャカ シャカ……
シャカシャカシャカシャカ!!」
「ツムギ、うるさいぞ」
今日はツムギが“サナダ係”の日。
私は部屋の中、ツムギと共に何にもない時間を過ごしていた。私はツムギが持ってきた、組織内に保管されていた本を読み、ツムギはいつも通り机に向かって何かを描いていた。
「へへ…今筆がノってるんですよ…ちょっとご容赦ください…」
「筆がノってたら、いつもそうなのか?」
「いえ、今日はなんかそういう気分なので…」
「気分か」
シャカシャカと連呼するツムギ。
普通にうるさい。いつも以上にテンションが高いようだが、何か良いことでもあったのだろうか。この頃、ツムギと共にいた時間はほぼなかったので見当すらつかな……
「…ツムギ」
「はい?シャカシャカシャカ」
「お前、見てたか?」
「えっと、何を?シャカシャカ…」
「例えば、この部屋でリルが私を襲う様とか」
「シャカシャカシャカ!!シャカシャカシャカ!!」
「…おい」
「シャっ、シャカシャカシャカー!」
私は無言でツムギの背後から忍び寄り、机に置いてあった紙のうち、1枚を手に取った。
描かれていたのはリルらしきキャラクターが私らしきキャラクターに対して、無理やり性行為を行おうとしている様であった。
「シャ…あっ、いつの間に…」
「ツムギぃ…描くのはいいが、人にはプライバシーというものがあってだな…」
「む……なら、アナタが今手に持っている創作物も私のプライバシーですよ…」
「…悪い、返す」
「ふ…では、これでおあいこ、ということで」
「いや、リルのことを考えるとそうもいかんが」
ツムギは手元でペンを動かしながら、クツクツと笑っている。どうやらシャカシャカ言っていたのは、私に感情を読み取られないようにするためだったようだ。
「ゆ、許してくださいよぉ…サナダさんが現れるまでネタに飢えてたんですぅ…」
「ここにはお前の好きそうな本があるじゃないか。わざわざ私を題材にせずともよいだろう」
「いや、もちろんそっちの創作もしてますよ。でもたまにサナダさんで描きたくなるというか…こう、実録的なものを描きたくなるんですよ」
「実録…?」
机を見てみると、リニスらしき人物に膝枕をされる私らしき人物の絵が見られた。
それはつい昨日の出来事であった。
「お前…どこまで見てるんだ」
「…サナダさんがこの部屋に来た時から、ですかね」
「最初からじゃないか」
「へへ…ハルラちゃんがやけに豪勢な部屋に出入りしだしてから怪しんでたんですよね…」
「私しかお前の趣味を知らないんだろ?他のヤツらが知ったらなんて言うか…」
「それはもう…内緒にしててください…」
「あいわかった…ん?実録じゃないものもあるじゃないか」
私が手に取った原稿には、私らしき人物がハルラらしき人物に犯される様が描かれていた。私の身に覚えはない。フィクションだ。
「あぁ…それは、ぁ……」
「妄想も大概にしろよ」
「いやぁ…ははは…まぁ、はい…」
「…?」
ツムギは急に気まずそうに目を逸らしだす。恥じらう心があるのなら、もう少し自重してほしいものだ。
ふと、窓で不自然に止まっている一羽の烏を見て、私は唐突にあることを閃いた。
「ツムギ、お前の能力はどこまで届く?」
「効果範囲、ですか。最近は調子がいいので…まあ、ここの敷地くらいは一通り飛び回れますかね」
「それでヘルザを探して監視できないか」
「えぇ…嫌ッすよ。私の能力あの人に割れてますからね…?バレたら絶対怪しまれて、居心地悪くなりますって」
「その時は私と一緒に本部に帰るといい。ここと同じくらい、いい場所だぞ」
「う、興味はありますけど…それは無事に帰れたらの話じゃないですか…」
「本部に帰ること自体は意外と乗り気か?前は嫌がってたじゃないか」
「そりゃ、これだけアナタと関わればね…分かりますよ。アナタのいた場所が平和なことくらい」
「…?そうか」
「ていうか、私以外にそんな風に誘ってませんよね?!なんで私にはそういうこと言うんです?!」
「いや、お前なら興味あるんじゃないかと」
「他の子達に言ってくださいよ!!泣いて喜びますって!ああっ、そういうところですよ!イマイチD部隊がハーレムになりきらないの!」
ツムギは急にボルテージを上げだす。
変なスイッチを押してしまったようだ。
「ハーレムは目指してないが」
「私は推奨します!もっと、くんずほぐれつして欲しいんですよ!こう、男女が、もっとこう…ぐちゃくちゃって!!」
「想像しきれてないようだが」
「想像の域を出ないから見たいんですよ!本当に凄まじいものってのは、己の内からは出てこないんですから!」
「名言っぽいが…要するにD部隊の面々との爛れた関係が見たいと」
「あ、いや、美少女となら別に誰でもいいですけど」
「節操がなさすぎる」
さっきまで描いていたペンすら止めて、ツムギはギラギラした目で私を見つめる。
「て、い、う、か、本部とやらも亜人がいっぱい居るんですよね?!」
「あぁ…私がいた時は70くらいいたかな?」
「仲のいい子とかはいたんですか?!」
「期待してるところ悪いが、普通に話すくらいだぞ…言っておくがあっちでも私は亜人管理官だからな?間違っても亜人の手を出したりはしないぞ?」
「かぁ〜!!たまんねぇっ!これは…いますね。サナダさんの帰りを一途に待つ健気な美少女が。それも1人や2人じゃなく」
「妄想は大概にしろと言ったばかりだが」
「いやぁ〜話してたら興味出てきましたよ!行きてぇなぁ本部…!」
「…ヘルザを監視する件、無かったことにしてもいいか?」
「いやいやいや!もうこうなったらジャンジャン嫌われにいって、本部に行くしかないですよぉ…!」
「おい…おい…」
「行っけぇーっ!!私の“黒き劣情”ォーっ
!!」
「……。」
無駄にアツいツムギの掛け声と共に、止まっていたカラスは飛び立った。ここまで快く引き受けてくれているというのに、なんだか後悔している自分がいる。




