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68話 苦労者ども

 

「あの…これどういう状況です?」


 リルがメソメソ泣いていたところで、リニスとツムギが部屋に入って来た。振り返ると、リニスが顰めた顔で私を睨んでいる。


「おお、リニスとツムギか…」

「ウッス…」

「サナダさん、元気そうでなによりです…ところで、今リルを泣かせてるのはサナダさんですか?」

「っ…ああ、私だ。私のせいだ。強めに叱ったら、泣いてしまってな…」

「はぁ…ということは…なんです?どっちを庇ってるんですか?」

「べ、別に誰も庇ってないが…?!」

「ハルラ、教えてください」

「リルが少し粗相をしました。今は反省しているようです」

「ごめんよぉ…ごめんよぉ…」

「…ほらみたことですか。でも、ならいいです」


 そう言うとリニスは嘆息した。

 リニスもツムギもやはり支給されたであろう小綺麗な衣服を身にまとっていた。顔色も心なしか“支部”にいた時より良い。D部隊は皆、不自由ない生活を送れているようだった。


「はぁ…お人好しは相変わらずみたいですね。別にいいですけど」

「誰を庇おうと私の勝手だろ」

「だから“別にいい”と言ったんですけど…まあそんなことはどうでもいいです。サナダさんはこれからどうするおつもりで?」

「どうする、というと?」

「ご存知の通りここはアナタが暮らすには不自由な環境です。帰るなら、“本部”とやらにさっさと帰った方が良いと思いますけど」

「ああ、そうだな…どうするか…」

「助力が必要なら、私でよければ手を貸しますけど」

「サナダ様のためなら私も何でもします」

「ぐす……私も、何か手伝いたいぞ」

「あ…じゃあ一応私も…できる範囲なら」

「…それはありがたい話だが、まだ帰るかどうかは一度ミルモと話してから決めたい。ミルモがどこにいるか知っているか?」


 本部に帰るにしても、当初の目的である“本部と同じ環境を作り上げる”は間違いなく達成されていない。色々あったようなので一旦引き上げるのも1つの案だが、流石にミルモを無視して帰ることは出来ない。


「いえ全然。私は最近見てませんけど」

「先程話しましたが、私も知りません」

「知らないぞ…」

「…そういえば見てないな…」


 見事に皆、知らなかった。

 同じタイミングでここに来たのではないのか…?


「…というか、そもそもここにいるのか?」

「ええ、それは間違いないとは思います。最後に会ったのは…捕縛されて一緒にここまで運ばれてきた時ですかね。そこから部屋まで案内されて…」

「…?どうした」

「ていうか、この部屋なんですか?やけにゴージャスですけど。サナダさんが用意したものです?」

「いや、私は案内されるがままにここに来た」

「……。」

「おかしいですね…D部隊に用意された部屋はひとつでした。人間であるサナダさん1人に、ここまでの部屋が用意されるのは不自然です。部屋に案内された時、最初に誰かいましたか?」

「ああ、ハルラがいた。だから、てっきりハルラの部屋だと思ったんだが…」

「……ハルラァ〜?」

「これでも妥協しました。サナダ様の部屋にしては狭すぎるくらいです」

「部屋のランクが問題じゃなくてですね…どうやって手配したんですか」

「リニス隊長の能力でこの組織の電力を賄うことを条件に」

「勝手に何やってんですか?!」


 ハルラは悪びれる様子もなくあっけらかんと言った。その事実にリニスは驚きを隠せない様子だった。


「そういえばつい昨日、何の連絡もなしに急に充電を頼まれた気が…え、ハルラ?」

「ふぅ…さて、リル。ツムギ。ミルモ様を探しに行きましょうか。能力を使えば今日中に組織一帯は見て回れるはずです」

「あっ、ちょっと?!誤魔化せてませんからね?!後でもう一度ちゃんと話をしますから!いいですね?!」


 返答はすることなく、ハルラは2人を連れて部屋を出て行ってしまった。出て行ったのを見届けてから、リニスは深くため息をついた。

 組織が変わっても、彼女は変わりなくD部隊の面々に悩まされているらしい。


「…なんですその微笑み顔は」

「苦労してると思ってな。大丈夫か?」

「あの子達に振り回されるのは、別に悪い気分ではありません…アナタはそれよりも自分の身を案じてください」

「今は安全なことこの上ないが。昨日までの檻の中と比べれば幾分もマシだよ」

「檻って…ここの人間の扱いは常軌を逸してますね。ここに来るまでに傷つけられたりしてませんか?ちょっと服脱いで見せてくださいよ」

「いや別に何ともないが…うおっ!」


 私の返事など気にすることなく、リニスは無理やり服を剥ぎ取った。そして、半裸になった私の体をまじまじと眺め始める。


「ふむ…ところどころ赤く内出血してますけど…これといった怪我はないですかね」

「内出血…?ま、まあ亜人に暴力を振るわれたりはしていない。あるとしたら、リルに飛び込まれた時にできた、たんこぶがあるくらいか」

「ほっ……なら、もういいです。さっさと服着てください」

「お前が脱がしたんだろうが」


 私は返された衣服を渋々着込んでいった。

 そうしている間、リニスは部屋に落ちているゴミを拾ったり、清浄機のバッテリー残量を確認したりと、こまめに動いている。


「おお、すまんな。“支部”の時も部屋が片付いていたのはお前のおかげだったか」

「どうもここはサナダさんの部屋になるんですし、これくらいは」

「世話ならD部隊の面々に焼いておけ。私は何も返さないぞ」

「むっ…一応、冷たいヤツだと思われないよう言っておきますけどね。アナタが思っている以上に私、サナダさんに恩義を感じてますからね」

「その話は前も聞いたが」

「今はその前以上にです。こうしてD部隊4人揃ってここに来れたのは、多分アナタのおかげですから。こうやってこまめに恩返ししてるんです」

「……そうか」

「なんかこういう話したら、毎回嫌な顔しますね」

「はぁ、お前には話すが…嫌なんだ。恩とか、感謝とか。依存というか、何か繋がりを感じる言葉が、私は苦手なんだ」


 理由はある。

 人に話す気はないが。


「なんで私に話すんですか」

「前に随分とさらけ出してしまったからな。それにお前は口が固い」

「……それは頼ってもらえてるってことでいいんですかね」

「ああ、頼りにしてる」

「ふぅ〜ん…まあ?別にそれならいいですけど」


 リニスは口元を手で覆い隠しながら、モゴモゴと喋っている。以前から気づいていたが、リニスは人に頼られるのが嬉しくなる性分らしい。


「ちなみにその繋がりが苦手なのって、いつからなんです?何かきっかけがあったりしたんです?」

「あぁ…いや、そこまではちょっと、悪いが話せない。話す気はない」

「ふぅん……あ、はい。そうですか」


 分かりやすく落ち込んだ。

 テンションの落ち様が目に見えてわかるくらい。

 悪いことをした気分になったが、しょうがない。

 理由はある。だが、人に話す気はないのだ。


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