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67話 ストライクアゲイン


 窓から差す暖かな陽光に、目を細める。

 これで外から風でも吹き込んでくれれば、きっと気持ちがいいだろうな…。


 私はハルラの部屋で1人、日向ぼっこをしていた。

 普段ならしない。なら、今何故そんなことをしているかと言うと、有り余る暇を持て余しているからであった。

 私が昼食に舌鼓を打った後、ハルラはミルモを探しに部屋を出た。

 その際、私も着いて行こうとしたのだが、組織の敷地内を私がうろつくのは危険ということで却下された。なんでも、人間が外を歩くだけで殺そうと襲いかかってくる亜人もいるんだとか。

 “支部”では亜人がうろついても嫌な顔を少しされるくらいだったが。それほどまでに、人間は恨まれているのだろうか。


「久々に、何もしていない状況…」


 給仕係だった時は、給仕を終えた後はこうして何もせずに天井を眺めていた。

 外に出て、誰かに迷惑をかけてはいけないと…思うこともあったが、主な理由はシェルター内でやることがなかったからだ。

 あの時は無為に過ぎていく時間を何とも思っていなかったが…。


「…なんか、もったいないな」


 こうも時間があると、何かしなければという使命感に駆られてしまう。何となしに立ち上がってみた。


 窓から見える景色は、いくらかの木と緑の草原。風にサワサワと揺れている。あそこで思い切り走って、寝転がれでもすれば、さぞ気持ちのよいことだろう。

 ほら、今も亜人が1人、楽しげに走り回っているではないか──────


「──────リル…?」


 リルである。言わずもがなだが、元D部隊である。

 キャッキャッ、と満面の笑みで草原をかけまわっている。それも四足歩行で。さながら、というかそのまんま犬の行動だ。


「風の音が聞こえるということは…こっちの声も通るよな…?おおい!リル!私だ!」

「うひゃひゃひゃひゃ!!」


 どうも駆け回るのに夢中でこちらに気づいてない様子。私は数度、窓を叩いてみる。


 コン コン コン


「リルー…聞こえるかー」

「うひゃ……ひゃ?」


 リルは音に流石に気づいたようで、動きを止めて、辺りを見回し始めた。

 しばらくもすると私の姿に気づき、驚きに目を見開く。


「え…サナダ!サナダ?!サナダだ!!」

「おお、元気そうで何よりだな」

「えっ…!?ええと…すぐそっちに行く!!」


 と、言うとリルは一瞬にしてその場から姿を消し、そこからものの数秒で部屋の扉はノックされた。


「サナダ!開けて!開けて!」

「鍵はかかってないぞ」

「あ、そうか!入るぞ!」


 扉が開いたと同時に、リルが四足歩行のまま部屋の中へ飛び込んでくる。全速力で飛び出していく方向は、他でもない私のいる位置。


「サナダサナダサナダァァ!!」

「お、おいリル、加減はし──────ぼへぁぁ…!!」


 リルの勢いを殺しきれず、抱きつかれると同時に私の身体は床へと打ち付けられた。


「あっ…だ、大丈夫か…?」

「ぐふっ…!し、心配するな…!このくらい、火を吹かれることに比べたらなんでもない…!」

「ご、ごめんな?大丈夫か?」


 リルは心配そうに頭を撫でてくる。

 さほど時は経っていないが、快活な性格は変わりないようだ。


「だ、大丈夫だ。心配ない」

「そうか…?今までどこにいたんだ?ずっと探してたんだぞ」

「暗い部屋で檻に入れられていた。つい今日出られてな。こうして部屋で待機している。今はハルラが皆に知らせに行ってくれているはずだ」

「そうだったのか。よかった…私、サナダがいない間、ずっとサナダのこと、ずっとずっと考えてたんだぞ」

「そうか。心配させて悪かったな。よしよし」

「っ…や、やめてくれ」

「…!?!?」


 リルを撫でようと手を伸ばしたところを、振り払われた。

 行き場をなくした手で、私は頭を抱えた。


「な…どうした急に。撫でられるの、嫌いか?」

「別に好きとか嫌いとか、そういうんじゃないぞ」

「で、でも、ならなんで…?」

「もう、そういうの卒業するんだ。私は」


 リルは私と目線を合わせず、少し不満げな表情をしている。

 何があったのか知らないが、私は拒否されたことが普通にショックだった。


「サナダ…いや、サナダさん。そのことで聞いて欲しいことがある、よ」

「…?あ、ああ…聞く」

「私ね。私、サナダさんのことが好き」

「私もリルのことは好きだが」

「えっ…!?あっ、いや違うよ!!私が言ってるのはそういう好きじゃなくて…」

「そういう好きじゃなく…というと、あれか」

「あ、あ、あ、愛してるって、こと…」


 リルは顔を真っ赤にして俯き始めた。

 私は困惑した。ここまでストレートに好意を口にされるのは初めてのことである。当然、亜人管理官(メンター)としては彼女の思いには答えかねるが…。

 私は一縷の望みにかけて、喋る。


「愛。それは、親愛的な感じで…」

「い、異性としての好き。愛してるの…」

「…待て。ちょっと遅れたが、なんで喋り方を変えたんだ?」

「前の喋り方だと、サナダが私のこと意識してくれないと思ったから…だから、撫でるのももうやめてほしい、よ」

「そうか、そうか…すまんな。今まで確かに、ペットのように扱っていたかもしれない。今度からは、もっとちゃんと女性らしく扱おう」

「…!ってことは、OKってことか?!」

「OK、というのは…あ、いや違──────」


 それ以上言葉を紡ぐ前に、私の口はリルの口によって塞がれた。


「んんぐ…!んん…!!」

「ちゅ…ん、ちゅ…♡んふふ…♪サナダ、私子供は3人くらい欲しいぞ♡」

「ま、待て、また、能力が暴走してるぞ…!一度、離れて…」

「全っ然暴走なんかしてないぞ。そもそも能力なんて使ってない。全部私の意思、私の理性、だよ」


 そのまま押し倒され、馬乗りの状態にされた。

 抵抗しようにも、当然人間の身である私が亜人のリルに敵うはずもない。

 リルの手のひらは私の唇を這い、唇から顎へ、顎から首、胸、腹、そして…。


「…♡愛してるよ、サナダ♡」

「待て、私なんかが──────」


 バ タ ン ッ !!


 刹那、ドアは開け放たれる。

 ドアの先に立っていたのは、真顔でこちらをじっと見つめているハルラの姿。言い表せないような威圧感を放っていた。


「リル、今アナタは何をしてます?」

「あは…ハルぅ、ちょっとだけ出て行ってほしいなぁ…今から私、サナダと“イイコト”するから」

「ダメです。アナタが今からすることを、私は看過できません」

「ええ…?なんで」

「アナタが今やろうとしていることは、この組織の亜人達がやっていることと同じだからです」

「え……?」

「今の自分のやっていることを、もう少し見つめ直してください」

「……あ」


 何かに気づくと、リルは落ち込んた表情で私の上から身体を退けた。そして、あろう事かその瞳に涙を貯め始めた。


「サナダ…サナダぁ…ゴメぇン…」

「お、おい、何も泣くことはないぞ…き、気にするな。私は平気だぞ」

「ゴメン、ゴメンなぁ…!」


 それからしばらく、リルを慰める時間が続いた。


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