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65話 You, hey!!

 

 気がつくと、私がいたのは檻の中であった。

 満足に立つことすらできないくらい小さな檻には錠がかかっており、自力では出ることはできない。檻には、“H-108”というラベルが貼られていた。

 周囲を見回すと、薄暗い部屋の中に私と同じように檻に入れられた人が何人かいるのが分かる。その中には“明けの明星”支部にいた人間がちらほら見えている。


「──────やあ、家畜共☆」


 そんな中、扉が開き亜人が現れた。

 “家畜”とは、ここにいる人間を指すのだろうか。

 亜人はゆったりと歩き、手に持っていた鍵の束で、檻の内一つを開けた。


「“指名”だよ!恨みでもあるんだろうねぇ…凄い形相だったよ〜☆」

「ひっ!お、お許しを…!」

「だーめ。ここじゃお前らに人権なんてないの☆」


 抵抗する人間を無視して、亜人は機械的な手錠をかける。

 そして、動こうとしない人間を引きずりながら、今度は私の檻の前へと歩いてくる。


「お前もし、め、い。ご主人様必死になってお前のこと探してたよ〜☆」

「……」

「んん…?つまんな〜い☆」


 亜人は残念がりながら、私の手に手錠をはめる。

 そして、先程の人と共に私を引き連れながら、薄暗い部屋から外へと出た。


 出ると、そこは西洋の宮殿だった。

 だだっ広い中庭から向こうへは、立派な建物が居を構えていた。およそ現代の光景には思えない。どこか異世界へワープしたような気分になっていた。


「キョロキョロしてないで歩く歩く☆」

「ひぃ…!」


 中庭を行き交う人々は皆亜人であった。

 軽く見回しただけでも10人以上はいる。亜人は外でも、中々目にかかれない存在だと聞いていたはずだが…。


 中庭を抜け、宮殿へと入り、通路をいくらか歩くと、亜人は扉の前で足を止める。


「おい男!ここがお前のご主人様のお部屋。くれぐれも逃げ出そうなんて考えるんじゃなーいぞ☆」

「…あの」

「ん?」

「すいませんが、ここってどこなんでしょう?自分気がついたらここにいて…」

「んー…知るか。お前のご主人様に聞け」

「うおっ…!」


 亜人は急に面倒になったのか、扉の方へ押し込むように私の背を押した。扉は押し戸だったようで、私は押された勢いのまま部屋の中へと飛び込んでいった。


 バ タ ン ッ!!


 手錠のせいで手が上手く付けない私はバランスを崩し、そのまま扉の前で転倒した。


「では、ごゆっくり〜☆」


 亜人の取り繕った笑顔とともに、扉は閉められた。


 しん、と入った部屋は静まり返っていた。

 無駄に高い天井と、天蓋の付いたベッド。ここでの暮らしは、“明けの明星”以上に、かなり余裕のある生活なのが窺える。金の装飾が施された高雅な家具まで置いてある。このご時世では拝むのも難しい代物だ。


 さてここに、かの“ご主人様”とやらがいるはずだが。


「…誰もいないな」


 無駄に広さのある部屋には誰もいない。

 人の気配もないようだが…。


 ピチョン ピチョン


 と、耳をすませてみると水が滴っている音が聞こえる。人の気配とは違うだろうが…気になる。私は蛇口をしっかり閉めているか毎回確認せねば気が済まないタチなのだ。

 私は音を頼りに、閉められていない蛇口を探しに行った。


 部屋は広いが、そう行ける場所も多くはない。

 すぐに私はそれらしき扉を見つけた。

 どうせ誰もいないのだ。蛇口を閉めるくらいいいだろう。


 そう思い、扉を開けた。


「──────えっ」


 開けた瞬間、そこに立っていたのは一糸まとわぬハルラの姿だった。シャワーを浴び終えた直後なのか、濡れた髪をタオルで拭き取っているところであった。


「あ……すまな──────」

「サナダ様っ!!」


 扉を閉めようとしたところでハルラが私の胸へと飛び込んできた。まだ身体を拭ききれていないのか、湿り気のある頭髪が私の顔に当たっている。


 花の良い香り。

 柔らかな感触──────


「ふおぃ!!」

「…!?サナダ様?!」

「…ちゃんと身体を拭いて、服を着ろ」

「あっ、し、失礼しました…」


 ハルラが離れていくのを音で感じる。

 平手打ちをしてなければ、危なかった。

 私はそのまま目をつぶり、その場に立ち尽くし、心頭滅却をしていた。何も考えなくていい。ただここに自分がいることだけを考えていればいい……。


 〜〜〜〜〜〜


「良かったです。サナダ様が無事で」

「私も同じ気持ちだよ。起きたらまるで知らない場所だったからな。お前らがどうなったのか気になって仕方なかったよ」


 ハルラから防護服とガスマスクを受け取り、私は服を着たハルラの髪をとかしながら話していた。ハルラの金色の頭髪はまるで絹織物のようで、外からの陽光をチカチカと反射している。


「それで、一体これはどういう状況なんだ」

「まあ端的に申し上げますと…サナダ様が気を失っている間に、私たちが前にいた組織は壊滅しました」

「壊滅…D部隊の皆は無事なのか」

「ええ…私たちは傷1つ負っていません。何故なら、戦いに発展する前に私たちの組織は制圧されてしまったからです」

「そこまで圧倒的だったのか…」

「ええ。シェルターの電源は突然絶たれ、それに人々が混乱している隙を狙い、彼女らは瞬く間に制圧してしまいました」


 シェルター内の電力供給を絶ったのは、ユルムだ。この状況まで手引きしたのは彼女。だとするなら、最初からユルムは“明けの明星”支部の者ではなく、この組織の者だったのかもしれない。

 未だ不明瞭なままだが、今の状況こそが彼女の目的なのだろうか。


「その、組織の名は…?」

「“亜人解放戦線”。私たちが今いるのはその組織の本拠点です。ここでは亜人にこそ人権があり、人間は奴隷も同然の扱いを受けています」


 “支部”とは全く真逆の組織だ。

 当初の目的は“明けの明星”と同じ環境を私とミルモで作り上げることだったはず。いつの間にか、随分と遠いところに来てしまったみたいだ。

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