50話 怪奇!ハリネズミ男
たわわ。
扉を開けた先には、下着姿の亜人が立っていた。着替えている途中らしく、突然入ってきた私を見て、衣服を片手に唖然としている。
「…すまん」
「っ…いえ」
すぐさま扉を閉めた。
一瞬だけ見えたが、彼女は顔を少し赤らめていた。
最悪の初対面だ。絶対に良い印象は抱かれなかっただろう。
共用スペースのソファーに座り、頭を抱えたり先の光景を忘れようと思考をグルグルと回していると、入り口の方からミルモが入ってくる。
「…どうしたのです」
「やった。やってしまった。いきなりだ。すまん。もうダメかも分からん」
「よく分かりませんが、アナタがそう言う時は大体取り越し苦労なのです」
「着替えの途中を見てしまったのだ。ノックもなしに部屋に入ったから」
「その程度、きっとここの亜人達にとっては些細なことなのです」
「いや、だが…」
キイィ…
と、部屋から着替え終えたであろう亜人が平然とした顔で現れた。私やミルモを見るなり、小さくお辞儀をする。
「先程は見苦しいものを見せて申し訳ありません。すぐに他の亜人も呼んで参ります」
「あ、ああ…こちらこそすまない」
「では」
彼女は再びお辞儀をすると、さっさと出ていってしまった。
「大丈夫みたいなのです」
「ああ、確かに気にしてはいない様子だった…本部だったら、殺されていただろうな」
「だからといって、ここが本部より平和というわけではないのです。さて、どこかに手頃なスペースはありますか?」
そう言うと、ミルモは入り口近くに置かれていた装置を持ってくる。あらかじめ持ってきていたのか、それは本部にあった空気清浄機だった。
「コンセントないぞ」
「だと思って、バッテリー式に変えてもらったのです。予備のバッテリーと合わせれば、今日のところはもちそうなのです」
「悪いな。お前には必要ないだろうに」
「私がここにいるのは、アナタの身の安全の確保と、亜人管理官としての仕事を補佐するためなのです」
清浄機が聞き慣れた唸りを上げ始める。
助かった。久しぶりの防護服とガスマスクをかつてないほど窮屈に感じていたところだ。
脱いだ防護服とガスマスクをミルモに渡したくらいのタイミングで、入り口の扉を再び開けられた。
「それで、この前の──────」
「しっ、もう亜人管理官様はいらしています」
何か話していた途中のようだったが、私の顔を見るなり全員がキッと尖った表情に切り替わる。入って来た4人の亜人は綺麗に横並びになり、ピンと背筋を伸ばして立ち止まった。
全員揃って“首輪”を付けていた。
「D部隊。全隊員揃いました」
「あ、ああ。初めまして…」
「「……」」
「えーと…」
「亜人管理官。なにか言うのです」
「私待ちか…じゃあ、全員一度自己紹介を頼めるか?」
すると、全員困惑した表情をする中、例の着替えの君が最初に口を開いた。
「D部隊の指揮官を任されています。登録番号、D-06。能力、放電です」
「…デー部隊、隊員!登録番号、D-09!能力、獣化です!」
「お、同じくD部隊隊員…登録番号D-08。能力、鳥類掌握…です」
「同じくD部隊…登録番号D-10。能力名、精神操作…」
「あ、ありがとう…その、失礼な質問だったらすまないのだが…君たちに名前はないのか?」
「ありません」
D-06が即答した。
番台にいた亜人は、私たちが入って来た時に誰かの名前を呼んでいた気がするが…。何か規則があるのかもしれない。深入りせずに、私は続ける。
「私は本部から派遣された亜人管理官のサナダだ。こっちの亜人の本部から私の護衛として連れてきた」
「ミルモというのです」
「そうだな…君たちが今までここでどんな扱いを受けてきたのかは、よく知らないが、少なくとも私は君たちを人間と同じか、それ以上の扱いはしようと思っている」
と、言った直後だった。一瞬だけ、目の前にいた4人の亜人の目が蔑むような瞳に変わった。まるで醜いものを見ているかのような。
私がそれに驚いているのに気づいたのか、4人はハッと元の顔に戻った。
「い、以上だ。何か聞きたいことはあるか?。
「すいません。亜人管理官様、私から質問よろしいですか」
「もちろんだ。ええと…君、は…いいぞ!質問!」
「すいません。亜人管理官様。失礼かもしれませんが、何故、防護服とマスクをお外しになっているのですか?」
「ああ、これは、勝手ながら空気清浄機を設置したからだ。これがあれば、この室内では私は世羽根の毒の影響を受けない」
4人揃って“何を言ってるんだ”と言いたいような顔をしている。これに関しては納得だ。未だに私でさえこの装置の仕組みは理解できていない。
「ほ…かに質問ないな?では、挨拶はこれで終わりだ。皆、戦闘の後で疲れているだろうからな」
「……」
「…?」
「亜人管理官。命令してあげてください」
「か、解散っ!各自部屋に戻ってくれ!」
「「はっ…!」」
私の声を聞いてから、4人は小走りで別々の部屋へと戻っていく。どうやら基本的には私の前では命令がないと行動することはないらしい。
皆、私に命を握られているようなものなのだから、不愉快にさせないよう慎重になるのは当然か。
加えて、全員私とは初対面。私の人柄を探っていたのかもしれない。
「これは…“外”の亜人への差別が深刻ってことなのか。それとも私が口下手なのか」
「彼女らから不安の色が見えました。アプローチを変えてみた方がいいかもしれませんね」
「アプローチか…私は私なりの接し方しか知らないんだが」
「この組織、ひいてはこの星の進み方がかかっているのですよ。もっと真剣にやってください」
「お…おい、いつの間にそんな重荷を私に課したんだ…!」
「つい昨日から、なのです」
「っ…何はともあれ、まずは彼女らから名前を聞き出さねばな」
それから亜人達が部屋から出てくることはなかった。これが、この組織に来ての1日目。先は長そうである。




