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42話 キルコール

 

「…ミルモのアレ、なんだったんだ?」


 キーボードを叩きながら、ふと考える。

 ミルモが突然、頭髪から作ったというダイヤモンドのイヤリング。製法はともかく、何故それを作るに至ったのかまでは、聞き出せなかった。


 何故…人間も頭髪からダイヤモンドを作ることはできるらしいが、そもそも天使の髪の毛は人間と同じ組成、同じ成分なのだろうか。

 そもそも髪は切ることはできるのか?通常の銃弾では皮膚すら貫通できない存在だ。

 天使の頭髪、どう考えても危ない物体な気がしてならない。


『オレらにとって天使は敵だ。誰がなんと言おうとな』


「……まさかな」


 やつはユユに贈ると言っていた。誕生日などまだ先だと言うのに、誕生日プレゼントだと言い張って。そう考えることもできるが、ミルモの普段を考えるとそうでもない感じもしてくる。だが、万が一もある…。

 と、考えれば考えるほど、私の思考はその怪しさに支配されていく。


「やっほー!ってあれ、サナメンしかいないじゃん」


 錯綜しようとしている思考を打ち消すように、ミアがドアを開け開いて現れた。


「ミアか…何か用か」

「んー特に用はないかな。暇だったから来たって感じ〜」

「そうか。いきなりだが、今ユユがどこにいるかとか、分かるか?」

「え、ユユち?いつもこの時間は自分の部屋で本読んでると思うけど」

「ちょっと様子を見に行ってもらえるか?」

「…どしたん急に」

「いや、少し気になることがあってな。少し様子を見に行ってもらうだけでいいんだが」

「あー…ごめん。ウチこの後に用事あるからさ。ちょーっと無理かなー」


 ミアは手を後ろに回し、誤魔化すように天井を見上げた。暇だから来た、という話をついさっきした気がするが…。


「サナメン自分で行けばいいじゃん」

「それはそうなんだが…いや、そうだな。後で自分で行こう…」

「…?」


 このモヤモヤした思考のままミルモと会うのは、なんだが気が引ける。せめてこのモヤモヤを晴らしてから顔を合わせたいところだが、モヤモヤを晴らすにはやはり、ユユのところに行く必要がありそうだ。そして、ユユのいる所には高確率でミルモがいる。


「はぁ…なあミア。お前はミルモについてどう思ってる?」

「……天使ちゃん?うーん、あんまり会って話したことないからよく分かんないんだよねー。挨拶くらいかな?でも皆からそんな悪い話は聞かないし。いい子なんじゃない?」

「そうだよな…悪いやつじゃないように見えるんだが…」

「……なんかあったの?」

「いや、特別まだ何も起こってないから悩んでるんだ。亜人管理官である前に、私は“明けの明星”の一員だからな…接し方に悩んでいる」

「ふーん。大変だね…そんなことよりもさ」

「“そんなことよりもさ”?」

「サナメンって、マイカのことどう思ってる?」


 突然話題はすっ飛んでいった。

 私としては真面目な相談をしていたつもりだったが、ミアは単なる世間話のつもりらしい。


「どうって…何を答えて欲しいんだ」

「えっとぉ、好きかどうか?もちろんラブな方ね!」


 違う、恋バナだった。


「好きだぞ。もちろんライクな方でだ」

「えー、つまんなーい」

「当たり前だ。仮にラブだったとしても、ここでそう答える気はない」

「なんで」

「お前が常日頃何をしてるか、忘れたわけではあるまい」

「常日頃…?あ、だーいじょうぶ。そんな個人的な内容、記事に載せないし。皆知ってたら気まずいじゃんそんなの」

「本当か?ネタ切れしてたなら載せるんじゃないか?」

「…もしかしたら、紙面の端にちょこっとね」

「尚更答える気にはならないな。だが、心配するな。私はお前の親友に手出しするつもりはない」

「心配って…あぁそういう風にとらえるんだ」

「なんだか含みのある発言だな」

「含みどころかさ…伝わんない?」

「伝わらんな」

「ししし…そういうとこ、やっぱサナメンだねぇ」

「…?」


 ミアはイタズラに微笑む。

 自分としては察しは良い方だと思っているのだが、どうも亜人達には私に見えていない意図が時折あるらしい。亜人が故に、発達した何かがあるのかもしれない…。


「ま、今はいっか。じゃあ私聞きたいこと聞けたから戻るわ。じゃあねー」

「ああ。マイカによろしく頼む」


 結局のところ、ミルモに関する悩みは解決しないまま、ミアは部屋から出ていった。いつも通りの調子で、いつも通り手を振って。


「…?」


 いつも通り何も変わらないはずのミア。だが、私はそのミアとのやり取りの中で少し違和感を感じていた。


 ミルモ、天使が現れるというビッグイベントを彼女が記事にした覚えがない。ミアは誰とも分け隔てなく接することができる人柄だ。そんな彼女に限ってミルモと話したことがない、なんてあるだろうか。


 そして、彼女はミルモのことを名前でもあだ名でもなく“天使ちゃん”とわざわざ呼んでいた。


「…考えすぎか?」


 違和感。あくまで違和感だ。

 ミルモのせいで考えすぎる思考になってしまっているのだ。さっさとユユの所に行ってしまおう。



 結果として、ミルモの贈り物にはなんの問題もなかった。誕生日の日から大きく離れていたのは、単にミルモの時間感覚が人間と同じじゃなかっただけ。本人としては、やはり6ヶ月の年月は誤差らしい。純粋にミルモは、ユユに贈り物がしたかったのだ。


 わざわざ自分の髪でダイヤを作ったのも、自分の体の一部ならユユの能力の影響を受けないと思ったから。

 実際に後日、宙に浮くダイヤのイヤリングを見たという話を聞いた。


 杞憂だったようだ。ただあの日の私の頭が考えすぎる頭だった、それだけ──────


 〜〜〜〜〜〜


 人の寝静まった月夜。

 人気のないビル3Fの隅。

 そこに2人の亜人が邂逅していた。


「ミアさん、こんばんわーっス」

「スーちゃん…」

「あの時以来っスねぇ…例の話、考えてくれました?」

「っ……あの話、本当なの?本当に…」

「えぇ!ミアさんがちょっとしたお願いさえ聞いてくれれば、私たちはミルモちゃんを殺せるっス」


 スクネはにこやかな笑顔でそう言った。月夜に照らされたその表情は、ミアにどこか狂気的なものを感じさせる。


 きっとこれは善いことではない。

 そうだと分かっていても、ミアには我慢ならなかった。天使が目の前で幸せそうに生活しているのが。見知らぬ彼女の手を借りて、善人のように振る舞うあの悪を殺せるのなら、多少の悪には目をつぶるべきだと思えるほどに。


「それで、どうするっスか?やるんスか?やらないんスか?」

「……殺して。あの天使を。そのためなら何でも聞くから」

「オッケーってことっスね…?」

「うん。でもその代わり、他の皆は絶対に危険な目に遭わせないで。それだけは約束して」

「わかってるっスよ!安心してください!そんな大きな被害を出せるほど、ウチらは強力じゃないんで!」


 そう言うと、スクネは慣れた手つきで隠し持っていた歪な端末を広げ、操作する。しばらくもすると、掠れた声が聞こえてきた。


「──────どうだ」

「キバさん?行けるっスよ。ええ、3日以内に」


 端末に話しかけながら、スクネはミアにウィンクした。


「はい。それでは」


 プツッ…。


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