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41話 最強がゆえに

 

「見てください」


 管理局前にて、突然ミルモが現れ、私に手を差し出した。手の上に乗っていたのは、キラリと光る小さな物であった。

 私は運んでいたダンボールを足元に置き、ミルモの手を覗き込む。


「これは?」

「私の髪の毛から作ったダイヤモンドのイヤリングなのです」

「突然だな。どうした、私にくれるのか?」

「殴りますよ」

「…まだ死にたくないな」


 ミルモの握り拳に、伸ばした手を即刻引っ込めた。


「これをユユにプレゼントしようと思うのです。少し遅めですが、誕生日プレゼントなのです」

「少し遅めって、ユユの誕生日は…6か月前だぞ。なんだったら年をまたぐが」

「6か月くらいなら誤差なのです」

「誤差の範囲がとんでもないな…それならいつ祝おうが誤差だぞ。いや悪いことではないが」

「それでこの贈り物は、贈り物として最適でしょうか」

「ユユはお前から貰ったものは何でも喜ぶと思うぞ」

「ユユを軽んじないでください」

「いや、軽んじているわけでは…拳を下ろせ」


 再び振り上げられる拳。なんだが今日の天使様は、心中穏やかではない様子。私は慎重に言葉を選びながら、口を開く。


「ダイヤモンドのイヤリングというのは悪くないが…髪の毛から作ったというのは何故なんだ?人への贈り物にしては重すぎる気がするが」

「重い…?指でつまんで持ち上げられるくらい軽い物なのです」

「いやそうでなくてだな…気持ちが重いというか」

「…?よく分かりませんが、これは私の髪の毛から作られたことに意味があるのです」

「はあ、というと──────」


 直後、どこからともなく何かが高速で飛来してくる。

 物体は私に激突する寸前のところで、ミルモによって受け止められた。


「っ…!礼を言う」

「ゲットなのです。これはなんでしょう」

「これは、野球ボールだな」

「──────おーい、悪ぃ2代目!すっぽ抜けちまったー!」


 向こうから手を振りながら走ってくるロコが見えた。


「怪我ねぇか?!…っと、天使じゃねぇか」

「怪我はない。ミルモが受け止めてくれてくれた」

「ああ、そうかい。サンキュー天使」

「気にしないで欲しいのです。気になって掴んでみただけなのです」


 身構えていたが、予想外のやり取りに面食らう。

 以前見かけた時とは違い、ロコとミルモは思ったより友好的に接している。私の知らぬ間に仲直りする機会があったのかもしれない。


「ああ、ついでだから試してくわ」


 そう言ってロコは何気なく拳銃を取り出し、


 パンッ!!


 ミルモに向かって発砲した。

 ミルモは防御もすることなく、直立不動のまま弾丸を受けて派手に後方へと吹き飛んだ。


「…?!う、うぉいロコ?!」

「さて、どうなっかな」


 ロコは銃口から上がる白煙をフッと吹き消す。

 吹き飛んだミルモは閉じていた目をかっぴらき、何事もなく起き上がってきた。


「さっき試しに作ってきた水銀弾なんだが、どうだ。水銀の毒性は亜人にも効くらしいが」

「そもそも体内まで入り込んでないのです。この前使った貫通弾にするのを忘れてるのです」

「あっ…そりゃ忘れてたな。やらかした」

「今回はこれだけですか?用がないなら立ち去るのです」

「ああ、今回はこれだけだ。協力感謝する」

「サヨナラなのです」


 そう言うと、ミルモはスタスタとどこかへ立ち去って行ってしまった。その様子に、ロコは嘆息した。


「お前、会う度にあんなことをやってるのか」

「ヤツを仕留められそうなネタがあったらな。じゃなきゃ不用意に近づくことはしねぇよ」

「血の気の多い…そんなにミルモが嫌いか?」

「嫌いとか好きとかって話じゃねぇだろ。じゃあ聞くが、アイツを完全に許す気になれるか?外の状況に目を向けた上で、だ」

「それは…まあ完全には許せないが…」

「だろ?オレらにとって天使は敵だ。誰がなんと言おうとな」

「──────おおい!ロコちゃんまたやったでしょ!」


 言い淀んでいると、遠くからクリフが声と共に飛んできた。スムーズに滑空し、音もなく私とロコの間に着地した。


「撃つなら実験室でって言われてたじゃん!」

「わざわざ呼ぶのめんどくせぇだろ。ちょうど誰もいなかったし」

「私がいたぞ」

「見ての通り2代目には外傷なしだ」

「それはとにかく!なんかあってからじゃ遅いんだよ!分かってる?しかも今回のは水銀だよ?!ヤバいよね?!」

「あーわかったわかった。次から気をつける。だから水銀弾、前の貫通のヤツじゃなかったから効かなかったって報告しといてくれよ」

「はぁ〜?!」

「どの道“下”行く用事あったろ?ついでによ」

「っ、またそうやってぇ…!」

「次から気をつけるから、頼むわ。拳銃返しにいくついでに武器の手入れとかしとくからよ」


 クリフは肩をわなわなと震わせ、ロコを睨む。

 対するロコは目をあちこちに泳がせながら、頼むように手を合わせている。

 やがて、クリフの口からため息が出たと思うと“バーカ!!”という捨て台詞と共に飛んで行ってしまった。


「ふぁぁ…“下”行く手間省けたし、ちゃっちゃと作り直して来るかな…」

「いいのか…?クリフ結構なお冠だったぞ」

「いーんだよ。それよりも我々人類の平和が大事だろーが。もしこれであの天使が殺せてみろ。この組織どころか世界中が助かるぜ」

「そう上手くいくといいが」

「一縷の望みだろうが、やってみなきゃ始まんねぇだろ?じゃあ誰がやるのかって、オレしかいねぇってもんだ」

「頼んでくれれば、私でもやるが」

「2代目は撃っちゃなんねぇだろ。それで天使殺した日にゃ、罪悪感で死んじまうね」

「……。」

「否定しないあたりが2代目だなぁ…」


 図星である。

 確かに撃った先のことまでは考えてなかった。

 そこまで瞬時に頭が回るということは、やはりロコは本気でミルモを殺す気なのかもしれない。


「 ロコは殺めることに罪悪感は感じないのか?」

「どうだろうなァ…外じゃ、ただ殺す意味がないって理由で殺さないことが多いが、意味があるなら殺すと思うぜ。そしてそのことに多分、オレは罪悪感は感じてねぇ」

「殺すのに慣れたってことか…?」

「いいや?ただ殺しの現場を見すぎたってのはあるかもな。2代目は外の悲惨さなんて想像でしか考えられねぇだろうけどよ、外は殺し合いや奪い合いが当たり前の世界なんだ」

「世紀末、とはよく聞くが」

「そう世紀末。そういう世界を見てきたからこそ、やっぱり天使は許せねぇと思えるんだ。新鮮な殺意を、今でも持ててる」

「持ててるって…それを望んでるみたいだな」


 当たり前だろ、とロコは呟く。

 どこか疲れたような瞳だった。


「オレはこの組織の“最高戦力”だ。オレが諦めたら、他の連中まで諦めちまう。だからオレは諦めちゃならねぇんだ。他の連中のためにも」

「どうりで、コーヒーの時にあんなに見栄を張ってたわけだ」

「るせぇ!“最高戦力”がコーヒー嫌いなんてイメージと合わねぇだろ」


 少し顔を赤らめ、そっぽ向いた。

 彼女には、彼女なりの矜恃があるのだろう。彼女にしか分からない“強さ”を持つが故の責任。それを支えているのは恐らく…。


「ロコ…こんなとこにいまして」

「おっ…ユニ様じゃーん。どうかしたか」

「アナタがそう呼ぶ時は大体何か隠してる時ですわよ」

「はぁ、隠してることねぇ…?2代目は何か心当たりあるか?」

「私に振るな。知るわけがないだろ」

「ふぅん…先程、私の愛銃の“マリー”の銃声が聞こえた気がしましたけど。何か知ってまして?」

「へ、へぇ、こんな公の場でぶっぱなすやつなんて、物騒なやつもいたもんだな。なあ2代目?」

「そそそそそそんなやつここにいるわけないだろ」

「おい2代目!?それわざとだろ!いくら焦ってもそんな吃ることねぇって!!」

「ロォーコォー?」

「っ、悪ぃすぐ返すから!あと一発だけ勘弁してくれ!」

「ダメに決まってます!お待ちなさい!!」


 あっという間に駆けていく2人。

 嵐のように過ぎ去った西部隊の面々だったが、その中にいる時のロコは、常に楽しそうに見えた。

 心配はなさそうだ。


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