37話 全部ブーメランのせい
「びっ…くりした〜…男の人じゃん。なんで?」
急に現れた亜人は私を見て怪訝な顔を見せた。
周りにいるのは亜人ばかりだ。私のことも亜人だと思って近づいたのだろう。
「亜人管理官だ。君たち亜人の監視のためにここに駆り出されている」
「亜人管理官…ってエイルさんだけじゃないの?でも、なんかそれっぽい腕章つけてるし…」
「…?!いつの間にかエイルの知名度が私を上回ってるだと」
「単にあなたの交友関係が狭すぎるだけなんじゃないですか?」
「サラちーこの人知ってんの?」
「ええ。安心してください、女性に手を出せるような度胸はない方です」
「あーね」
「フォローのつもりか?私への攻撃だぞそれは」
「攻撃のつもりでしたけど」
「なおさら開き直るな」
名も知らぬ亜人はポカンとした顔で私とサラのやり取りを見ていた。そして、その後なにかに気づき、手をポンと打った。
「もしかしてサナメン?」
「あ?……あーなるほど分かった。お前、あれだろ」
「…?」
「マイカだろ」
「え…?!なんで分かるの?!キモ!!」
「マイカ、この人“キモ”っていうと喜ぶからやめた方がいいですよ」
「なにそれキモ…あ、言っちゃった」
「…鵜呑みにするな。こいつはデタラメを言ってるだけだ」
「え?じゃあ言ってもいいってこと?やったーキモキモキモキモキモキモ」
「言うメリットはないだろうに…」
連呼する彼女に思わずたじろぐ。
吉良マイカ
桃色のショートボブを2つ結びしている彼女は、黄色い花柄の水着に身を包んでいた。
初対面ではあるが、ミアからその名は何度も聞いていた。ミアは私と会った時“マイカがさー”から話し始めることが多いからだ。
「ふーん、アンタがサナメンかぁー」
マイカはジロジロと私の顔を眺めた。
「なんかぁー思ってたよりザコっぽーい(笑)」
「言うまでもなくお前らと比べたらはるかに貧弱だが」
「いやなんかモヤシっぽいっていうかー。アタシもっと細マッチョで好青年な人想像してたんだけどなぁ〜」
「…サラ。こいついつもこんな感じか?」
「悪い子じゃないですよ。思ったこと言っちゃうだけで」
「いつも通りってことだな…」
マイカは常に小悪魔的な笑みを浮かべている。
ルピンとはまた別のベクトルでめんどくさい奴だ。こういう輩には亜人管理官の偉大さを知らしめてやりたいところだが。
「てかサラちーさっきから目隠ししてるのなんでなん?」
「サナダさんの水着姿を視界に収めないようにするためです」
「…!うわっ、ほんとだわ…」
「何が“うわっ”だ。私とて好き好んでこんなものを着ているわけでは……」
1度目を逸らしたかに見えたマイカの視線はある一点で止まっていた。覆った手、その指の間から凝視しているのが分かる。
「…マイカ、視線が下に落ちているぞ」
「し、下…?なんの話?」
「気になるのは分かる。いやでも目立つからな」
「ブフッ…!そ、想像させないでください」
「だが私とて恥じらいはある。今日しばらくはこの姿だが、あまり見ないで欲しい。もし見たくても私にバレないように頼む」
「だ、だから!なんの話って!アタシ何にも見てないんだけど!!」
「まあお前も年頃の娘だ。異性の違うところに興味をもつのはいいが、ほどほどにしておけよ。風紀が乱れるのはよろしくない」
「っ……!!」
みるみるうちにマイカの頬が赤く染まっていく。気温も相まってか、わずかばかり湯気が立ち上っている。生意気だったのが静かになるのはいいが、真っ赤なマイカの顔は今にも熱中症で倒れてしまいそうな勢いだ。
いけない。これでは私は何をしに来たのか。
「あー、すまん。別にからかうつもりは」
「バッ、バーカ!バーカ!バーカ!お前のチ○コなんか誰も見てないし!興味ないってーの!!自意識過剰なんだよ!この変態!」
「まっ、待て落ち着け。私の股間はどうでもいい。一度水分補給をしろ、ほら」
「は、はあ?!おお前ので水分補給?!ばばばば、バカ言ってんなよ!亜人管理官なら何でもしてもらうと思ってんのか!このセクハラ野郎!」
「ちょ、興奮しすぎだ!落ち着け!」
「こっ、コーフンなんかしてねー!こっ、股間を近づけてくんな!!」
ダラダラと嫌な汗がマイカから滴っている。
暑さで頭がやられてるのか、混乱してもはや股間のことしか見えていない。近づこうにも彼女からは股間が近づいてきているように見えてるようで…。
「お、おいサラ!助けろ!このままじゃ…」
「……くっ……ひっ……!」
「サラ!?」
サラは地面に突っ伏したまま動かなくなっていた。小刻みに震えている所を見るに、笑い死に1歩手前のようである。
と、サラに気を取られている間に、マイカの方から荒い息遣いが聞こえてきた。
「はぁ……はぁ……お前の、ことなんて…全然……」
息が荒い上に分かりやすくフラついている。
元々水分補給が出来てなかったのかもしれない。
もはや自分の社会的地位など気にしてる場合ではない。私は意を決してマイカへと近づき、手を掴んだ。
「っ?!さわっ…!」
バ チ ン !!
混乱したマイカから容赦ない平手打ち。私の顔面へとヒットするが、私は動じない。顎が外れかけるような強烈な痛みに耐えながら、私は持っていたボトルを差し出した。
「はぁ……!はぁ……!」
「大丈夫だ。私は何もしない。君にこのボトルを渡したいだけだ」
「はぁ……はぁ……」
「いいか。今お前に必要なのは水分補給だ。蓋は開けてある。自分で持って、自分で飲むんだ」
「……!…う、ん…」
落ち着いたのか、ボトルを手に取り、少し虚ろな瞳のまま飲み始めた。上手く飲めていないからか、口の端から漏れ出ている。
「んっ……ぷはぁっ……」
「大丈夫か?歩けるか?歩けるなら一度休めるところに行こう」
「……うん」
いつの間にかマイカの目線は上がり、私の顔を見ていた。
うずくまっているサラは置いて、私はマイカの手を引いて日陰のある方へと向かった。




