29話 とりあえずファンクラブを作ろう
ルピンの“征服”は収められ、我儘放題だったルピンの行動も鳴りを潜めた頃。“明けの明星”にはトラブルとは無縁の時間が流れていた。
「ファンクラブ…?」
「ええ、私様のファンクラブを開設したいので手伝ってくださる?!」
そんな中、ルピンが双子の亜人を引き連れて、亜人管理局に訪れていた。“ファンクラブを作ろう”その依頼は、私にとってはそれなりのトラブルであった。
「藪から棒に…誰が入るんだそんなもの」
「もちろん“明けの明星”の職員と亜人の全員が対象ですわ。この通り、会員証も用意しました」
「作ろうと思って作るものじゃないだろファンクラブなんて。何をしようとお前の勝手だが…全員は無理だろ。特にロコとかな」
「そこを何とかするのが亜人管理官の役目でしょう?ねぇ?」
「……!」
「……!」
「そうねぇ…シリアルナンバー、No.3をサナダ、アナタに発行いたします。これから私様の布教活動に邁進なさい」
「…なんで私が3番目なのだ」
「1と2がフレンフランだからですわ」
「ルピンさん、私には何番をくれるんですか?」
「もちろんエイル姉様にはNo.0。最高位を差し上げますわ♡」
「ふふ、ありがとうございます」
「……!」
「……!」
メイド服姿の双子の亜人、フランとフレンは身振り手振りでルピンに意思を伝えている。私にはさっぱり分からないが、ルピンは何やら分かっているように頷いている。
「ルピン…お前、そこの2人操ってるんじゃないだろうな」
「何を勘違いしてるのか知りませんけど、フランとフレンは元から喋れないんですわ」
「元から…いつからだ」
「いつ…?会った時からこうですわよねぇ?」
「……!」
「……!」
「本人たちも、いつからかは分かってないみたいですわよ」
2人は首が取れそうなくらいに首を縦に振っている。
明らかに生活に支障が出るはずだが、それを覚えていないということは、亜人になる前からそうだったということだ。
亜人は総じて、“天使”がこの地に現れた時から亜人になる直前までのことをほとんど覚えていない。皆、亜人として目覚めた時、決まって今の世についてを知らないのだ。
それが何故なのか、亜人管理官である私すら未だに分かっていない。
「話せないのは不便じゃないのか」
「私様なら何を言ってるのか分かりますけど…他の方とはどうしてるの?」
「…。……!」
「…!…!」
「ああ、はいはい。筆談で何とかなってるみたいですわね」
「本当に何言ってるか分かってるんだな…どうやって読み取ってるんだ?読唇術か何かか」
「人の上に立つ者なら、意を汲めるようになるべきでしょう?」
「…なんとなくってことか?」
「そうとも言えますわね」
「「……!」」
「…まあ2人が良いのなら、良いと思うが」
何やら嬉しそうにする2人を見ると、あまりルピンのことを強く言えなかった。2人は格好の通り使用人のようにこき使われているようだが、嫌な顔をしている所は見たことがない。
「さて、では私様はここで待ちますので、3人で布教活動に行ってきなさい」
「3人…それ、私も加えられてるか」
「当然ですわ!」
「亜人管理官、亜人からのお願いですよ。嫌な顔1つせずに聞くべきです」
「はぁ…まあ、最悪なことに今日はあまりやることが無いからな」
「私様のためにあくせく働いてくるのです!今日のノルマは3人とします!」
「「…!…!」」
おーほっほっほっ、といういつもの高笑いで見送られながら、管理局を後にした。ルピンの姿が見えなくなるまで、フランとフレンは手を振っていた。
「──────さて、ルピンのファンクラブの布教か。果たして入るやつがいるだろうか」
「…!」「…、…!」
「何か不満そうなのは分かるな…悪い。ルピンをバカにするつもりは無かった」
「……」
「……」
流石に双子同士でのコミュニケーションは出来るようだ。私には何も分からないが。
「…。」
と、困惑していると2人はナチュラルに私と手を繋ぎ、歩き始める。どうやら布教する当てがある様子。
しばらくもすると、遠くに人影が見えてくる。フランとフレンは見つけるや否や更に足を早めていった。
「…あら、サナダさんに“北部隊”のお2人。御機嫌よう。珍しい組み合わせですのね」
「おお、ユニか…」
フランとフレンが向かった先にはユニが立っていた。ファンクラブに入ってくれるような者とはとても思えないが、果たして…。
フランとフレンは間髪入れずに、懐からチラシを出し、ユニへと渡した。
「はあ、ファンクラブですか…あの高飛車女の」
「……!」「……!」
“高飛車女”
とても好意的とは言えない呼び方。
ロコと同様、ユニはあまりルピンに良い印象が無いのかもしれない。
「…まっ、いいですわよ。入会します。どうすればいいんですの?」
「なっ…?!」
「…!」「…!」
やったー、とでも言ってるようにバンザイのポーズを取るフランとフレン。ユニは微笑みながら2人の頭を撫でていた。
「ユニ、本当に入るのか…?ルピンのファンクラブだぞ」
「ええ。私、あの高飛車さんのことは苦手ですけど、この2人のことは大好きですもの」
「……。」「…?」
「また無理難題を突きつけられたのでしょう?いいですの。貴女達の助けになるのなら、私喜んで入会いたします」
「ユニ…お前…」
「なんです?こんなことで見直されても困りますの」
「…ルピンと喋り方が似てるな」
「っ…!一応言っておきますけど、あっちが真似してるだけですから…!くれぐれも勘違いしませんように…!」
「お、おお…そうか。悪い」
「いいですのっ!!私のは育ちで身についたもので、あっちが後から真似したものですのっ!くれぐれも誤った情報は広めないようにっ!」
過去になにかあったのか。
フレンフランがファンクラブの会員証を渡すのを確認してから、私たちは般若のような形相になってしまったユニから逃げるように立ち去った。
「ふぅ…いきなり1人目か。ペースが早いな」
「……。」
2人はおもむろに文字を書き始める。
「ん…?なになに…“会員の方には何か特典があった方がいいのか”…だって?どうだろうな。私はそういうのには疎いからな…」
「…?」
「……」
「何もないのは忍びないか。あ…ちょうど、その手のことに一日の長がある者を知っているぞ」
ファンクラブだの特典だのグッズだの。そういうのを相談するなら、アイツらという適任がいるではないか。
2人の手を引き、知り合いのいる場所へと向かった。




