27話 ゾン微パニック
シェルター内。
ルピンは傀儡と化したサナダと共に、職員が集っている研究室へと赴いていた。
「ルピン様。調査お疲れ様でした。今はゆっくり体をお休めになってください」
「……」
「…?報告なら、先程フレン様とフラン様の2人がなさっていきましたけど」
「そう…なら、私がわざわざここに来る理由分かりますわよね」
「あ…!あの、今日の仕事終わってからでも」
「ダーメ」
カプっ
ルピンは躊躇無く職員へと噛み付いた。
その事態に気づいた周りの職員達は叫びを上げるでも、慌てふためき逃げ回るでもなく、ただ諦めたようにため息をついていた。
〜〜〜〜〜〜
「──────何とかしてくれないかね」
ルピンが出て行った後の亜人管理局。
立石クルネが不機嫌な顔をして訪れていた。
エイルやシズクは頭に“?”を浮かべている中、ロコだけは状況を理解していた。
「…“下”だな?」
「ロコくん、いつものだよ。今回はちょっと遅れていたようだけど」
「結局こうなんのかよ…」
「なんです?どうかしました?」
「ルピンのやつだよ…説明するより見た方が早いか…」
ロコのうんざりした顔と共に、下へと向かった。
シェルターへと続く扉を開けた瞬間、4人の目に飛び込んできたのは、虚ろな瞳で徘徊しているシェルターの人々。ゾンビパニックものの映画のような光景であった。
「これってまさか…」
「ルピンの力だな。アイツは帰ってくる度に“征服”と称してこれをやる。迷惑極まりねぇ」
「全くだ。これではおちおち“おもちゃ作り”も出来ないよ」
「…それに関してはむしろこっちは助かってるけどな」
「…?」
人々は呻きながら、宛もなくさまよい続けている。
これがまさにゾンビパニックものならば、分け目もふらず襲ってくるはずだが、誰一人としてロコ達を襲う気配がない。
「…やっぱ妙だな。いつもなら死にものぐるいでオレ達を足止めしてくるはずなのに」
「来ないねぇ」
「こんな量の人…ルピンさんが皆噛み付いていったんですか?」
「いやぁ?ルピンくんの能力はそれこそゾンビよろしく人に伝染していくものでねぇ。操られた人が噛み付けば、その人も傀儡となってしまうのさ」
「お、恐ろしいですね」
「ああ、言うのも癪だが…アイツは最悪の亜人だよ」
行き交うゾンビの群れを通りながら、4人はシェルターの奥へと進んで行った。
もはや
「さて、どうしようかね。前はどこにいたんだっけ?」
「…覚えてねぇな」
「私も覚えてないなぁ…」
「前は誰がこの状況をおさめたんです?」
「ああ……そういえばいつも、マサムネのやつが何とかしてたっけなぁ…」
「…言われてみればそうだねぇ」
「これを、マサムネさんが…」
マサムネという名が出た途端に、エイルの目の色が変わる。マサムネもサナダも頼れないこの状況。打破するのは、ここに唯一いる亜人管理官である自分だ、というどこからともなく湧いてきた責任感がエイルを変えた。
「いいでしょう…ではこの状況、私が解決しましょう」
「え…?エイルくん、急にどうしたんだい」
「私とて、サナダの助手とはいえ亜人管理官です。これを今までマサムネさんが解決してきたというのなら、今は私が何とかするべきです」
銀縁のメガネをくいと上げ、迷いない足取りで職員の群の間を縫うように歩いていく。
「す、すごい自信ですね」
「お、おーい!自信満々なのはいいがどこ行くんだよー!流石に当てずっぽうじゃ一晩中かかっちまうぞ!」
「1ヶ所、目星は付いてます。まずはそこに向かおうかと」
困惑など他所にずんずん進んでいくエイル。
残された3人は肩をすくめながらも、エイルの向かう方向へとついて行った。
〜〜〜〜〜〜
暗く閉ざされた部屋。
ルピンは三角座りで、その中にポツンと座っていた。隣には同じく、三角座りのサナダ。未だ目は虚ろいだまま、呟く。
「アリガタキシアワセ」
「…そう、それはよかったわ」
「アリガタキシアワセ」
「ここで待ってれば、いつか誰か来る。そうしたら、もう…」
「アリガタキシアワセ」
「…ねぇ、なんでアナタが亜人管理官なの?もっと相応しい人がいると思うのだけど」
「……」
「はぁ…アナタにそんなこと言っても、仕方ないんでしょうけどね」
バ タ ン !!
扉が勢いよく開かれる。
「見つけました。かくれんぼ終了です」
「…早いのね。もう1人の亜人管理官は優秀みたい…」
「シズクさんも連れてきました。さぁ観念して、皆さんを解放してください」
「正攻法ね…本来そうするのが正しいのだけど」
体から無数の黒翼が飛び出し、宙を舞う。
コウモリの羽ばたきは室内でありながらも、カーテンをはためかせるほどの気流を生んでいた。
ルピンは身に纏った黒のドレスを揺らしながら、高らかに声を上げる。
「おーほっほっほっ!!気に入らない!気に入りませんわねぇ!そのやり方!この最強、最悪、最高の亜人、雲林院ルピンを脅すなんて100年早いですわーっ!」
「…!いいから黙ってサナダさんを解放してください…!」
コウモリ舞い飛ぶ空間の中、シズクが1人飛び出していく。そのまま手を伸ばし、ルピンをつかもうとするが、すんでのところでルピンの体はコウモリとなり辺りを飛び回った。
「あら、もうサナダを好きに出来る権利は必要ないのかしら〜?」
「っ、もっ、もうその卑劣な手には乗りません!私は自分でサナダさんと…サッ、サナダさんと…!」
「あらそれは残念。しょうがないからサナダは返そうかしらー」
コウモリが手に姿を変えたと思うと、パチンと指を鳴らす。それを合図に、どこからともなく現れたサナダが、シズクへと抱きついた。
「ひうっ?!」
「アリガタキシアワセ…アリガタキシアワセ…」
「あ、あああ、サナダさん、離して…欲しくないかもしれないけど耳元でそんなに囁かれると私アナタをどうにもできなくなくてなくて◎△$♪✕¥●&%#…」
シズクの顔は一瞬にして真っ赤に染まり、サナダによる高速から完全に動けなくなってしまった。
現状、ルピンに対して唯一の対抗手段だった彼女が封じられた。すなわち、今のルピンを実力で止められる者はこの場からいなくなった。
「ふふ…おーほっほっほっ!!さあどうするのかしら?私様は簡単に捕まる気はなくてよーっ!!」
「こりゃ…面倒になってきたな…」
「……」
黒翼飛び交う狭い部屋の中、満を持してエイルは、眼鏡を外した。




