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24話 崩壊の兆し

 

 “明けの明星”本部より遠く離れた僻地。

 3人の亜人が焚いた火を囲んで座っていた。


「なんですって?!ロコが“最強”の座を降りたと、今そう言ったの?!」


 鮮やかな桜色の頭髪の亜人が声を荒らげた。

 その反応に対し、他2人は無言で何度も頷いた。

 言葉こそ交わさないが、その情報の真偽は確かめられたようで、桜色の亜人は口端をつり上げて不敵な笑みを浮かべた。


「くひひ…ということは、今戻れば“明けの明星”は私様の時代ということでは…?」

「…!」「…!」

「くひはは!そうでしょうそうでしょう!こうしてはおりません!疾くシェルターへと帰るとしましょう!明日は早寝早起き朝ごはんですわよ!」

「…!」「…!」


 桜色の亜人が一方的に喋っているように見えたその場では、意思疎通はとれているようで。

 その言葉を最後に3人はそれぞれのテントの中へと入っていった。


 〜〜〜〜〜〜


 朝。亜人の皆が続々と部屋の外に出てくるくらいの時間帯。

 私は運動不足を感じ、ビル内をジャージ姿で1人ひた走っていた。


「あっ、サナメンおはよー」

「おうおはよう」

「サナダさん!おはようございます!」

「おはよう」


 部屋にちょうど出てくる亜人達と声を交わす。

 朝に挨拶をしながら走ることのなんと気持ち良いことか。ビル内には朝日はほんの少ししか入らないが、どこかひんやりとした空気が私を清々しい気分にさせている。


「よっ、2代目。機嫌のいい顔してんな」


 後ろから当然のようにロコが並走してきた。


「ああ…はぁ…清々しい気分だ…はぁ…週に1回くらいは…こうして走ってもいいかもしれない」

「走る時呼べよ。付き合うぜ」

「…はぁ…それは…はぁ…助か…はぁ…」

「息も絶え絶えじゃねーか。そんなに走ったのか?」

「大体1分だ……勘違いするなよ…今は話しながら走るのが…キツイだけだ…」

「ははっ!にしてもひ弱すぎんだろ!今度“下”の連中で球技大会でも開いたらどうだ?いい運動になると思うぜ」

「今度…掛け合って…みよう…」

「あっ、もし開かれることになったらオレも参加してみて…」

「待て……はぁ…一旦休憩だ……」


 息を切らせながら、その場に腰を下ろした。

 こちらは死にかけてるというのに、ロコは容赦なく話しかけてくる。わざとなのか気づいていないのか。どちらにせよ、お喋りな所は朝方も健在のようだ。


「はぁ……はぁ……」

「大丈夫かよ。おら水だ」

「すまない…助かる…」

「ははっ、汗だくだな。大丈夫か?今日も仕事なんだろ?」

「…どうせ大した運動はしないさ…部屋に戻って着替えるとするよ」

「亜人管理官も大変だな」


 ロコはどこからともなく取り出したブロック型の栄養食をかじりながら言った。


「…そういえば、ロコが朝にここにいるなんて珍しいな。いつもは外に狩りに言ってないか」

「あー…今日はなんか気分じゃないっていうか…」

「…?」

「なーんか嫌な予感がすんだよな…」

「勘か?そういえばお前ミルモに会った時も──────」


 ふと、俯いた顔を上げると、目の前に小さな影が現れる。


「キキッ」


 コウモリだ。変異生物ではない。何の変哲もないコウモリ。だが、普通こんなところにコウモリがいるだろうか。


「──────最悪かよ」


 途端にロコの顔が不機嫌に歪んだ。

 直後、どこからともなくコウモリが大量に飛び交い、一点に集合し始める。


「おーほっほっほっほっ!!」


 上品な笑い声と共に、コウモリの群れの中より真っ黒なドレスを着たピンク髪の少女が現れた。


「と、高貴で高音で高らかな笑い声と共に、雅な私様参上…ですわ」

「相変わらずうるせぇな」

「あー…もしかしなくても、亜人だな?“明けの明星”の」

「ご名答!私こそ、この“明けの明星”最強にして、最凶、最っ恐の亜人!“調査組”、“北部隊”隊長、雲林院ルピンですわーっ!!」

「ちっ…」

「おーっほっほっ!!…ってあら?ちょっと!追いついてないですわよ!」


 ルピンは手すりに乗り出し、下の階層へと声をかけた。見ると、下から走ってくる2人の少女が見える。

 2人はひとっ飛びで2階へと到着すると、用意していたであろう紙吹雪を辺りに散らし始めた。


「よしよしいい子…おーっほっほ──────」

「うるせぇ!」


 再び高らかに笑おうとしたところをロコの拳がえぐり抜く。存外、その拳は手加減無しの全力の一撃だったようで、直撃したルピンの顔面は瞬く間に血飛沫をあげ消し飛んだ。


「っ!?おいロコ!やりすぎだぞ!」

「安心しろよ2代目。コイツは──────」


 飛び散り、床や壁に付いたはずの血液はコウモリへと姿を変え、元あった彼女の顔面の位置へと戻り始めた。

 やがて血液が全て彼女の元へと帰ったと思うと、消し飛んだはずの顔面が形成を始める。


「ぶしっ、しゃ…ぶらはぁ…んん、名乗りを上げてる人間を殴るなんて、礼儀がなってませんことよ。ロコ」

「不死身なんだよ。コイツは」

「不死身…!そんなことが」


 舞い散る紙吹雪の中、ルピンは不気味に微笑みながら私を見つめる。今まで会ってきた“亜人”とは違う。何か異様なオーラを彼女は纏っていた。


「あら驚きまして?恐れおののきまして?でしたら今すぐ平伏なさい。今なら、私の下僕にしてあげてもよろしくてよ」


 今までの亜人からは感じられなかった邪気。

 彼女という存在を前に、日常が崩れ去るような予感がしていた。

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