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21話 最強vsコーヒー

 

 今日も今日とて、亜人管理官(メンター)仕事。

 そして、それは諸々のデータを格納しにシェルターへと向かう道すがらでの起きた出来事。


「ん…?」


 何気なしにビルを歩いていた時。

 遠くから聞こえてくる喧騒。そちらに顔を向けた時。


 ド ゴ ォ ッ !!


 何かが私の前を通り過ぎ、壁へと激突した。

 さながらスマッシュされたテニスボールのようだった。それはかなりの速度で、常人ならばただではすまないはずだが…。


「…ってぇ…やりやがったなアイツ…」

「ええと…乙川ロコか」


 乙川ロコならば、問題はない。

 壁にめり込みながらも悪態をついているのだ。無事に決まっている。見てもわかるくらい、全くもって元気だった。


「あ…?2代目じゃねぇか」

「2代目…?それは私のことか?」

「アンタ以外に相応しいのはいねぇだろ」

「はあ…それはそうとその感じ、またミルモに喧嘩を売っていたのか?」

「オレは買った側だ。“目付きが悪すぎてユユが怖がるかもしれないからあっちに行くのです”とかなんとか言うからよ。仕方なくな」

「それは流石に…ミルモに非があるか」

「へっ、非とか関係ねぇがな。別にアイツが何も言わなくても、オレは挑みにかかってたぜ」

「よくもまあ懲りないものだな」

「懲りてたまるかよ」


 ロコは力で無理やり壁から脱出し、服についた破片を手で払った。彼女はいつか着ていた戦闘服を着ていない。尋常ならざる状況のはずだが、ロコの着ていた私服らしき黒い革のジャケットはどこも破けていなかった。


「随分と丈夫な服だな…」

「これか?いーだろ。下の連中に作らせたんだ。最新技術の結集らしいぜ」

「なるほどな…」


 一応、と思い、メモに書き込んだ。

 その私の様子にロコは怪訝な顔をすると思いきや、ニヤリと口の端で楽しそうに笑んで見てた。


「2代目はメモ魔か」

「お前らの趣味嗜好の情報は、私にとって有益だ。聞いた時は即座に忘れんようメモするに限る」

「マサムネの親戚とは聞いたが、さすがにあの中身までは似てねぇみてぇだな。マメすぎる」

「似たくはない。あ、早速で悪いが、ついでだ。好きなものと嫌いなものを…」

「はっ、やなこった。もうちと暇な時に頼む。せいぜい真面目に取り組んどくんだな…っと…?」


 その場から離れようとしたロコは、進めようと踏み出した足から、唐突に崩れ落ちた。表情は平気そのものだが、どうやらそこから立てない様子である。


「…?んだこれ、足にキてんのか…?おい悪ぃ2代目。肩ァ貸してくれよ」

「……。」

「おい、2代目?聞いてんのかよ」

「その前に好きなものと嫌いなものを教えてくれ」


 私は半ば強制的に取引をもちかけた。


「あァ…?!チッ、いい性格してんな。好きなもの“戦い”、嫌いなもの“甘納豆”!おらこれでいいかよ」

「協力感謝する」

「おーさっきの撤回するわ。2代目、お前マサムネに似てるわ。厄介なところがそっくりだよ」

「そうか…?そうかもな。それで、連れていくならどこに行けばいいんだ?ミルモのとこか?」

「馬鹿言え。とっととクルネのとこに連れてけよ」


 私は嫌そうな顔をするロコの顔を見ながらも、歩けなくなった彼女と肩を組み“下”へと降りていく。思ったよりも女性らしい華奢な体つきだった。この体のどこに力を秘めているのか。


「あ?何ジロジロ見てんだよ」

「いや、随分細い体つきだなと」

「鍛えてはねぇからな。多分、オレの場合は筋肉がどうとかで動いてるわけじゃねぇ。もっと神秘的なパワーでやってんだ。ガタイがいい方が威圧できっけどよ」

「…意外だな」

「だよな。こんなのでも片腕で倍近くあるサイズの男を伸したことあんだぜ」

「いや、お前が意外とお喋りなことに驚いてる」

「あァ?!」


 正直に思ったことを口に出してみると、ロコは意外にも顔を赤らめた。

 私としては、初対面時の印象が強いので、無口でクールなイメージを勝手に抱いていたのだが、少なくともプライベートではそうでもないらしい。


「おま、っ…んな、こと…!」

「あっ…!いや悪い、偏見だ。私が勝手に、無口でクールな女性だと思っていただけだ。気にするな」

「っ、オレは無口でクールだろうが!戦いではクレバーな感じで、甘いものが嫌いなイメージだろうが!」

「…今まさにそのイメージが崩れそうなんだが」


 無口でクールと、自分で言っている。

 もしや彼女はそういうイメージを持たれたいだけなのかもしれない。メモ帳の好きなもの、嫌いなもの欄に(仮)と記しておく。


「本当は甘いもの好きなんじゃないのか」

「そんなわけねぇー。オレの好物はブラックコーヒーだ!あの苦いのがいいんだよ!」

「本当か…?ちょうどそこに売店がある。奢ってやるから、飲むといい」

「…?!あー上等だよ!買ってこい!」


 何が上等なのか知らないが、嘘の趣味嗜好を教えられたとすればたまらない。真偽を確かめるため、私はシェルターのラウンジでアイスコーヒーをLサイズで購入した。


「ほら、買ってきたぞ。遠慮なく飲むといい」

「…!」

「苦いのがいいんだったか?砂糖もミルクも必要ないか」

「い、いらねぇなそんなもん」


 テーブルに置かれた黒い液体を前に、ロコは何やらまごついている。やはり嘘か…?


「んっ、んん……!!」


 と、思いきや豪快にコップをあおった。

 みるみるコーヒーがロコの喉の奥へと消えていく。大した飲みっぷりであるが、とても美味そうには見えない。苦悶の表情で飲んでいる。


「っ、ぷはァ…!!はぁ、はぁ…あァー…美味かった…!」

「…大丈夫か?無理してないか?」

「はぁ…あ?何がだよ。好きなもん飲むのになんの無理がいるんだよ!?あァ?!」


 最初よりもかなり機嫌が悪くなってしまった。

 しまった、からかうもんじゃなかったと後悔していた所、身知った亜人が2人通りかかった。


「あ、ロコちゃんとサナダさんじゃん。珍しい組み合わせだね」

「ロコ。アナタ今日も壁お壊しになったでしょ。早く報告しに行きなさいね」

「クリフとユニか…」

「…ん?コーヒー?なんでロコちゃんそんなの飲んでんのさ」

「あ…あァ?!オレが何飲もうが勝手だろうが!!」

「うおっ、いつも以上に機嫌悪ぅ…なに、どゆこと?」

「…クリフ。これ以上は踏み込まないであげましょう」

「チッ…!」

「…!!えぇ〜??もしかしてロコちゃんまだあのキャラ付けやってんの〜?やめなよ〜?なんもカッコよくないって〜!バカみたいだよ〜?」

「っ…!!」

「…クリフ。つかぬ事を聞くが、ロコはコーヒーが好物ではないのか」

「ははっ、そんなわけないじゃーん。むしろその逆でロコちゃんは甘ゲフ──────!!」


 瞬間、ロコの拳がクリフの腹をめり込んだ。

 クリフは身体をくの字に曲がらせ、その場にくず折れた。

 最後まで聞けていないが、クリフの言わんとしたことは伝わった。十二分に伝わった。加えて、顔を真っ赤に染めたロコが何もかもを物語っていた。


「ロコ、もう一度聞くが嫌いなものは」

「黙れェっ!オレはコーヒーが好物なんだって言ってんだろーがァ!!」


 叫びながら、シェルターの廊下を疾走して行った。いつの間にか、その両足は完治していた。


 その場にはクリフのうめき声と、ウンザリするようなユニのため息だけがこだましていた。


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