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14話 襲撃!バンドトリオ

 

 シズクが去った後、私はクルネに抱えられたままシェルター内を移動していた。


 飴の効力は“大体”1日。

 今日1日はクルネに世話をしてもらうことになった。こうなったのはクルネの作った飴のせいなのだから、当然だ。


「はぁ…なんだったんだろうな今日のシズクは」

「君は愛されているということさ」

「そ…違うだろあれは」


 今日のシズクには病的なまでの何かを感じた。

 私が童貞であることに何故病的なこだわりを持っているのかは知らないが、普通ではない。

 なんのためにそんなこだわりを持っているのか、今度それとなく聞いておいた方がいいかもしれない。私のためにも。


「ん…?今日なんか人が多くないか」

「そうだね。なんかあったかなぁ」


 こんな時に限って、シェルターは賑やかだった。

 いつも行き交う人々は白衣の者ばかりなのに今日は明らかに派手な若者が多い。多分、ほとんど亜人だ。


「あっ、クルネ先生こんにちわ」

「こんにちわクルネ先生〜」

「はいこんにちわ」


 通り過ぎる亜人達はクルネに挨拶をしていく。

 慕われているのか。いや、それ以前に…。


「お前、他の亜人と大体同じ歳だろ?先生なんて呼ばれてるのか」

「あだ名みたいなものだよ。ほら、私って保健室の先生みたいだろ?」

「自分で言うのか」

「そういうキャラ作りをしてるからね」

「ふん…私があだ名を付けるなら“マッドサイエンティスト”だがな」

「…今の私との力の差、体に教えておくべきかな?」

「やってみろ。この大勢の前で出来るのならな」


 クルネと睨み合っていると、突如として走り寄ってくる足音が聞こえた。


「おおお──────クルネ先生ー!誰ですその子?」

「うお〜ちっちゃ〜」

「…クルネ先生の、息子…?」

「おー、バンドガールズじゃないか。略してバンガル」

「“海色ディーヴァ”です!勝手に略さないでください!」


 いつものトリオが現れた。

 だがいつもと違い、3人揃ってTシャツ姿だった。多分お手製であろう“海色ディーヴァ”のロゴがど真ん中に入っている。そして何故か、揃ってタオルを首に掛けている。


「この子が気になるかね?」

「はい!気になります!誰ちゃんですか?」

「この子はあれだよ。サナダくんの親戚さぁ。ちょっと今日だけ預かってるのさ」

「サナダジュニアか〜」

「…ふっ…たしかにサナダ氏に似てる…」

「眉のところが似てますかね!あっ、目元とかもそっくりかも!」

「元気だねぇ…3人揃って風呂上がりみたいだけど。何かあったのかね」

「上のガスがなんか故障?したみたいで。今日はシェルターの共同浴場でさっぱりしてきました!」

「ほお…どうりで、今日はシェルターに亜人が多いわけだ」

「ん〜見れば見るほど似てるな、サナダジュニア」


 何やら私を囲んでワイキャイするトリオ。

 よかった、比較的まともな反応だ。このトリオならばおもちゃにされることはあるまい。


「抱っこしたいです!抱っこ!」

「あー、どうだいサナダジュニアくん。いいかな」

「抱っこしたいと言うのなら我慢しよう」

「だそうだ」

「喋り方までサナダじゃね〜か」


 ひょいと渡され、レンに抱きかかえられた。

 私をだっこするレンはどこか嬉しそうである。それに、子供を抱えるのにやけに慣れている。


「はー、やわっこい。かわええなー」

「おっ、レンちゃんレアな喋り方〜」

「…いつもは、恥ずかしがるクセに…」

「こんくらいええやろー。久々に小さい子触るんやから」

「お姉ちゃん力発揮してんな〜」

「はーかわえー、写真とったろ」

「んぐあ」


 心底嬉しそうな顔で頬ずりされながら、携帯端末でシャッターを切られる。

 レンには多分妹か弟がいて、子供が好きなのだろう。メモしなければ…と、思ったが手元に何も無い。手を当てもなくさまよわせることしか出来なかった。


「ふふっ、なんやー?母ちゃんのおっぱいが恋しいんか?」

「レンちゃんのちょうどいいおっぺぇ触らせてあげなよ〜」

「ケリンちゃんのおっきょいおっぱいのがいいって」

「…ふん、私のは小さいからやめとけ…」

「っ、やめろ!別にそういうことじゃない!」

「恥ずかしがんなって〜。ちっちゃい子は甘えていいんだぞ〜」


 無理やり乳房を順番に触らせてくる。

 レン、ケリン、エヴィオ、手にそれぞれ特有の柔らかさが伝わってくる。


 止めてくれ。このことが知れた時に私は殺される。社会的に殺される。現に事情を知ったクルネがニヤニヤした笑みでこちらを見ている。止めてくれ。それにこういう時に、どういう顔をすればいいのか分からない。慣れてないのだ。女性の乳房なんぞ一つも触ったことがない。止めてくれ。


「ほらほらレンちゃんのが1番柔らかろ〜」


 シャンプーか、石鹸のいい匂いがする。


「…でかい、ケリンちゃんのがいい…」


 彼女らの伸びた髪が私の肌を撫でる。


「レヴィオちゃんくらいのが落ち着くやろ」


 柔らかな、感触が…。


「っ、うぐおおおぉぉぉ!!」

「「「あっ」」」

「…?!ちょ、サナダくんどこ行くんだねー!?」


 私は何かに耐えきれなくなり、全力でその場から脱出し、逃げ出した。そして、そのままあてもなく走り出した。忘れたい。感触も、匂いも。次に会った時に意識してしまう。亜人管理官(メンター)として良からぬことを考えるやもしれない。


 忘れねば。

 忘れねば。

 私はその一心でシェルターを駆け抜けた。


 走り。

 走り。

 少し休んでから。

 再び走り抜けた先──────


「──────うあっ」


 何かぶつかり、思わず尻もちをついた。

 目の前にいた人は、すかさず私へと手を差し伸べる。


「ボク、大丈夫ですか?」

「大丈夫…です」


 いつもより柔らかな表情をしたサラがそこには立っていた。


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