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13話 キャンディよりクレイジー

 

「見てくれ、大変興味深い物ができた」


 シェルター医務室にて。

 立石クルネが気の抜けた顔で私に何かを差し出してくる。


「なんだこれは」

「不思議な飴玉だよ」

「…光を放ってるんだが」

「不思議だろう?口に放ってみるといい」

「断る。嫌な予感しかしない」


 早々に取り出されたそれ。

 クルネが言うには飴玉。

 それは包み紙の上からでも分かるくらい飴玉は綺麗な光を放っている。明らかに食べ物の放っていいものではない。だが、包み紙の中から覗くそれは確かに飴玉に見えた。


「食べなよ」

「嫌だ」

「君のために作ったのになぁー」

「…私のため?どういうことだ」

「気になってきたかい?」

「絶対食べないが、一応話は聞こう」

「ほら、君はなにかと無茶をしたがるだろう?そんな君を止めるために“弱体化”の作用をその飴に閉じ込めてみたのだよ」

「なんだ“弱体化”の作用って。そもそも亜人の力なら、私なんぞ素で止められるだろ」

「そうだけどね。私は多分、君に本気で凄まれたら萎縮して言うことを聞いてしまいそうなんだ。それすらも弱体化するアイテムを開発したのさ」

「凄むのを、弱体化…?」

「気になるだろう?」


 クルネが何を言っているのか分からないが、正直気になってきた。このまま食べてしまえばコイツの思う壷なのは分かっているが、わかった上でも食べたいという自分がいる。

 味も気になってきた。


「…弱体化というのは、どこまでされるんだ」

「安心したまえ。歩けなくなるほどではないよ。日常生活には何の支障もない」

「本当か?」

「本当だよ。実際に私も食べたんだから」

「…言ったな?」


 目映い飴玉をヒョイと口に入れた。

 口に広がったのは、普通にイチゴの風味──────というのが昨日までの話だった。


「おい。どうしてくれるんだこれ」


 後日、同じくシェルター医務室にて、私はクルネに問い詰めていた。

 クルネが堪えるような笑みでこちらを見ていた。その目線は明らかに、自分よりも下の位置にいるものへと向いていた。


「ふふふ…随分可愛らしくなったねぇ…まんま君を小さくしたみたいだ」


 その日、目覚めると私の体は縮んでいた。

 若返っていたのだ。現在の具体的な年齢は分からないが、幼児と呼べるほどに私の体は“弱体化”していた。


「戻せ。今すぐに」

「はは…!実験成功だ。そんな声じゃ、いくら凄まれてもなぁんにも怖くないよ」

「ちっ、戻せぇ!!」

「可愛いおべべ着ちゃってまあ…どこで手に入れたんだいこんな服」

「ここにくる道中でシェルターの人間に着させられた…せめて代わりの服を用意しろ」

「えー、このままでいいじゃないか。おーよちよち…おっ軽いねぇ!推定年齢5歳ってとこかな?」

「お前っ、離せ!私は26歳だ!!」


 為す術なく、担ぎ上げられてしまった。

 屈辱だ。26ともなろう男が年下の女に担ぎ上げられるなど。着ぐるみのような衣服にこの身を包むなど。私は“亜人管理官(メンター)”だぞ…!


「ぐ、ぅぉおおおお!!」

 

 クルネの腕の中、全力で暴れて見せる。

 だが、私を捕まえる腕はビクともしなかった。


「はっはっはっ!なんてヤンチャな子だ。そんなやつはこうだ!むちゅっ、むちゅー」

「ぐああァ!やめろ!分かってるのか!今貴様が口付けしてる頬は、26歳のオッサンのなんだぞ!!」

「見た目は5歳さ〜、ほっぺムチムチで可愛いでちゅねー」

「ぐぁぁあああァ!!」


 いくら叫んで見せても、赤子のような呻きが口から漏れるのみ。クルネは気味悪がるどころか喜び、より一層私を可愛がろうとしてくる。

 誰か助けてくれ!マッドサイエンティストの玩具にされる!


 ガラッ


 と、引き戸を開ける音。

 医務室に1人の少女が入ってきた。


「すいませんクルネ先生。サナダさんを…って、ここにもいない」

「…サナダならここにはいないよ」


 シズクだ。

 助け舟だ。

 私は必死にSOSを発した。


「シっ、シズク、助けてくれー!」

「…?クルネ先生、誰です?その子」

「この子かい…んー、そうだなぁ」


 クルネは少し考え、悪い笑みを浮かべてから口を開いた。


「私とサナダの子さ」

「……はい?」

「いーつだったかなー、5年も前くらいのことだよ。雨に濡れた私の体を、サナダは優しく…」

「おい適当言うな」

「嗚呼、愛しい我が子よ。むちゅっむちゅっ」

「っ、やめろっ、汚い口を近付けるな」

「…嘘、ですよね」


 ゾク…とした悪寒が私の背を駆け抜けた。

 気温が下がったのではない。体が見えない何かを感じ取ったのだ。クルネも同じものを感じたのか、強ばった表情をしていた。


「う、嘘じゃないさ…見てご覧この子、サナダにそっくりだろ?」

「似てるなんてたまたまです。そんなはずはありません…だって、サナダさんってずっと童貞ですから」

「どっ…え?」

「童貞なのに子作りができるはずありません」

「な…何故そんなことを知ってるんだい」

「少し考えれば分かります。サナダさんは仕事をまず第一に考えるような方です。いくら狭いシェルターの中でも、職場恋愛なんてものにサナダさんはうつつを抜かしたりしません。ましてや前までは給仕の仕事をしていました。女性との出会いなんて職員以外では亜人くらい…顔も見せられません。給仕の時に1番関わりが深かった私でさえ、会話の1つもありませんでした」


 シズクの口数がいつも以上に多い。

 それに、さっきから真顔で瞬きひとつしない。

 体が縮んだからなのか…シズクが少し恐ろしく見えてきた。


「あとは仕事以外の時間ですが、サナダさんは基本的に自室から出ることはありません。あるとしても誰かに何かを頼まれでもしないと出ることは無いでしょう。そういう人です。あの人と恋仲になれる人がいるとするなら、面倒くさがりなあの人を部屋から連れ出せるような活発な人です。でもあの人の周りを見たところそんな人との関わりはなさそうでした。あんな人に彼女なんてできませんよ」

「ぜ、全部君の妄想だよね?」

「妄想であっても、あの人が童貞であることはリアルです。これは絶対です。じゃないとおかしいです」

「は、はは…?に、二十代半ばが守ってきた貞操なんて誰が欲しがるんだろうねぇ」


 すると、真顔から変わらなかったシズクの表情がコロりと笑顔に変わった。


「ほんとです。誰も欲しがらないでしょうね」

「……この子はサナダに似てるだけの5歳児だよ」

「サナダニニテルダケノサンサイジダ」

「ですよねぇ…あの人がどこに行ったのか、ちょっとエイルさんにも聞いてきます」


 ガラ…と引き戸を開け、シズクは幽霊みたいに外へと消えていった。

 少し開いたままになっている引き戸を、私とクルネは引きつった顔のまま、しばらく眺めていた。

 私たちは何を見てしまったのだろうか。


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