116話 相談にのり
人気のない廊下をユユと歩いた。
窓から吹き抜ける風が、シャツを抜け、肌から熱を奪っていく。
ユユはその真っ白な髪故に目立ち、元々有名?なこともあってか、教室前を通る度に生徒達の注目を集めていた。
「人気だね。過ごしづらくならない?」
「どうかな…前の学校じゃ、遠巻きに眺められるくらいだったから、大丈夫だと思う」
「僕だったら耐えられないや」
「そう…?シンイチさんだったら慣れたもんでしょ?」
「僕ぁ“サナダ”じゃないよ…」
教室内から、生徒たちがコソコソ話しながら僕とユユの方を見ている。
多分、何か誤解されてるんだろうな。ユユも大変だ。
「……あちぃ」
廊下の窓から眩しいくらいに日が差し込んでいる。夏もそろそろ終わると思っていたのに、いつまでこの暑さは続くのだろうか。
「ネクタイとったら?」
「え…?いいの?」
「クールビズってやつでしょ?学校の先生は皆外してるよ」
「なんだよ…わざわざ用意されてたから着けなきゃなんないのかと思った」
「え…それキバさんが用意したの?」
「そうだよ。なんで?」
「いや、普段あの人が自分から動くことなんてないのに…すごいやる気だね」
キバにとってはようやく掴んだ“天使”への手がかりなのだ。やはり“天使”に何かしらの因縁があるみたいだし、かなり張り切っているのだろう。
それに付き合わされてる俺はたまったものではないが。
ため息をつきながら、ネクタイを外した。
「はぁ…ちょっと楽」
「……」
「何さ。じっとこっち見て」
「いや、男の人がネクタイ外す仕草って…いいよね」
「っ、はぁ…?!うるせぇ!」
「なんでキレるの…」
「ふーん、ユユ僕のことそんな目で見てたんだ…やめてよね」
「仕草がいいって話だよ!別にシンイチさんがどうとかって話してないでしょうが!」
「えぇ?本当〜?僕、これでもイケメンで通ってるからな〜…」
「それまだ言ってるの…あれお世辞だって。こんなオッサンがカッコイイわけないじゃん」
「なに、ユユの趣味は美少年ってこと?」
「は…?いや別に、そういうんじゃないけど」
「と、言うと…?ユユの好みは…?」
一瞬、ユユは睨みつけたかと思うと、全くの予備動作なしで僕の鳩尾に拳をぶち込んできた。
突然のことすぎて反応できず、その場にくずおれた。
「っ…おご、ぁ…!!」
「くだんない話してないでさっさと行こう」
「まっ、て…ちょ……くるじぃ……」
腹の辺りを苦痛がグルグル巡っている。
そんな悶える僕を置いてユユは廊下を歩いていった。
多忙な日々を過ごせど、まだうら若き少女。デリケートな話題だったのかもしれない。
失言だった…。
〜〜〜〜〜〜
スピーカーから鐘の音が鳴る。
それは授業が終わった合図。キンコンカンコンというやつだ。なんとも懐かしい。
僕は“相談室”と呼ばれる部屋で“スクールカウンセラー”として、そこに座っていた。主な仕事は生徒の悩みを聞き、助言や指導を行うらしいが授業中は当然誰も来るはずがなく。ここに来てかれこれ2時間が経過した。
誰も来なくて暇を持て余していたが、今から昼休み。
一日の中じゃ今が一番働ける時間だろう。
「──────ごめんください!」
と、考えたそばから、早速訪れる者が現れる。
とても悩み事をしているとは思えないほど、明朗快活な声の主は、茶髪のポニーテール少女だった。
「スクールカウンセラーの方はアナタですか?!」
「え、ええ…どうぞ座って」
「失礼します!!」
少女は全く遠慮することなく座り、机に置いてあった菓子を躊躇無く手に取った。
「いただきます!」
「はい…」
「うむうむ…今日はお弁当を忘れたので助かります…」
「…?」
最早それが目的なんじゃないか…と、思う前に少し違和感。僕はどこか彼女の声、というか雰囲気に既視感のようなものを感じていた。つい最近に会ったことがあるような…。
「…まあいいか。ここにわざわざ来たんです。何か相談事が?」
「私、バッズちゃんに迷惑をかけてしまいました!!」
「…君、“親衛隊長”だね?」
「…?!なぜ私のハンドルネームを?!」
ボロボロとクッキーをこぼしながら、“親衛隊長”は驚きおののいた。間違いない。この話が通じなさそうな感じは、間違いなく“親衛隊長”であった。
「まさか、ストーカー?!ストーカーですか!スクールカウンセラーが?!」
「待て待て、君とは会ったことがあるんだよ。ほら…ええと、最近人の腕を折ったじゃない?」
「…!まさか、“億ドルフェイス”さんですか?!」
「んー?多分違うんじゃない?」
「そんな…私が最近腕を折った人なんて“億ドルフェイス”さんくらいですよ」
「いつ、の話かな」
「昨日ですね。ちょうどバッズちゃんに迷惑をかけてしまう直前です」
「ああじゃあ僕なんだ、それ…なに、“億ドルフェイス”?ハンドルネームって、人に勝手に付けられるものなの?」
「バッズちゃんが付けたんです。なんでも、仮面に億ドルもの価値がついてるとか」
ルピンが書いたサインのことだろうか。
億ドルなんて大層なもんじゃないだろうに。
「それで…悩みってのはじゃあ、昨日のことだよね?気にしなくていいと思うよ。また近いうちに集会開くらしいし」
「もちろんバッズちゃんは許してくれます!懐の広さはマリアナ海溝だそうですから…ですが!私が私を許せないんですっ!皆が楽しみにしてた集会を台無しにして、バッズちゃんを困らせてっ!」
「…結構気にしてたんだ」
「迷惑を、かけてしまって…!!」
声量の割にはちゃんと落ち込んでいるようで、机を余計に叩きながら“親衛隊長”は俯く。なんだが放って置いても勝手に立ち直りそうな気もするが、その行いは多分スクールカウンセラーとは言えない。
頬杖をつき、何となく思いついたことを言ってみる。
「まぁ…でもいいんじゃない?別に大した被害じゃないんなら、迷惑っていってもイタズラレベルでしょ?“DMK”ってそもそもイタズラする連中のことだし。皆むしろ褒めると思うけど」
「…!確かに。そういう見方をすると、私の行いはむしろ“バッド魂”に満ち溢れた素晴らしい行いだったのでは?!」
「はぁ、“バッド魂”ってのはよくわかんないけど」
「よっしゃ!元気出てきました!お菓子ありがとうございました!“億ドルフェイス”さん!!」
「あ、いやお菓子にお礼を言うのはおかしいんじゃ……」
バダンッ!!とドアを閉めながら走り去って行った。
そこまでクリーンヒットなことを言った覚えは無いが、“親衛隊長”は勝手に満足して、勝手にその場を去っていった。
これでいいのだろうか。スクールカウンセラー。これでいいのか、悩む乙女よ。




