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114話 いい大人とは何なのか

 

 翌朝。

 今日も今日とて、蒸し暑い。

 朝だというのに、全身を何かに覆われているかのような不快感だ。暑くておちおち寝てもいられない。


「んっ、んんーー」


 昨夜、クルネに治してもらった右腕を高く上げ、背を伸ばす。

 ガタガタ、と何やら今日の寮はいつもより騒がしい。それもそのはず。いわゆる学校の夏休みは昨日の時点で終わっている。要するに、今日から学校の授業は再開するのだという。


 耳をすませば蝉の鳴き声以外に、上からも下からもドタバタ足音が聞こえてくる。

 そして、ドアの向こうからも。コツコツと靴音が聞こえきていた。

 隣人はもう出かける頃合だろうか。


 バ タ ン ッ


「シンイチさん、起きてますー?朝ごはんここに置いときますからー。食器はまた帰りに回収しに来ますので、分かる場所に置いといてくださーい」

「あ…わかっ……行っちゃったー」


 ドアを開け、伝えることだけ伝えると、タマはさっさと行ってしまった。律儀なことだ。毎朝、隣人の朝ごはんを用意するなど…。


「…なんか、僕ペットみたいじゃない?」


 流石に何か危機感を感じたが。


「まあいいか…グータラさいこー」


 横になって独りごつ。


「──────へへへ、シンイチさぁん、いいご身分だねー」

「っ、うぇっ…?!」

「いいなーボクも休みたいなー」


 窓を見ると、翼を背負ったクリフがベランダの柵にとまっていた。制服姿で寝転がった僕を見下ろしている。

 僕は思わず身を起こした。


「びっ、くりしたなぁ…どうしたの?こんな朝から。なんか用?」

「さっき雑用頼まれちゃってさー。それだけなんだけどねー。はい」

「…何これ?」

「中身見たら分かるからー、それじゃあねー」


 クリフは持っていた紙袋を僕に渡すと、さっさとどこかへ飛び去って行ってしまった。雑用…こんな朝からわざわざ、誰だろうか。不思議に思いながらも、とりあえず紙袋に入っていた物を取り出した。


「ん…?服、か」


 スラックスに白いシャツ。あとネクタイ。

 いかにも外に働きに出る人間の服だ。とてもいい気分ではない。わざわざこんな物を送ってくるような知り合いはいない気がするが…。


 フ ァ ?


 最近変えた着信音が鳴る。端末を見ると、その送り主らしき人物からのメッセージが。


『10時にそれを着て“セントラル”に集合だ』

「っ、はぁー……アイツ…」


 キバだ。

 僕が紙袋を開けるのを見計らったかのようなタイミングだった。窓を開け、周りを見渡すがキバらしき人物は見当たらない。

 蝉の鳴き声だけがひたすらに耳を過ぎていく。


 昨日確かに言っていたが、昨日の今日だぞ?

 行動力がありすぎやしないか。

 …もし、これをバックれたらどうなるだろうか。


 思いながら、空になった紙袋を折りたたもうと、一度ひっくり返した。


『来なければ殺す』


 と、書かれたメモがひらり中から出てきてしまった。


「……行くか」


 流石に殺すとまで言われたらしょうがない。

 特に、あの人が言うとシャレになってない。


 〜〜〜〜〜〜


 そうして10時。

 言われた通り“タワー”近くに位置している最も大きな学び舎、“セントラル”へと足を運んだ。

 流石に授業か何か、もう校内で行われているらしく、学校周りに歩いている生徒は見当たらなかった。


「小僧こっちだ」


 到着してすぐ、声をかけられた。

 声がする方へと目を向け、すぐに視線を外した。信じ難い光景、立っていたのは赤いジャージ姿のキバであった。


「……えぇ?」

「どうだ。適当に買い揃えた物だが、サイズは合ってるか」

「ああ、はい。僕のは問題ないですけど…キバさんは、なんスかその格好」

「見ての通り動きやすい服装で来た」


 ジャージ姿で、何食わぬ顔で立っているコイツは本当にキバなのか。少し前(3年前)まで人身売買を行っていた悪党の姿がこれか?どう見ても知らないヤツだ。本当に別人なのかもしれない。


「…なんだその目は」

「あ、いや、なんて言うか…スクネが見たらなんて言いますかね。その格好」

「ああ、そういえば。今日のことはスクネには言っていない。少し驚かせられるな」

「それはスクネじゃなくても驚くでしょうね…てかそれより、僕ら校内に入れるんです?僕はともかく…っていうか、完全に不審者ですよ」

「ふっ、案ずるな。手配はしてある」


 そう言うと、余裕の足取りで校門へと向かっていく。

 校門には警備の人間が立っているが…。


「昨日に連絡した者だが…」


 何やらコソコソ話しており…。


「いや、だから昨日連絡した者なんだが…そこの者もだな…あっ、おい。上の者にも話を通せ!」


 そして、連行されていった。何やら警備の人間はキバに納得いってない様子だった。何を言ったのだろうか。


「…あ、アナタがシンイチさんですか?話は聞いています。どうぞ。これが入館証です」


 キバを連行していったのとは別の警備が僕に入館証を渡す。

 何故僕だけ?困惑しながらも、すんなり校門を抜けていった。何なのだろうか、僕の預かり知らないところで色々と進んでいるようだ。


「……ええと、僕はどうすればいいんだ?」


 とりあえず宛もないが、校内を目指して歩いた。


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