113話 蚊帳の外
「おーほっほっほっ!!これにて一件落着ですわー!」
ルピンは“親衛隊長”を含めた、辺り一帯の無事を確認すると、高らかに笑って見せた。ガランとした集会会場の中心から、ルピンの笑い声がよく響いた。
「これでロコ達にはバレずに済みましたわ…危ない危ない…ふふふ…」
調子に乗っているかと思えば、額にはこれでもかというくらい汗が滲んでいた。内心、かなり焦っていたのだろう。浮かべている笑みは、どこか引きつっている。
後ろでは元に戻った“親衛隊長”をフレンとフランの2人が介護していた。
何はともあれ、僕がこれ以上ここにいる意味はないだろう。
さっさと帰ってしまおう…と思っているところ、ルピンに呼び止められる。
「そこのアナタ。名前は知りませんけど、今の一件、アナタが解決してくれたのでしょう?」
「いや…?解決したのはさっきの鉄仮面の人ですよ」
「いやいや、私様は見逃しませんでしたわよ。アナタがケータイで誰かを呼ぶところを。それでタイミングよく、アナタを守るために現れたあの鉄仮面を」
「…気のせい、です」
「ふっ、私様には全部お見通し…私様、頑張った人にはちゃんと褒美を与える主義ですの」
そう言いながら、ルピンは油性マジックを取り出し、僕の仮面に何かを鼻歌まじりに書いていった。
「…何を書いたんですか」
「私様のサインですわ。私様の国民だったら、喉から手が出るほどに欲しいはず!」
「あぁ…その、いただいてからで悪いんですけど、この仮面正規に手に入れた物じゃなくて…ていうか、そもそも僕“DMK”の人間ではなくて」
「あら、不法入国者ってワケ?どれどれ…はぁはぁ、なるほど…安心なさい。私様は懐が深いことで有名です。その仮面はアナタに差し上げますわ」
「あ…はい」
今気づいたが、今の僕はサングラスを着けていない。今仮面を取られれば、素顔をルピンに晒してしまうことになっていた。危ない…。
「その仮面…大事になさいね。私様のサイン以前にレア中のレアなんですから。シリアルナンバー3…そこのフランとフレンの次に古参ですわよ」
「へぇ、前の持ち主はどこに行ったんです?」
「…たしか、豆腐の角に頭をぶつけて亡くなられました」
「そんな馬鹿な」
「そうですわね…馬鹿な死に方をした方でした」
ルピンは物憂げに天井を眺めた。ナンバー3、となると“明けの明星”の一員だった者だろうか。使う者がいないのなら、持っていっても構わないだろう。
「ま、今日の集会は中止ですわね。また近いうちに開くので、アナタも来たかったら来なさいな」
「はぁ、じゃあ気が向いたら」
「安心なさい。不法入国者と言えど、それなりにもてなすつもりですので…ではごきげんよう。もう夜も更ける頃ですので、気をつけて帰りなさいね」
ルピンは踵を返し、フランフレンの方へと戻っていった。もちろん行く気はない。また“親衛隊長”に腕を折られたくはない。
と、少し周りを見回し、隅に縮こまっている小さな影に目を向けた。
火川ニオが、唖然とした顔で固まっている。
「ニオちゃん…?大丈夫?」
「……。」
返事はなかった。
無理もない、今日の彼女の一日はショッキングなことが多すぎた。バケモノが現れるわ、目の前で見知った人物の肉と血が飛び散るわ、ろくな目にあっていないのだから。
「……バ」
「バ?」
「バッズちゃんと喋っちゃいました…」
「え…?」
「あのバッズちゃんですよ…?滅多にあることじゃありません…これ、本当に現実ですか…?」
「…想定してたセリフだけど、なんか思ってたのと情緒が違うなぁ」
「凄いですよねぇ…あ、ていうかシンイチさんですか?」
「そうだけど…ニオちゃんて“海ディ”のファンじゃないの?」
「そりゃ“海ディ”は誰でも好きですよ…バッズちゃんはもっとこう…マイナーというか…カルト的人気って言うんです?」
「いや知らないけど…ともかく、元気そうでよかったよ。1人で帰れそう?」
「ご心配なさらず。どうにかバッズちゃんと握手してから帰りますので、シンイチさんはお先にどうぞ」
すっくと立ち上がると、ニオはのしのし足音を立てて、ルピンの方へと向かって行った。本当に、なんの心配もなさそうだ。
いい加減、息苦しい仮面も脱ぎたいし、帰るとしよう。
会場から出て数歩、仮面を外す。
外はとっぷり暮れており、夜の海には街の灯りがチラチラと反射している。夜の海を見るのは何気に10数年ぶりだったりする。趣深い、なんて思っているのも束の間──────
「そっちは無事に終わったようだな」
会場を出てすぐ、壁にもたれたキバが立っていた。
「うお、びっくりした…キバさんの方は大丈夫でした?」
「上々だな」
とか言いながら、その手に持っているのは切断されて、電子部品のはみ出した機械の義手であった。
「どこか上々なんですか…」
「いや、おそらくお前が思っている以上の収穫だ。あの逃げたヤツ、見た時に何か感じなかったか?」
「え…なんか、違和感というか…不思議と、目が離せなかったですかね」
「それが“天使”に対して感じるお前の“直感”だ。その感覚をよおく覚えておけ」
「“天使”って…さっきまでここにいたヤツがですか?!」
突然の報告に思わず声を荒らげる。
まさか目標がそんな近くにまで来ていたとは。
「そうだ。小僧が来た途端に事態が進む…お前は確かに我々の秘密兵器なのやもしれん…」
「いやいや、たまたまでしょ」
「ヤツ、“癒す者”は学校の制服を着ていた。あの制服は間違いなく“セントラル”の物だ」
「“セントラル”って、確かシティの中心にある一番デカい学校でしたっけ」
「ともなれば、次に我々がするべきことは…分かるな?小僧」
「えっ……まさか…」
キバはボロボロの服のまま、ニタリと笑った。
「明日、行くぞ“セントラル”」
「いや…無理でしょ」
そんな僕の断りなど聞いてないかのように、キバは端末で誰かに連絡を取り始めた。もう既に、嫌な予感しかしない。




