111話 バッズちゃん、特に何もしない
それはいつか聞いた話だ。
まだ、僕が“明けの明星”にいた頃。
ロコに聞いた。“明けの明星”で最も強い亜人は誰なのか。
ロコは言った。
単純な戦闘能力ならば、乙川ロコが最強。
生存能力ならば、雲林院ルピンだと。
しかし、ある特定の条件。
組織内で二人一組のペアを作った時。
最も強いペアはどの2人になるのか。
乙川ロコは言った。どんな組み合わせで、どんなペアを想定したとしても、間違いなく最強なのは──────
「──────フラン、フレン、そこのでっかいのを何とかしてくれる?」
ルピンは変わり果てた“親衛隊長”を見て、告げた。
それを合図にフレンとフランは走り出した。
小さな2つの影は瞬時に巨体の上を駆け上がり、伸びた白い帯を拘束具のようにして、相手の動きを封じていく。
“親衛隊長”はそれなりに恐怖を煽る姿をしているが、それに2人は臆することはない。
「うおお…マジか…すげぇな…」
「さて…そこの方。これはどういう状況なのか教えてくださる?」
ルピンは倒れ込んだ僕の近くで屈み込み、不敵に笑んで見せた。
「ええと、ルピ…じゃなくて、アナタがバッズちゃんですか?」
「そうですけど…?そんなことをわざわざ聞いてくるってことは新入りさんかしら?ごめんなさいね。初めての集会がこんな事になってしまって」
「い、いえ…」
ド ズ ン !!
大きな音が鳴り響いたと思うと、ルピンの後ろには自らの白い帯によってぐるぐる巻きにされた“親衛隊長”が倒れ込んでいた。
わずか数秒の間の出来事。キバが言うには“天使”に近いという亜人。その亜人をフランとフレンはものの数秒で制圧してしまったのだった。
“親衛隊長”が動けなくなったのを確認すると、フランとフレンは駆け足でルピンの元まで走り寄った。
「お2人とも、よく出来ましたわ。流石は私様の家来」
「…!」「…!」
「えぇ。えぇ?…2人が言うには、あのおっきいのはウチの国民らしいですけど。何かご存知かしら?」
「ああ…さっき、怪しい薬を彼女に注入していった怪しい人物がいまして…」
「ふぅん…?本当かしら?そこの国民にも話を聞いてみようかしらね…ねぇ、そこのお方。あのおっきいのについて何かご存知?」
ルピンはつかつかとハイヒールを鳴らしながら、隅でうずくまっていたニオを掴み上げる。ニオはルピンに気がつくと、これでもかというくらい目を見開いた。
「えっ……えっ、えっ、えっ、バッ、バッズちゃん?!わ、私に話しかけてます?!」
「どう見てもアナタ以外いないじゃありませんの。さ、お答えになって」
「えっ、えっと、えっと、えっと…あっ、えっと…」
ニオの目がグルグルと回っている。
答えようと口を開いてみるが、出てくる音は“あっ”とか“えっ”とか言葉にもなっていない声であった。
そんな様子にシンパシーを感じてしまう自分がいた。
「ふむ…落ち着いてから話してくれたらいいわ。とりあえずアナタ達は外に──────」
ビ シ ュ ッ!!
刹那、どこからか伸びた白い帯がルピンの顔面を貫いた。
「ひぁっ…?!」
飛び散った鮮血がニオの頬へとベッタリ付いた。気の毒なくらいニオの表情は恐怖に歪んだ。
が、顔面のみ吹き飛んだルピンは何事も無かったかのように立っていた。
「ャ、ジュッ、バハァ──────くっ、いったぁいですわ!!あんのデカブツ!よくもやってくれましたわね!!フラン、フレン、拘束が甘ブヘラァ──────」
「ヒィッ!!」
顔面をバラバラにされながらも喋っているルピンの姿はなかなかグロテスクだ。ニオはこの光景を見て、口に手を当ててガタガタと震えていた。
背後ではやはりフランとフレンが“親衛隊長”の拘束を頑張っている。
「さて、そこの子は何も分からないみたいですし、アナタに聞くしかなさそうね」
ルピンは口を開け、僕の首元へと顔を近づけた。
しまった。ルピンの能力は“不死身”とあと一つ…。
「あー…んっ」
噛み付いた人間を意のままに操れる能力──────!!
「あ、ら…?」
「…?」
首元から口を離した後、ルピンは不思議そうに首を傾げた。操られている間、その人間に意識はなかったはず…が、今の僕にはハッキリと意識が残っていた。
「アナタ、もしかして女性の方?と、いうか、亜人かしら」
「……は、はい」
「なんで少し不安げなのかしら…ま、まあでも、それでしたら納得できます、わ゛ぁ!?」
次は右腕が鮮血と共に消し飛んだ。原因はやはり“親衛隊長”から伸びている白い帯。
「っ、ちょっとぉ?!フランフレン何をやってるんですわよ!さっきから私様の方、に……」
と、振り向いたルピンの視線は徐々に上へ、上へと上がっていった。何かと思い、僕もその方向へと目を向けると…見えたのは、さらにそのサイズを大きくしていく“親衛隊長”の姿であった。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
元気に叫んでいる。
その巨体の端では、フランとフレンが困ったように白い帯を握っていた。
「……ど、どうしましょうね…?」
「ぼ、僕に聞かれましても」
みるみるそのサイズを膨らませていく様子に、僕とルピンは眺めていることしかできなかった。その時──────
ピ ロ ン
僕の端末が、一つの通知を受け取った。
“送り主 シークレット・サービス”




