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110話 出現

 

 僕は、変わり果てた“親衛隊長”と対峙する。

 突然の膨れ上がった巨体の出現に、会場中は阿鼻叫喚であった。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」


 彼女も、元気に叫んでいる。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

「おおい、なんで…何がどうしたらこうなるんだ…!キバさん!キバさんいるんでしょ?!説明求む!!」


 人々が走り回っている中、1人腕を組んでこちらを見ている者がいた。仮面で分からないが多分、キバだ。僕はキバに向けて、遠くから声を投げる。


「プリーズ!ヘルプミー!」

「恐らく“AC因子”を急激に増幅させる薬を投与されたんだー。今のソイツは亜人よりも“天使”に近ーい」

「“AC因子”って、ええと確か…とっ、とにかく!クソ強いってことでしょー?なんとかしてくださいよー!」

「逆に“AC因子”を減らすような薬を投与すれば何とかなるやもしれんが、私は持ってなーい。とりあえず私は先程逃げたヤツを追うことにするー」

「ええー、この子はどうするんですかー?!」

「お前がなんとかしろー」

「はっ?!あの?!失礼しますが、僕の右の腕折れてるんですけどー?!」

「お前ならできるー」


 そう言いながら、キバは足早にその場を去って行った。僕を信じているというより、丸投げしたような調子だ。キバが何とかできないと言った相手を、負傷した僕が何とかできるというのか?否、断じて否。


「いや、無理無理無理。ほぼ一般人なんだって!」

「うがぁぁぁぁ!!」

「って、おおいちょっとぉ!!」


 振り下ろされた腕は、真っ直ぐ僕の方へと。

 急いで僕はその場から立ち退いた。


 ド ゴ ォ ン !!


 さっきのスタンロッドの時など比にならない。

 ひび割れていた床ごと、叩き壊され、大きく凹んだ跡だけが残っていた。


「マジで死ぬやつきた…マジで、今日は調査だけって聞いてたのになぁ、おかしいなぁ…!?」


 気づけば周辺にいた人々は皆、避難しきっていた。

 間違いなくその辺にいた亜人が束になってかかった方がマシなはずだが、どうして僕1人が立っているのか。


「ひっ、く……ひっく……」

「…!」


 それは当然、亜人と言えど中身は普通の女の子だからである。怖かったら逃げ出すし、動けなくもなる。


 会場の隅で、うずくまって動かない影を見つけた。僕はその服装や体型から、彼女が昼にあった火川ニオだと確信した。


「っ、くっそ…最悪かよ…!」


 知らない方がよかった。

 もう引くに引けない。僕がこの場から逃げれば、ニオを見捨てることになってしまうからだ。


 見捨てたくない。

 これで彼女が死んだら僕のとこに化けて出そうだし。

 知り合いの友達ということで、寝覚めも悪くなるだろう。もし後でお互い生きて帰ったとしたら、普通に気まずいし。

 と、心の中で詠唱した。いつもの納得するための言い訳を。


「……ってことで、“親衛隊長”?大人しくしてくれると助かるんだけど…」

「うあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

「そうだろうとは思ったけどぉ!!」


 やはり僕へと真っ直ぐ振り下ろされる腕。

 僕は身をかわしながら、持っていた拳銃を“親衛隊長”へと向けた。


「腕折ったんだし、これでお互い様!!」


 片手で構え、引き金を引いた。


 パ ン ッ !!


 流石に的がでかいから命中…かと思いきや…


 ヒ ュ


「…へ」


 風を切る音と共に、“親衛隊長”の肉体から白い帯が飛び出る。白い帯は奇妙にくねったかと思うと、一瞬にして僕の放った弾丸を弾いてしまった。


「ちょ…何それ──────」


 そして、白い帯は真っ直ぐ僕の方へと向かってくる。

 速度と勢いからして、回避不可かつ、当たったら死亡ということ。それが何となく分かった。


 帯が視界を埋めつくさんとした、その時であった。


「──────あら、ボスが到着したというのに、誰もいないじゃない」


 辺りを黒翼が舞った。

 ギャリギャリ!と削れるような音とともに帯は僕の仮面を掠めて止まった。気づけば僕の目の前にいたのは、白い帯を受け止める小さなふたつの影。そして…。


「さて、私様の舞台を台無しにしたのはどこのどなたかしら?」


 コウモリの羽ばたきと共に現れたのは、かつての調査組北部隊隊長、雲林院ルピンであった。


 〜〜〜〜〜〜


 キバは駆ける。

 事を起こした怪しい人物を追跡するために。

 怪しい人影の背はキバの視界に捉えられており、追跡を振り切られる様子はない。


 “AC因子”を増幅させる薬。

 それは本来なら、理事長であるミルモが全て破棄したはずだった。だが、この街の暗い裏側再び出回り始めたのは最近のこと。キバはその源流となる何かを数ヶ月前から追い続けていた。


「逃がすか…!」


 右脚の“義足”が唸りをあげると、キバの身は力強く跳躍した。

 着地と同時、キバはあっという間に逃げていた影の目の前まで回り込んだ。

 見えた標的の顔は“DMK”の仮面により隠されている。


「ようやく…しっぽを出したな」

「はてぇ、私にしっぽなんて生えてないけどぉ」

「…無駄話はいい。その仮面を取れ」

「えぇ〜…もっと無駄話しようよ」


 キバは舌打ちすると同時に、義腕からワイヤを射出した。

 仮面に引っ掛け、仮面をはぎ取ろうとしたその瞬間──────


 ヒ ュ ル


「っ……!!」


 何かがキバの目の前を横切った。

 キバは反応し、即座に引いたにも関わらず、その時にはもう義腕は切り落とされていた。


「あれぇ、今の避けたぁ…?凄いねぇ!!」

「…なるほど。生えていたのは尻尾じゃなく、翼だったわけだ」


 白銀の翼が辺りを舞う。

 キバの義眼はその全てを分析し、それがどんな物質なのかを導き出す。が、キバはその情報を見るまでもなく、その羽根が何なのかを理解していた。


「“世羽根”…!つまり、お前が“癒す者”か…!」

「ピンポーン。僕が“癒す者”だよーん」


 忌々しそうに呟くキバ。

 対する“天使”は仮面を外さず、両手で作って見せた。

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