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108話 片鱗


 時は過ぎ、18時。

 僕はユユから送られてきた情報を頼りに、とある海沿いの倉庫へと来ていた。暗がりで目立たないが、その倉庫には明らかに人が集まって来ていた。


 基本的には、仮面を着けた状態で入場するようだ。

 開いた倉庫の入口前にはスキャナーを持った黒服の亜人が立っており、着けた仮面にスキャナーを通すことで入場者をチェックしているようだ。

 ここを通れなければ、調査もクソもない。


「頼むぞ…」


 クリフを信じ、仮面をつけて入場へと臨む。


 〜〜〜〜〜〜


 普通に通れた。

 仮面にスキャナーを通しただけで、心臓が爆発せんばかりの緊張が嘘みたいにあっさりした入場であった。

 中に入ると、同じ仮面を被った人々が机を囲んで談笑している。皆同じに見えるが、服装でギリギリ個々の違いが見い出せる。

 もう集会は始まっているのか、それともこれからなのか…。

 とりあえずうろついて、僕の“直感”が働かないか試してみようとした矢先──────


「おい、こっちだ」


 早速、他の仮面の者に呼び止められた。


「は、はい?なんでしょう」

「どうだ。“天使”はいそうか」

「えっ…!」

「声で分かれ」

「あっ、キバさん?!なんでここに」

「お前のサポートだ。感謝しろ」


 黒のシャツを着た者が腕を組んでこちらを見ていた。仮面の横から赤と黒の髪がはみ出しているのを見て、かろうじてキバだと気づく。


「今のところ“天使”はいないですね。ていうか、どこまで近づけば感じ取れるのか分かんないですよ」

「だろうな。とりあえず、今日1日は終わるまでいろ」

「えぇ…いつ終わるんですかこれ」

「20時が目安だ」

「マジか…めんどくせぇ…」

「──────あっ、“ファング”さん!もう入ってらしたんですね!」


 と、何やら遠くからゾロゾロ仮面の集団が寄ってきている。


「ファングって…すげぇ名前の人いますね…」

「……。」


 寄ってくる群衆に向かって、キバは無言で手を挙げた。


「えっ…?」

「ファングさん!ご無沙汰してます〜。今回の成果物はどのくらいで…?」

「20だ」


 キバが一言、それだけで群衆はワッと歓声を上げた。

 ふん、とキバは腕を組んだまま鼻を鳴らした。

 仮面で見えないが、得意げな様子だ。


「流石“ファング”さんだ。俺なんか6個ですよ」

「私なんか2個」

「ゼロです…」

「個数なんぞ気にするな。イタズラしてやったという、“バッド魂”が大事なのだ」

「ありがたいお言葉だ…皆“ファング”さんのような“バッド魂”を見習いましょう!」


 おおっ、と奮起する仮面の集団。

 僕は耳打ちでキバと会話する。


「キ、キバさん…“ファング”ってのは…?」

「私のハンドルネームだ」

「ぶふはっ!」

「…なんだ、死にたいか?」

「い、いや、その、ハンドルネームって言葉がキバさんから出ると思わなくて…へ、すいません」

「私はこの組織の監視のため、ずっと前からこ加入している。言っておくが、好きでやってるわけではない」

「は、はぁ…」

「“ファング”さん、その隣の方は?」

「新入りだ。右も左も分からんだろうから案内している」

「流石だ…!新人教育、ご苦労様です!それでは…」


 ゾロゾロと去っていく群衆に、キバは何も言わず手を挙げた。好きでやってないと言う割には馴染みすぎている気もするが。


「てか、治安維持が僕らの仕事でしょう?この組織は野放しでいいんですか?」

「これが街の平和を脅かせると思うか?答えはノーだ。所詮、ここの連中がやることはイタズラの域を出ん。むしろコイツらの行いで街が賑わうパターンもある」

「なる、ほど…」

「悪くても、せいぜい電子掲示板の書き込みが荒れる程度だ。その程度の“悪”一つを鎮圧しようとは思わん」

「流石“ファング”さんは本物の“悪”が分かってらっしゃる」

「私はいたって“正義”だが」


 亜人を人身売買していた人間が何か言っている。

 この人が正義だというなら、この世から悪人はいなくなってしまうだろう。

 今は丸くなったように見えるが、僕はこの人が過去にやったことを忘れはしない。

 あの日は、僕がむちゃくちゃ疲れた日なのだから。


「今更ながら聞くんですけど、キバさんはなんでミルモの味方をしてるんですか?キバさんとミルモって、相当仲が悪い印象なんですけど」

「利害の一致だ。私としては“天使”を殺したい。アイツも、“天使”を殺したい」

「利害どころか目的が一致してますけど」

「どうだろうな。アイツが何を企んで“天使”を殺したがっているのか、私にもよく分からん。だが、ヤツの力は利用する価値が幾分もある」

「…やっぱり、キバさんも“天使”に恨みでも…?」

「恨み…いや、使命だよ。我々の。悲願とも言うべきか」

「それって──────」


 どこかで似たようなフレーズを聞いたことのある気がする。


 ポン


 そんなキバに気を取られていると、後ろから肩に手を置かれた。


「──────そこの君」

「えっ、はい」

「その仮面はどこで手に入れたんだい?」

「…どこでも何も…」


 褐色肌の亜人はニコリとした笑顔で告げる。


「君、ウチの者じゃないね」


 バレた。

 なんの前触れもなく、あっさりと。


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