105話 死者にむち打ち
「誰だよ。死んだ人間を生き返らせたのは」
ロコは険しい表情でユユを見る。
ユユはたじろぎながらも、ロコの問いに答える。
「ミルモちゃんの判断だよ。シンイチさんが、私たちの最大の武器になるの」
「武器だと…?」
「ロコ、なにを怒ってるの?そこの方がどうかしたのかしら?」
「あ?分かんねぇのか…?二代目だよ。死んだはずの亜人管理官“サナダ”だよ」
「…!ほんっとだ!サナダさんじゃん!なんで?!」
「や、やあ久しぶり」
どうしたらいいか分からず、手を振る。
まさかロコに見破られるとは思わなかった。
「わぁー!久しぶり!覚えてる?ボククリフ!元気だった?!」
「元気なわけがないでしょ。死んでたんですから…先の話を察するに、ミルモさんが何かしたんですわね?」
「う、うん。ミルモちゃんが“サナダ”さんの因子で…」
「理由なんてなんでもいいよ!よかったぁ…サナダさん生きてるぅ…!」
僕の手を握り、クリフは嬉しそうに涙ぐんだ。
後ろに立っていたユニはその様子を見て、苦笑していた。
だが、ロコは一人、やはり浮かない表情をしていた。
「…アイツが何を企んでるのかは知らねぇが、死んだ人間を生き返すなんざ、通っていい道理じゃねぇだろ」
「グスッ…えぇー、いいじゃーん。サナダさんが生きてるんだからさぁ」
「馬鹿言え…絶対に何か代償がある…そんなホイホイ人が生き返るなら、世の中もっとおかしくなってるはずだ」
ロコは机に置いてあった端末をポケットに入れると、辺りを一瞥した。僕やユユを見た後、キバやスクネに鋭い視線を飛ばす。
「なんだ、いつからこんなに胡散臭くなったんだ。この組織はよ」
吐き捨てるように言うと、踵を返して、エレベーターの中へと消えていってしまった。
「…行っちゃった」
「ごめんねぇ。最近ロコちゃん気が立ってるみたいで。後でボクの方からミーティングの内容伝えとくから」
「あ、ありがとうクリフお姉ちゃん…昔からロコお姉ちゃん、ミルモちゃんとは仲悪かったもんね…」
「…あと一人いないみたいですけれど、もう少し待ちますの?」
「ううん。もう始めようと思う。いいよねキバさん?」
「ああ、気にするな。アイツはどうせ来ない」
まだ誰かいないようだが、皆は気にせず部屋の中心にあった縦長の机へと集まり始める。席はそれぞれの定位置が決まっているようで、皆吸い込まれるように椅子へと座っていく。
当然、僕には定位置なんてない。
わけも分からず、立ち尽くすのみ。
「シンイチさんはそこでいいよ。一回みんなに自己紹介するから」
「お、おお」
「シンイチ?誰?」
皆不思議そうに首を傾げる中、ユユはバインダーを持って、机を見渡せる位置に立った。
「それじゃあ“西天”の緊急ミーティング始めます。皆さんをお呼びしたのは他でもありません。我々“西天”に新たに幹部を迎え入れようという話です」
「いぇーい」
と、手を叩いて反応を示してくれるのはクリフだけ。
他のメンバーは退屈そうにするどころか、それぞれ私物を手に暇を潰していた。
「はい。皆さんもうご存知の通り、“西天”8人目となる幹部のシンイチさんです」
「…ど、どうも」
「シンイチってお前かーい」
「「……。」」
「…もしかして僕ってあんまり歓迎されてない?」
「気にしなくていいよ。皆いつもこんな感じだから」
「別に冷たくするつもりはありませんけど、盛り上がる気にもなりませんわよね」
「小僧がウチに来るのは分かっていたからな。驚こうにも驚けん」
「普通に興味ないっス 」
「ボクは嬉しいけどね!あっ、後でゲームしようよ!サナダさんが死んでる間に色々手に入ったんだよね!」
「う、うん…あと僕はシンイチね」
面子が面子なだけあって、クリフ以外は淡白な反応しか返してくれない。ロコがいてもきっと同じだっただろう。
「ということで、今日は新たな幹部であるシンイチさんに“西天”について知ってもらうと共に、私たちの目標について再認識をする場とさせてもらいます」
「…なら私は帰っていいな」
「あっ、待ってくださいキバさん!」
おもむろに席を立ち、どこかへ歩いていくキバ。そして、それを追いかけるスクネ。
結局席に残ったのはユニとクリフだけ。
ユユはうんざりした顔で、バインダーに閉じた資料をめくった。
「……はい。」
「いつも通りですわね」
「あれいつも通りなんだ」
「まあこのメンバーの方が気は楽だけどねー。ユニ、このお菓子食べていい?」
「タケノコの方でしたらいくらでも」
「じゃ、じゃあ続けるね…私たち“西天”と言えば、この“明星シティ”の治安維持を、代表理事長である“天野ミルモ”の下で行っています」
「……ミルモが、何て?」
「代表理事長。ミルモちゃんが」
「……はぁ」
「続けるね?」
何も言えなかった。
あまりにも、いきなりのことすぎて。
ユユからそんな話、まだ一度も聞いたことがなかった。いや、今説明されているのだが。
「ですが、それは表向きの話。私たち“西天”、特に幹部の皆様が目指すべき本来の目的は──────」
ペラ、と資料をめくる音が挟まれる。
「──────“四大天使の討伐”。そのために我々“西天”という組織は設立されたのです」
「…へ?」
「この目標達成のためにも、新たな幹部であるシンイチさんをこの組織に迎えたわけですが…」
「おいおいおい!ちょっと待て!」
割って入った僕を、ユニとクリフは不思議そうに眺める。まるでその全てを覚悟して来るのが当然かのような。
冗談じゃない、僕は何もかも今、ここで、初めて知った。だからこそ、もう一度問う。まだ、何かの間違いの可能性があるから。
「僕は、何が目的で、何をするために呼ばれたんだっけ?」
「…ミルモちゃん以外の天使の討伐」
ユユは事も無げに話し、ニコりと笑った。
「暇だから、何でもしてくれるんだよね?」




