104話 アセンブル
明星タワー前にて、僕はかつて“明けの明星”を襲った亜人、スクネと対面する。彼女は相も変わらず小生意気そうな顔をしていた。
「キバに続き君もいるんだ…ねぇユユ、本当にいいの?この人らがいて」
「キバさんやスクネちゃんはミルモちゃんが呼んだの。私たちにとっては頼もしい戦力になるからね」
「頼もしい戦力って…こんな物騒な奴ら揃えて何と戦うんだよ」
「それも後で説明しまーす」
「ひひ、サナダさんマジで何も知らないんスか?可愛そうですねぇ…」
「うるさいな…今日知るからいいんだよ。あと、僕はサナダじゃなくてシンイチだから」
「なんスかそれ。その格好といい、イメチェンなんスか?言われないとサナダさんって分かんないっスよ」
「いいんだよ分からなくて」
不思議そうに首を傾げるスクネを無視して、僕はタワーの中へと入る。
自動ドアが僕を迎えると、すぐに見えたのは受付をしている亜人。見事な営業スマイルを僕へと向けてくる。
「いらっしゃいませ。失礼ですが、どなたでしょうか?」
「ええっと…」
「ちょっと!勝手に先行かないでよ!あっ、マヤさん、この人が前に言ってた新しい人。怪しい人じゃないから、安心して」
「…左様ですか。申し訳ありませんでした」
「あっ…今僕怪しまれてた?」
「そりゃこんな格好した見知らぬ人が入ってきたらそうなるって…マヤさん、この人がシンイチさん。見た目はアレだけど、比較的まともだから」
「誰と比較してんだ」
「キバさん」
「まあキバさんに比べたら一般人レベルっスね」
何故かスクネが誇らしげだ。
普段のキバはそんなにヤバいのか…?
マヤと呼ばれた受付嬢は深々と頭を下げた。
「シンイチ様ですね。先程は無礼な発言失礼いたしました。あまりにも不審者じみた格好をしていたもので…」
「ああ、いいけど…もっと気を遣った言い回ししてくれない?」
「胡散臭い格好をしていましたね」
「…なんか辛辣すぎない?僕だけ?」
「マヤさんはいつもこうだから気にしないで。ほらさっさと行くよ」
引かれるがまま、受付の脇にあったエレベーターへと乗せられる。
ボタンが示すのは1Fと、最上階のみ。
並ぶボタンの上辺りには“幹部専用エレベーター”と書いたテープが貼られていた。
ウウウ…と音を立て、ガラス張りのエレベーターは上昇していく…。
「幹部専用…僕も乗ってよかったの?」
「シンイチさんはもう幹部だよ」
「もう!?僕まだ何の実績もないよね?!てかなんの組織だよこれ!」
「だから説明するって」
「混乱するのも分かるっスけど、大人なんスから落ち着いてください」
「僕は“大人だから”と言って我慢を強要してくる人間が1番苦手だ」
「めんどくせぇ大人っスねぇ…」
真顔で遠くを眺めるユユ。
冷たい視線を投げてくるスクネ。
何故こうも世界は僕に厳しいのか。
シンちゃんは泣いちゃいそうである。
ポーン
と、そうこうしているとエレベーターは到着した。
「遅いぞスクネ。使いを少し頼んだだけだと言うのに…む?」
まず見えたのはソファーにふんぞり返っているキバの姿であった。
「ウッス!すいません!プロテインとプリン、買ってきたっス!!」
「小僧か…!よく来たな、座れ。お前とは話したいことがいくらかある」
キバは僕から視線を外すことなく、スクネから受け取ったプリンを頬張り始めた。
スクネはと言うと、持っていたビニール袋からエクレアを取り出し、キバの横で食べ始めていた。
「え…いや、僕はキバさんと話すことはないです」
「そう言うな。昨日の敵は今日の友とか言うだろ。頼むぞ」
「キバさんが頼むなんて中々ないっスよ!サナダさん!」
「うるせぇなコイツら…」
「はいはい。談笑は後にして。今日はミーティングの予定があったでしょ?もう席に着いとこうよ」
「む、そうは言うが。まだ他の連中が来ていない──────」
ポーン
と、僕らが乗ってきたエレベーターとは別のエレベーターから、降りてくる人影が見えた。3人…僕はその姿に思わず後ずさりした。
「めんどくせぇ…こんな時間に集めるなんざ、なんの用だユユ」
「こらロコ。あまりお強い言葉使うんじゃありませんわよ。ユユさんだって好きで私たちを集めてるわけじゃありませんのよ」
「ボクは暇してたし丁度よかったけどねー」
音瀬クリフ。
紺野ユニ。
そして、乙川ロコ。
かつて調査組の西部隊だった武闘派の亜人達が揃って現れた。当然、彼女らの視線は僕の姿に留まった。
「あら、見慣れないお姿。ということは、お噂の新人さん?」
「男の人じゃーん。亜人じゃないの?どうして?」
「あ…?待て、お前…」
クリフとユニは気づかない中、ロコだけが眉をひそめた。そして、静かな動作で一瞬にして僕へと近づき、僕のかけていたサングラスを奪い取った。
「うあっ…ちょっと…!」
「…やっぱな。ユユ、どういうことだ」
「どういうことって、そういうことだよ。ロコお姉ちゃん。丁度今から説明するんだけど…」
ロコは僕の顔を見て、驚くでも感動するでもなく、眉間にシワを寄せた。“怒り”、今のロコの感情にはそれが含まれていた。
「誰だよ。死んだ人間を生き返らせたのは」




