扉の先には
私には、どうしても思い出せない記憶がある。何故、思い出せないのかは分からない。随分と昔の話である事だけは確かだ。私がこの先の為に成長するには、亡くした記憶を思い出すしかない。他の術はないのだから。
掌に目を落とす。この手で夢を掴めるだろうか。・・・・・・いいや、きっとできるはずだ。今日こそは、と決意を新たに手を扉にかける。是迄ならば、無かった手応えを感じる。
躊躇などする事もなく、全体重を掛け、扉を開く。ギッと軋んだ音を立てながら、淡い光が線になって漏れる。隙間から這い出た、仄暗く湿った風が頬を撫ぜた。新たな空気が訪れ、視界が眩む。
扉の先には信じ難い光景が広がっていた。私は今まで自分がいた場所を外側だと思っていたが、どうやら違っていたらしい。何故なら、扉の向こうでは霧雨が降っていた。
糸雨が体を濡らすが、そんな事はもうどうでもいい。天を仰ぐと、どこまでも広がる大空。遮る物は見当たらず、見渡す限りの雨とその先に続く地平線。私の内側はこんなにも豊かだったのか。
私はずっと閉じ込めた記憶を求めていたつもりだった。だが、それは間違いだった。私はずっと閉じ込められていたのだ。
今迄居た場所とは比べ物に成らない程明るい外へと出た事で、先程は気付かなかった物を見つけた。扉の横に赤褐色に錆びた鍵が落ちていた。それも幾つも。ああ、私はこんなにも愚かだったのか。
光が無ければ真実など目にできない。
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